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6. 格闘家

魔力の消費についてステータスに反映させていなかったので、反映させるようにしました(4,5話も修正済み)

「私にやらせてください」


 交差点の方から現れた6匹の猿を見て、シノは自分が戦うと言い出した。


「大丈夫か?」

「はい」


 猿はこちらに気が付いて、すでに駆け始めている。ナカトはシノの前に出ようとしたが、シノはそれを押さえつけ少しブツブツと呟いた後、近づきつつある猿に向かって、


「……(えん)


 と魔法を発動した。

 するとシノが伸ばした手のひらから6つの火の玉が一旦上空に打ち上げられ、駆けて来る猿達の背後から、まるで追尾するよう動きを見せ、それぞれに命中した。


「ビンゴです」

「ああ……すごいな」


 ナカトの初級雷撃魔法では、せいぜい痺れて動けなくさせるくらいの効果しか無かった魔法が、シノが撃ち出した炎撃魔法は、一撃で相手を消し炭にしてしまっている。


(同じ初級なのに……ステータスにあった魔法の数値が影響しているのか?)


 そんな事を考えながら、シノがあげた両手にハイタッチをしてみる。


「私の魔法、いけそうですね」

「そうだな」

「でも炎だけじゃ……早く他の魔法も覚えないと属性がぶつかった時に……」


 そういってシノが顎に手を当てブツブツと何かを言い始めた。


「あ、いや……あと2つばかり使えると思うんだけど……」


 ナカトはステータスで確認していた初級炎撃以外の魔法を思い出した。


「本当ですか! 教えてください!」

「ええと、まずは……」


 そう言いながらナカトはもう一度シノのステータスを出し、シノが使える魔法を読み上げる。


「空間圧縮と、腐食? ……というの魔法が使えるはずだ」

「空間圧縮……相手を潰して倒すような魔法ですかね。腐食は、腐らせるのか、酸で溶かす的な感じでしょうか?」

「どうだろう」

「それで、呪文は何て唱えればいいんですか? 空間圧縮だから(シュク)ですか? 腐食は何でしょう……()? (ショク)?」

「ちょっと待ってね」


 ちょうどその時、新しいメッセージが届いた。


『新しい魔法を認識しました。キーワードは次の通りです』

『初級炎撃:エン』

『初級空間圧縮:シュク』

『初級腐食:クサレ』


「ええと……魔法の呪文、解ったよ」

「えっ? 解ったって、どういう事ですか」

「うん、その辺は、あとでまとめて説明でいいかな」

「はぁ」


 シノには、自分の視野に届くメッセージや、ステータスの話しを伝えた方がいいのだろうか……ナカトは自分が勇者である事を出来るだけ伏せたいと考えていた。


(これが世界的な現象で、俺が世界唯一の勇者だとすると……かなりややこしい事になりそうだ。ある程度成長するまでは、目立たない方が絶対いいはず)


「とりあえず、呪文の話をしておくね。空間圧縮は『シュク』でいいよ。腐食魔法は『クサレ』が呪文になる」

「クサレですか」

「そう」

「相手を溶かすとうより、腐らせるようなイメージなんでしょうか……解りました。次、敵が来たら使ってみます」


 シノは、ちょうど交差点とアパートの間の地面が黒く滲み出しているのを見つめながら、そう呟いた。


***


 その後、ナカトとシノは同じ場所、すなわちアパートを出てすぐの場所にとどまり、魔物が現れる度に、魔法で打ち倒すという戦闘を続けた。


 ステータスを確認してみると、魔法を発動する毎に魔力が1つずつ減少しているのが解るが、魔力が尽きる前にレベルアップのタイミングがあり、その都度、増加分の魔力が追加されるため、ナカトの少ない魔力でも、対応が出来た。


(ライ)

(シュク)! ……からの(エン)


 3体の猿が消し炭に変わる。

 シノはさっきから空間圧縮魔法からの炎撃魔法のコンビネーションを気に入ったようだ。

 ちなみに、シノが試した腐食魔法は1回使って、封印した。


(あの匂いは耐えられない)


