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5. 魔法使い

予定変更、少し頻度を上げて更新していきたいと思います。

それと章題を変更しました「勇者覚醒→勇者誕生」


2016/11/9: 魔力の消費分をステータスに反映

「魔法……使い?」

「はい?」


 ステータス欄にオクエ・シノとあった女性をみつめ、ナカトはそう呟いた。


 シノは、引き起こしてくれたナカトの腕から逃れ、警戒するように数歩下がった。朝だからだろうか、ノーメイクに見えるが、目鼻立ちははっきりとした可愛い顔の女性だ。すこしタレ気味の目が、柔らかい印象を醸し出している。だがその目は、あきらかにナカトを警戒している様子だ。


 身長はナカトよりかなり低い。150cm前後だろうか。淡いピンク色のサマーセータにジーンズという服装、髪の毛はゆったりとカールがかかっているロングヘア。年はそう20歳前後……もしかしたら、もっと若いかもしれない。


 それがシノの外見から受けたナカトの印象だった。

 だが、その印象以上に衝撃だった事がシノのステータスから判明したのだ。


「……君が魔法使いだったのか?」

「え? な、何ですか急に……気持ち悪いんですけど……」


 ナカトが軽く手を伸ばし、一歩前に出ると、シノは2歩下がる。


 確かに警戒もされるような状況だ。

 このような事態ではあるが、Tシャツにスウェット姿、木刀を持ち、右手には血が滲んだタオルを巻いている。こんな人間が、「魔法使い」といいながら迫ってくれば、逃げ出したくもなると言うものだ。


 ナカトは自分の状況に気が付き、伸ばした手を下げ、一歩後ろに距離を取って頭を軽く下げた。


「あ、ごめん。えーと、とりあえず近づかないから、逃げないでくれるかな」

「はぁ」


 表情を見る限りは警戒を解いた様子は無いが、聞こえてくるシノの声はノンビリしたものだ。少し間延びした話し方をする人なのだろう。


 ナカトはそう思い、とりあえず会話を切らないために、言葉を続けた。


「えーと、俺はそこの住人、OK?」


 そう言って、2階の自分の部屋を指す。


「はぁ……あ、私はそこ」


 ナカトの言葉に反射的にシノはナカトの隣の部屋を指差す。

 警戒している相手に、すぐ自宅の場所を教えるのはどうかと思うが、同じアパートという事で、少し警戒レベルが下がったのかもしれない。都会に住んでいる割に、ご近所同士仲良くして行こうという、伝統的な日本文化に賛同している人なのかもしれない。


 ナカトも同じような考えは少しあったので、昨日、引っ越してきた際、隣の202号室へ挨拶をしに行っていた。だが、玄関には表札もなく、ドアをノックしても誰も出てこなかったので、空室だろうと諦めていたのだ。ちなみに、同じ2階にある203,204号室も同じような状態だった。


 部屋にバス・トイレが付いていたとはいえ、築50年近いボロアパートだったので、そんなものかと思っていたのだが、たまたま留守だったのだろう。


「そう……ですか。俺は田和、田和中人です。昨日引っ越してきました」

「……小久江です」

「小久江さん。下のお名前は?」

「……詩乃」


(ステータスの通りだな)


 ナカトとしては対人鑑定スキルの検証のつもりであったが、初対面でいきなりフルネームを聞いてきたナカトに対して、シノはより警戒を強めたようだ。また一歩、後ろに下がる。


「田和さんは、何をしていたのですか……」


 だが、あきらかに異常な状況だという事はシノも理解しているのだろう。木刀をみつめながら、ナカトに質問をしてきた。


「状況を確認するために交差点まで出ていって戻ってきたところです。詩乃さん……失礼、小久江さんは状況をどこまで理解しています?」


 職場の癖で、つい下の名前を読んだところでナカトはシノに軽く睨まれた。二代目社長の方針でファーストネームを呼び合う癖がついてしまっていたのだが、さすがにここでは通じなかったようだ。


