表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

目つきの悪い二人短編

作者: ロベリア
掲載日:2016/06/23


 とある屋敷を、一人の少女が歩いていた。

 その見た目は小さく、しかし圧倒的強者としての存在感を放っている。

 目を向ければ自然と人垣が割れ、その歩みを妨害する者はいない。

 誰もが彼女を前にして、戦意を喪失していった。


 彼女の名はトーリス。元男が異世界から転生した存在であった。

 どういう訳か、男は遊んでいたゲームのキャラクターの姿に変化しており、力も現実では考えられないようなものになっていたのである。


 そして武勇で名を馳せたトーリスは、直接ではないものの、国家から依頼される程であった。

 例えばこうして、国家反逆罪で貴族を捕まえたりなどである。

 先ほどその貴族を押送したところで、敵味方を含めた監視のため、見回りの最中だ。

 トーリスは自身しか使えないマップ機能を駆使し、隙間なく確認していく。

 そこでふと、繋がっていない通路があることに気づいた。そしてその先には大きな部屋があり、多数の人もいる。

 これは行って確認しなければならない。

 マップで発見した隠し通路を筋肉開錠し、奥の部屋へと進んでいく。碌に清掃されていないことを示唆するように、歩くだけで埃が舞った。

 長い通路の果てに、一つの扉が現れる。人の闇を閉じ込めるために作ったような、そんな無骨な扉だ。

 鍵の掛かったそれを無理矢理抉じ開ければ、途端に鼻を刺激する悪臭。

 暫く腹の中で残りそうな異臭に顔をしかめながら、トーリスは中を眺めていく。

 そこには裸の女が多数拘束されていた。

 一応全員生きているようだが、死にかけている者もいる。


 これまで似たようなものを見てきたこともあり、別段驚くようなことはない。

 回復魔法を片っ端からかけていくため、拷問器具の間を縫うように歩く。


「…………!」


 そして、トーリスは彼女に出会った。


 ――――

 ――


「で、そこで拾ってきたと」

「違う、褒賞を辞退して、代わりに彼女の所有者となったんだ」

「どう違うんだ?」


 言われて腹が立ったトーリスは、幼い見た目に似合わない豪快さで酒を呷る。

 持っていたジョッキを空にするとテーブルに叩きつけ、そのままの勢いで捲くし立てた。


「全っ然違う。一目見た瞬間に欲しくなったのは認める。そこは違わない。

 彼女は無言だったが俺はちゃんと確認したし、所有者の男が捕まって、財産は全て国に没収された。

 つまり、俺は国から彼女を預けられた訳だ。

 そこらへんの犬猫を、可愛いからと拾ってきたのとは違う」

「ほー、オレには違いが分からんなぁ」

「そのクソみてえな頭で分からないなら、その口を閉じろ!」

「がははは!」


 男――マックルは豪快に笑った。

 大柄な彼とトーリスでは、まるで父と娘のように差があったが、その関係は友人である。

 特にトーリスにとっては、酒を飲みながら馬鹿な話ができる数少ない友人だ。


「それで、彼女を世話してたから、ここ数日姿を見せなかったと」

「衰弱しきって、いつ死んでもおかしくなかったからな。今はもう、少しぐらい動いても大丈夫なぐらい回復した」

「お前の回復魔法でどうにかならなかったのか?」

「回復魔法は『体力』を回復させる魔法だ。怪我を治す訳でも、病気を治す訳でもない。

 体は痩せ細ったまま、腹が減ってしょうがない。しかも体が痛い。そんな状態で体力だけが有り余っても仕方ないだろ」

「メンドクセエなぁ」


 そう言いつつも、マックルは不思議がっていた。

 トーリスは、他人からは無口で決して心を許さない人間だと思われている。

 彼からすれば無口なのは間違っていたが、警戒心が強いというのは同じだった。マックル自身も、運がよかったから友人になれただけだ。

 ゆえに、どうして執心しているのか気になる。

 クソみたいな頭で考えても分からないので、聞いてみることにした。


「なあ」

「ん?」

「報酬を蹴ってまで、どうしてそいつを貰おうとしたんだ? 胸か?」

「……俺、お前によく言ってただろ。俺は自分の姿が理想だって」


 よく言ってたな、とマックルは相槌を打った。