 猿達が地面に吸い込まれるまでの、ほんの少しの時間なのだが、急速に腐敗していく際に漏れ出す腐臭は、耐え難いものがあったのだ。


 ナカトが痺れさせた猿は、きっちりと木刀でトドメを刺す。


「ナカトさん! やっぱり、このコンビネーション、格好良いと思いません?」

「そう……かな?」

「そうなんですよ!」


 空間圧縮の魔法だけでは、瞬間的なパワーが乏しく、猿を簡単には倒すことは出来なかったのだが、炎撃魔法との組み合わせで、シノは凶悪な攻撃力を手に入れていた。


 シノがイメージする立方体の範囲に猿が入ったタイミングで、空間圧縮を発動。その立方体が縮まる。その結果、立方体内部の空気密度が急速に高まる。10メートル四方の空間がだいたい、1メートルくらいまで圧縮したタイミングで、炎撃による攻撃を加える。この時、空気の体積は元の10メートル✕10メートル✕10メートルの1,000㎥から1メートル✕1メートル✕1メートルの1㎥の高圧にまで圧縮されている。

 この状況でも魔物が動けている事は驚くべき状況ではあるのだが、そんな高圧な空間に猿という可燃物、炎撃という着火剤。


 空間圧縮の副次的効果で圧縮されているエリアの外に爆発の効果が及ぼないのが幸いだと言えるほどの爆発が、その狭いエリアで発生し、猿は跡形もなく消し飛ぶ。


(魔力を2消費するとはいえ、えげつない攻撃だ……)


 明らかなオーバーキルなのだが、それを言い出せず引きつった笑顔のまま、ナカトは今の戦闘に関してコメントを述べた。


「今のは単体か、空間圧縮の範囲内にまとまって攻めてくる敵には有効だけど、広い場所に展開して攻めてくるような相手だとキツイかもね。使い所を考えないと……」

「ナカトさん、何、軍師っぽい事を言っているんですか……フフ……諸葛孔明ですか?」

「え、あ、いや……」


 シノはそんなつもりはなかったのだろうが、ナカトはその一言に赤面をした。

 どこかに自分が勇者に選ばれたという、よく解らない驕りがあったのかもしれない。まだ、猿との戦いを数回経ただけなのに、もういっぱし気取りで戦闘を分析している自分に気が付かされ、ナカトは、その増長ぶりに恥じ入った。


 その雰囲気を察したのか、シノがフォローをしてくる。


「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃ……それよりも、炎と圧縮の組み合わせ、呪文を組み合わせて縮炎(シュクエン)って名付けちゃいます」

「名付けちゃいますって……えっ?」


 その瞬間、ナカトの元へ新たなメッセージが通知された。


『新しい魔法が発明されました。キーワードは以下の通りです』

『初級縮炎魔法:シュクエン』


(な、これはどういう事だ……)


「どうしたんですか? ナカトさん、急に固まっちゃって……」

「い、いや。ちょっと動かないで……」


 そう言って、ナカトはシノのステータスを改めて確認する。


名前:オクエ・シノ 

レベル:5

職業:魔法使い

体力:13

魔力:23/40

力:8

速さ: 5

魔法: 43

守り: 4

スキル:初級炎撃(Lv.5)、初級空間圧縮(Lv.5)、初級腐食(Lv.5)、初級縮炎(Lv.1)

称号:勇者の護り人


 レベルは先程の戦闘で上がっていたが、その際に確認したステータスでは魔法は3種のままだった。だが今は、


(新しい魔法が増えている……)


 しかもシノが言った通りの「縮炎」魔法だ。


「どうしたんですか……」


 ナカトの様子に、シノが首を傾げる。


「多分、シュクエンって唱えるだけで、使えると思うよ」

「本当ですか? っ! 縮炎(シュクエン)!」

 

 ナカトの言葉に一瞬微笑みを浮かべたシノの顔が突如強張り、ナカトの背後に手を向けて叫んだ。その瞬間、ナカトの背後からナカトの首筋に向けて牙を突き立てようと、飛びかかってきた猿が炎に包まれた。


「うわっ」


 至近距離から炎撃による輻射熱を浴びて、思わずナカトは伏せてしまう。


「すみません、急に飛び出してきたので」

「い、いや……ありがとう。こっちも油断していた」


(危なかった。背後から首をやられたら……)


 脳裏に交差点で首ごともぎ取られた人がいた事がよぎる。


「でも本当に、『縮炎』で出ましたね」

「そうだな」


 ステータスを確認すると、魔力も1しか減っていない。

 炎撃と空間圧縮の組み合わせでは同時に2ポイント、魔力を消費するので燃費が良いとは言えなかったので、ちょうどいいだろう。


 ナカトはそんな事を考えつつ、少し、慣れてきた今が危ないと考え、


「ちょっと落ち着くためにも、一旦、アパートへ戻ろうか」


 こう提案した。


「えぇ……まだ戦え……あ、いえ、すみません、調子に乗りました」

 