 そう思ったナカトだったが、


「……シノでも構いません。子供の頃から、小久江は奥へ(・・)行けって男子に意地悪されていたので、あんまり好きじゃないんです」

「そうですか……じゃあ、シノさん、えーと」

「状況ですよね。道路が土になってしまったのと、牛? と、猿? が通りから走ってきたという事くらいしか……」

「じゃぁ、外で人が襲われているという事は?」

「外? 襲われている?」


 シノが首をかしげる。


「これは何かの撮影なのでしょうか?」

「いや、撮影ではないんだ……多分……さっき、猿が地面から飛び出してきたのを、見てましたよね」

「そういえば、そんな事も……男の人に抱きしめられるなんて、生まれて初めての事だったので、ついスルーしちゃってました」


 そういって、先程の事を思い出したのだろうか、顔を少し赤らめる。

 そしてなぜか一歩前に出てきた。


「あ、あれは咄嗟だったので申し訳ありません。それよりも……」


 見ず知らずの男が突然抱きしめたことで、致命的な出会いだったのではと少し心配はしていたのだが、シノがそれほど嫌がっていないようなので少し安心し、ナカトは話しを続ける。


「信じられないかもしれませんが、アパートの外は別世界のようになってしまっています」

「そう……なんですか……」

「先ほどから何人もの人が、さっき現れた猿たちに殺されて……そうだ。その部屋に住んでいた大家さんも殺されてしまいました」

「まぁ」


(大家さんとは仲良くなかったのかな?)


 シノの反応が、知人が死んだという割には薄いのが気になったが、


「一応、学生時代、僕は剣道をやっていたので、何匹かは倒したのですが……どうも、状況はかなりまずそうです」


 そういって、ナカトは唾を飲み込む。

 隣に住んでいたとは思わなかったが、ナカトが魔王を倒すために、この世界を救うために仲間にしなければならない魔法使い(シノ)が目の前にいる。


 ここは一緒に戦ってもらえるよう、説得しなければならない。


「そこで僕と一緒に、とりあえずこの状況を改善できないか、頑張ってみませんか?」


 戦うという直接的な表現を、ナカトは避けた。


「いいですよ」

「そうですよね。そんな事を言われても、無理ですよね。ただ、それでも……え、今なんと?」

「いいですよ。頑張りましょう」

「はい? あの意味解っています?」

「あれ……あれですよね。外に出て、お猿さんと戦うんですよね。大丈夫です。私、こうみえても結構身体は丈夫なので、お手伝いできると思います」


 ステータスを見る限り、体力とかはなさそうでなのだが、ナカトはあっさりとOKを出してくれたシノを訝しむ。


「さっきまで、俺の事、警戒していませんでした?」

「そうですね」

「でも、その俺と一緒に行動するんですか?」

「ええ」

「大丈夫ですか?」

「はい……こういう事態にあってもいいように、常日頃、シミュレーションをしていましたから」

「シミュレーション?」


 今度はナカトが首を傾げた。


「はい。朝起きたら異世界にいて、いきなりゴブリンとかに襲われても大丈夫なように、脳内シミュレーションはきっちりやっていましたので……お猿さんくらいなら、何とかなると思います」

「そう……なんですか」



(やばい、この子が何を言っているのか、さっぱり解らん)


「異世界じゃなくて舞台が現代日本。ジャンルは違っちゃいましたが、大丈夫です。あ、でもチート的な能力とか、私には付与されていないようですが……モブ扱いなんでしょうかね」

「モブ?」

「あ、気にしないでください。大丈夫です。能力が無いパターンもシミュレーションしてありますから、大丈夫です。さぁ、行きましょう」


 健気? にもシノは一瞬浮かんだ涙を振り払い、明るくナカトに告げ、一歩前に出た。


 突然饒舌になったシノ……喋る速度は変わらずゆっくりなのだが、何か達成感に満ちた表情で前に踏み出してきたシノに気圧され、ナカトは一歩下がってしまった。


「タワさん……あ、私だけシノと呼ばれているのは良くないですね。えーと、ナカ……トさんでしたよね。ナカトさん。ナカトさんは、何かスキル持ちだったりするんですか? まさか、主人公キャラ? それだったら、私が第1ヒロインの位置付けですね。護られる立場というのも、大丈夫。シミュレーションしてあります」

 

 ナカトの背中に冷たい汗が伝い落ちる。


(こんな子と一緒に……大丈夫か?)