 トーリスは愛用していたキャラクターの姿である。つまり、自身が好みの姿そのものなのだ。


「俺は世界で一番自分が大好きだ」

「うわ……」

「確かに中身は理想とは程遠い。だが見てくれだけは誰よりも可愛いと思っている」

「トーリス、お前がなんて呼ばれているか知ってるか?」

「ああ、知っているよ。悪魔のトーリスだとか、殺し屋だとか、いろいろ言われてるな」

「その中に、ジェバのトーリスってのがある」

「ジェバ……? たしか少し昔の音楽家の名前だったな。

 有名な台詞に、『私の周りには精霊がいて、常に音楽を奏でているんだ』とか言った奴」

「そいつはいつも眠そうにしててな、目の下に酷い隈があったことでも有名なんだ。

 きっとトーリスみたいな感じなんじゃないかって言われてるよ」

「そいつが生きてて女の子だったら、口説いてたかもしれないな。残念だ」


 三白眼に隈と、トーリスは所謂『病んでる』と言われる目をしていた。

 別段病んでるのを目指した訳ではなく、目つきが悪い娘が好みというだけである。


「だが今の俺にはルニットがいるから、いても口説けないな」

「ルニット?」

「ああ、引き取った奴隷の娘だよ。有体に言って、一目ぼれをしてしまった。

 それぐらい可愛かった。

 俺はこの体が大好きだと言ったが、恋をしたのは彼女が始めてかもしれん」

「どんな凶悪なツラしてるのか、一度見てみたいな」

「ああ、一度だけじゃなくて何度でも見せてやるさ。ただし、今は駄目だ。

 ルニットが自分の家だと安心できるようになって、お前を客としてもてなすことができるようになるまで待て。

 それまで、ここで酒を飲んでるんだ」

「あぁいいねえ。ついでに花売りのねえちゃんもデリバリーしてくれよ。

 そうすりゃあ待っててやるぜ」

「ふざけんな。お前にいくら貸しがあると思ってるんだ。

 今回はなんの連絡もなく待たせてたから、こうして奢ってやったんだ。

 それに花売りのねえちゃんはお前にはもったいない。したいなら馬小屋にでも行くんだな」

「クソが! いつか蜘蛛の巣が張ったここに、オレの槍をぶッ刺してくれって言っても、指さして笑ってやるからな!」

「ああいいぜ。お前が、ケツの穴が閉じないっつって泣きついてくるのが先だろうからな」

「畜生が!」


 ――――

 ――


「ただいま!」


 上機嫌で言えば、家の奥からぱたぱたと駆けて来る音が聞こえる。

 程なくして現れたのは、トーリスより更に小さな体躯の少女。

 ルニットだ。

 トーリスは虹彩が小さい三白眼だが、ルニットは単純に半眼であり、あまり白目は目立たない。

 しかし、『目つきが悪い』や『目が死んでる』といった印象を受ける。そんな少女だった。


「お、おかえり、なさい……」

「よーし、よく言えたなー!」


 胸に詰め込むように抱き締め、嬉しそうに褒める。

 ルニットはなすがままだ。


 長い年月の間、あらゆる責め苦を受けてきたルニットはぼろぼろで、日常生活すら送れない状態だった。

 そして次の主人であるトーリスに対して不信感で一杯であり、自分は何もしないことを教えるのに、殆どの時間を費やした。

 引き取ってからの献身的な介護によって、ようやく打ち解けることができたのである。


 本当は彼女も分かっていた。

 しかし、前の主人がトラウマとなっており、今でも夜毎うなされては不安になってしまうのだ。

 そのことを知っているトーリスは、少しでも解消されるようにと、こうして抱き締めたりして親愛を示している。


 最初は、特に触れ合うようなことはせずに、傍にいるだけだった。

 しかしルニットの不安が破裂し、泣き出したときだ。男が廃ると抱き締めたのが切っ掛けだった。

 それ以降、こうして度々抱き締めるようになっている。


 トーリスとしても、抱き締めて安心してくれるなら、これ以上ないぐらい嬉しい。

 だが困ったこともある。

 それは抱いているとタガが外れてしまいそうになる、というものだ。

 今も酒臭い息を荒げながら、後頭部や背中に回した手が不意に下へ行ったりしないよう、全力で止めていたりする。

 好きな女の子を抱いているのだ。食指が動いてしまうのは仕方が無いと言えよう。

 しかし、最近ようやく抱き返してくれるぐらい信頼を得たのに、それを裏切るようなことはできない。

 ルニットの壊れた心を癒すために、トーリスはいいご主人でいなくてはいけなかった。