 その言葉に不服そうな反応をしそうになったシノも、ナカトの表情が少し油断していた直前の顔つきから、緊張して強張った表情に変わっている事に気が付き、素直にナカトの言うことに従う事にしたようだ。二人は……ほんの数歩歩いてアパートの敷地内に戻った。


 結局、アパートを出たところで最初の戦闘を開始してから20分足らず。

 わずかそれだけの時間の間に、二人で猿を19匹、倒している。


(このペースで、世界中が魔物に襲われているとすると……被害者はどのくらい出ているんだ……)


 ナカトにはスキル補助があるため、木刀で猿を斬り殺す事が出来た。その後、魔法を取得し、シノという仲間が増えた事で、対抗は出来ている。だが、職業「村人」の他の人達は……


(シノと俺の魔法も、このペースで戦闘をしていたらすぐに魔力が枯渇する。魔力は時間とともに回復すると説明にあったが、その回復ペースが解らない。1時間なのか1日なのか……そうなると、節約して行動する必要もある)


 ナカトの魔力は元々少ないので、実際のところ、もう1回レベルアップをしなければ枯渇寸前だ。シノも20分で18ポイントを消費している事を考えると、戦闘の継続時間は1時間程度が限界……いや、少し自重してもらえれば……


 そこまで考え、ナカトは首を振る。


(大丈夫、警察だって、自衛隊だっている。海外にも軍や警察がある……俺達が頑張らなくても……そう簡単に殺されたりはしていないはずだ)


***


「とりあえず、部屋に入ろう……」

「え、あ、はい」


 シノを促し、アパートの2階へ上がろうとすると、アパートの1階の端の部屋のドアが開き、女性が出てきて声をかけてきた。


「ねぇ! あんた達! さっきからのアレは何? どうなっているの?」

「あ、ああ。とりあえず、危ないので外に出ないで下さい」

「ちょ、ちょっと」

「あとで時間があれば説明にいきますので……いいですね。アパートの外に出ないようにしてください」


 タンクトップに短パンという出で立ちの20代半ばくらいだろうか……健康そうな小麦色の肌の女性が、サンダルをひっかけ玄関から完全に出てきて、腰に手を当て、仁王立ちになった。その表情は、あきらかにナカトの対応が不満だったようだ。


「今! ここで説明しなさいよ」


 強気の態度にカチンと来て、登りかけてきた階段を降り、ナカトも言い返そうとして、女性の太ももに貼られているガーゼに気が付いた。


 そして、改めて、女性の顔を見つめる。目鼻立ちがはっきりしていている。若干吊り目のため、キツイ印象だ。ショートヘアで頭にバンダナを巻いている。ジムかなにかのトレーナーなのだろうか。筋肉もしっかりついていて、スタイルは良い。


 だが、出で立ちや口調とは裏腹に顔色が良くない。太ももに貼られている大きなガーゼは、明らかに血が滲んでいた。


 高慢な性格だからナカトに高圧的に接しているのではない。

 精神的な余裕がなく、ヒステリーを起こす寸前なのだろう。


 そう思ったナカトは女性の物言いに強張っていた表情を緩め、優しく話しかけた。


「ペットか?」

「!」


 女性の顔が少し歪む。

 その様子にナカトは自分の右手を上げて、巻きつけたタオルを見せる。


「家も同じだ」

「ワンちゃん?」

「ああ……5年飼っていたチワワだ」

「そう……なの……ジュリアは、トイプードル……だったわ」


 言いにくそうに、その女性は告げた。

 過去形で話すという事は、この女性が飼っていたトイプードルも魔獣と化したのだろう。


「まだいるのか? 手伝うぞ」

「……もう大丈夫。もう……いないから」

「そう……か……」


(シロも消えてしまったし……多分、そういう事なんだろう)


「とりあえず、部屋に入れば安全だから……ちょっとだけ待っていれば……きっと、警察か自衛隊が……」

「さっきから、あなた達がしていた事は何なの? 何なの? ねぇ……頭がおかしくなりそうなの。お願い、何か知っているなら教えて! ジュリアはどうしちゃったの? テレビもスマホも駄目、電気も水道もガスも付かない! ねぇ!」


 女性はナカトと話し始めた事で、箍が外れたのか、ナカトに向かって叫びながら近づき、アパートの階段のそばにある郵便受けを殴り始めた。ナカトは慌て

「お、落ち着いて! ちょっと!」


 と、女性の腕を押さえた。


『勇者のパーティに格闘家が参加しました』


「はぁ!?」

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