「シ、シ、シノさん!」


 ナカトの声は裏返ってしまっている。


「シノさん、とりあえず僕が先に外に出て、安全を確認します」

「外?」

「そうです。そこ……」


 そういって、すぐ目の前の敷地の外を指差す。


「そこからが外です。この内側は安全地帯。猿たちは入ってきません。でも、そこから外は危険な場所です。いつ襲われるか解りませんから」

「なんだか、ゲームみたいですね」

「そ、そうですね」


(実際にメッセージが飛んできたり、ステータスが見れたりと、まんまゲームの世界っぽいのだが……)


「じゃ、行きましょう」

「いや、ここで待っていてください」

「そうですか……じゃぁ、行ってらっしゃい」

「……行ってきます」


 そう言って、ナカトは一歩だけ前に出た。


「来た!」


 先程駆け抜けていった猿の一部が道に残っていたのか、交差点とは反対側から3体の猿が、ナカトが敷地外に出たのに気が付き、ナカトの方へ牙を剥き出しにして向かってきた。


 だが、都合よく縦に並んでいる。

 これなら一撃でいける。


 ナカトはそう考え、猿の身体を電撃が槍のように貫くイメージを持って、


ライ


 と呟いた。


 その瞬間、ナカトの手から眩い光りが飛び出し、一瞬にして正面の猿を貫いた。

 猿達は走っていた勢いのまま、前へ飛び込むように倒れ、綺麗に並んでピクピクと痙攣をしていた。


 それを確認してナカトはシノの方へ振り返り、どう感じたのかを確認した。


「見ました?」

「見ました……魔法……ですか?」

「魔法です」

「……」


 シノが下を向いて何かブツブツと呟き、そのままアパートの敷地から飛び出してきた。

 そして、ナカトの腕をつかんで、今までとは違い、早口にまくし立てる。


「すごい! すごいです! ナカトさん! 魔法が使えるなんて、夢にまでみたチート無双の世界じゃないですか!」

「え、あ、はぁ?」

「やっぱりポジション的には第1ヒロインですか? 私、私、私!」

「ちょ、ちょっとシノさん、待って下さい」

「くぅぅ、これこれこれ! これを待っていたんです。ずっと部屋で引きこもりながら!」

「はい?」

「いやー、長い妄想生活、これで報われるっていうものです」

「はぁ」


 ナカトの中で、少し変わった人から、かなり変わった人という評価に変わった瞬間であった。


***


「それで、私の役どころは何なんです?」

「役どころ?」

「はい、この世界での役どころです!」


 何か水を得た魚のように活動的になったシノの姿に引き気味だったナカトだったが、これを気にシノの職業について話をしておこうと考えた。


「シノさんは……」

「もう、ナカトさんは主人公なんだから、シノでいいですよ」

「主人公? まぁ、いいや……とりあえずシノさんの職業は魔法使いです」

「魔法使い!?」


 今度は上空を見上げてプルプル震えている。


「魔法使い……魔法使い……魔法使い……」


 そして、目を半開きにして何やらブツブツと呟いている恐ろしい光景が展開されてるが、ナカトは先程の牛モドキが、まだピクピクしている事に気が付いた。猿も雷撃の影響で動けないが、真では居ない。


「シノさん」

「シノで」

「シノ……とりあえず、猿と、そこの倒れている牛? にトドメを刺してしまいます」

「はい、どうぞ」

「……」


(なんかやりにくい……)


「あ、そういえばシノさん。視界の中に白か赤の丸印が見えたりしていませんか?」

「なんですかそれ? あ! ステータスウィンドウですね!」

「知っているんですか」

「王道です」

「王道?」

「はい。こういう話ではステータスが見えたりするのがテンプレという王道パターンとしてあるんです」

「そうなんですか」


(シノは俺よりも、この世界に対する適応度が高いんだろうな)


 そんな事を考えながら、何やらあちこちを睨みつけているシノをみていた。だが、しばらくすると肩を落とし、


「ナカトさん……どこにも見当たりません。やっぱり私はモブキャラなんじゃ……」

「ごめん、シノさ……シノ。そのモブっていうのが解らないんだが……」

「雑魚って事です。雑魚」

「雑魚? いや、大丈夫。シノは間違いなく魔法使いだから」


 ナカトのその一言でシノの顔が明るくなる。


「そうですよね! ナカトさんが、そう言ってくれるなら、きっとそうなんですよね……でも魔法ってどうやって使えば……」

「俺の場合は、魔法をイメージして雷って呟くと魔法が出てくるんだけど……そうだ。シノは炎撃が使えるはずなので……そうだな、あの猿が燃えるようなイメージをして、『(エン)』って呟いてみて」


「はい!」


 ナカトの言葉にシノは大きく返事をし、猿に向かって両手を伸ばし、


「我が怒れる天地に眠りし炎獄の力よ、今まさに顕現せよ。我に集い、悪を滅せ。ファイアーボール……」

「……」

「……


 シノが助けを求めるかのようにナカトを見つめた。

 ナカトは囁くような小さな声で。

「えん」

 

 そう告げると、


「……あ! (えん)


 今度は余計な言葉は一切なく、呪文を呟いた。


 最後は恥ずかしそうにしていたシノだったが、その効果は絶大だった。

 ピクピクと仲良く3匹並んで倒れていた猿に向かってシノの手から巨大な炎球が飛び出し、猿に当たった瞬間に一際大きな炎となり、消えた。


 猿がいたあたりの地面が焦げたようになっているが、3匹の猿は跡形も残っていない。


(これ、周囲に類焼していたらやばかったな……)


 周囲はコンクリで出来たブロック塀だったから問題無いが、木造の建物でもあった場合は、一緒に燃えていたかもしれない。ナカトはそんな事を考えつつも、シノの力に慄いていた。


「ナカトさん! 私、凄いです! 凄いです!」


 余程嬉しかったのか、シノがナカトの腕にしがみついて飛び跳ねている。


(胸が当たっているんだけど……まぁ、いいか)


「シノ、次はあの牛だけど、まだいける?」

「はい」

「長い呪文みたいなのは役に立たないと思うので、さくっと」

「……はい」


 ナカトの注意を受けて、倒れている牛に向かってシノは手を伸ばし、


(えん)


 とだけ呟いた。


 今度は炎球が手のひらから飛び出る事はなく、


(不発?)


 そうナカトは感じたのだが、ナカトの見ている眼の前で牛の色が真っ黒に変わり、風が吹いた瞬間、サラサラと粉になって消えてしまった。


「今のは……どうやったの?」

「はい。周りに被害が出ないように、身体の中を一気に燃やし尽くすイメージでやってみました」


 どうやら、シノも同じ危険性を感じたらしい。今度は牛の体内から消し炭にするイメージをぶつけたようだ。


 そして同時に、ナカトに新しいメッセージが通知された。


『メンバーがレベルアップしました


名前:オクエ・シノ 

レベル:1→3

職業:魔法使い

体力:5→9

魔力:7/9→22/24

力:2→4

速さ: 2→3

魔法: 11→27

守り: 3

スキル:初級炎撃(Lv.5)、初級空間圧縮(Lv.5)、初級腐食(Lv.5)

称号:勇者の護り人


(いっぺんに2レベルも上がっている。牛の効果か?)


「シノ、何か体調に変化とか無いか?」

「体調ですか……どうでしょう。朝はいつも弱いのですが、少しシャキっとした気がします」

「そ、そうか」


 それはテンションが上がっただけという気もするので、レベルアップ自体の効果は、ナカトにはよく解からなかった。だが、パーティを組んで成長をしていくという目的に合致する動きであれば歓迎すべきだろう。


(あれ、俺……いつの間にか、勇者である事を受け入れている?)


 ナカトは、ついさっきまで、自分は狂っていると思っていた。

 二代目社長に騙されて狂った自分が、メッセージや、猿など、自分の都合の良いストーリーを脳内で勝手に作って暴れているだけ……


「シノ……さん」

「シノ」

「シノ……これって現実だよな」

「はい?」


 シノが何を言っているんだ、こいつは……という感じの笑顔でナカトを見つめる。


「いや、ごめん。俺が言い出したんだよな」

「そうですよ。これこそが、私が望んでいた現実です。モブキャラで終わるなんて、そんな人生はおかしいって、ずっと、ずぅぅぅっと思っていたんです。引きこもりでしたけど……」


 ナカトには最後の呟きはよく聞こえなかった。


「さぁ、ナカトさん。また来ましたよ。今度は5匹です」


 そういってシノは交差点に現れた新しい猿どもを指差した。

感想お待ちしております。

1、2週間に1度と昨日は書きましたが、序盤は可能な限りペースを上げて更新していきたいと思います。

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