「やっ、ぱり、慣れない……」

「ん? ああ、『おかえり』ってやつか」


 こくり、と彼女は頷いた。

 もともとこちらの世界に、『ただいま』『おかえり』と言う風習は無い。

 トーリスとしても最初は教えないつもりだった。

 しかし、ルニットがいつまでも自分の家だと思えていないため、教えてみた。

 これで少しでもよくなればいいが、やはり違和感が拭えないらしい。


「別にいいさ、ゆっくり慣れていこう。

 少しでも自分の居場所だと思える手助けになればいいんだから。

 それでも駄目なら、やめればいい」

「わか、た……」


 背中をあやすように叩いてやれば、むふーと胸元から安堵のため息が漏れてくる。

 たったそれだけの動作ですら、トーリスにとって鼻血が出る程可愛く映り、撫で回したくなるのを必死に止めた。

 可愛さ余ってわちゃわちゃと撫で繰り回すだけで済めばいいが、自分の理性を信用していないため、激しく自制しているのだ。


「喉や体の調子はどうだ?」

「ん……い、ぃ」

「そうか。……もしかして眠いか?」

「すこ、し……」

「すまない。思ったよりも帰ってくるのが遅かったみたいだ。

 ベッドまで運ぶから、もう寝ていいぞ」

「う……ん……」


 見た目からは想像できない怪力を発揮し、ルニットを抱き上げる。ゲームキャラクターとしてのステータスを引き継いでいるからこそ、できる芸当だ。

 腕の中で、既に舟を漕ぎ始めている彼女を見ていると、胸が温かくなる。

 ベッドまで運び横たえると、どこまでも細い体が眼に入った。

 長い監禁生活で肉が削げ落とされ、僅かな運動でも疲れ果てて眠ってしまうルニット。

 そんな彼女を見ていると、幸せになって欲しいと願わずにはいられない。

 監禁されていたのは大勢いたし、中にはより酷い状態の者もいた。

 しかし、トーリスはルニットを愛してしまったために、特別そう思ってしまうのだ。


 ――――

 ――


「――でだ、オレは無理だ。無謀だって何度も言ったんだ。

 だってそうだろ? いくら貴族様の命令だって言っても、フォルニェクルースの山のドラゴンを狩ってこいって命令だぜ?

 だがトーリスの野郎は全然聞く耳を持たずにずんずん進んじまう。だからオレはその背中に問いかけた。

 そんな命令を聞いてまで、叶えたい願いってのはなんだ、ってね。

 そしたらなんて答えたと思う?

 その貴族の顔をぶん殴るためだってよ! 笑っちまうだろ!」

「あー、そんなこともあったねえ」

「しかもこいつ、本当に殴りやがったからな!

 あのときは本当に死ぬのを覚悟したし、オレがトーリスを殴ってやりたかったよ!」

「だってムカついたし」

「確かにムカつく奴だったな。

 だがその一件以来、トーリスに殴られた男って箔がついたらしく、少しはマシになったらしいぜ。

 まだムカつくけどな!」

「あはははは!」


 ばしばしと膝を叩いて笑うトーリス。

 あれから暫く経ち、約束通りトーリスの家にマックルを招待した。

 最初こそびくびくと接客していたルニットだったが、今では自然に笑いながら昔話を聞けるほどになっていた。


 トーリスがトイレに席を立ったタイミングで、ルニットはマックルに話しかけた。


「あ、の……マックル様に、お聞、き……したいこと、が……」

「なんだい嬢ちゃん」

「わた、私……トーリス、様に、恩を、返したいのです……。

 なにか、ないでしょう、か……?」


 マックルには心当たりがあった。最近酒場でトーリスと飲むときに、たびたび聞かされた内容だ。

 故に自信はあったが、勝手に言っていいものなのかどうか迷う。

 だがクソみたいな頭をしたマックルには難しい問題であるため、言うことにした。


 ――――

 ――


 マックルも無事帰り、もう寝ようという時間。

 一緒に寝るためにルニットを呼んだのだが、何やら様子がおかしい

 マックルを呼んだのは早計だったかと後悔していると、ルニットが口を開いた。


「あ、の……トーリス様……。

 こういう、こと、を……したいと、聞きました……」


 そう言って服を脱ぎ、全裸になった。

 長期間の監禁で病的なまでに白い肌。

 食生活は改善されたものの、量を食べることができず細いままの手足。

 そんなルニットの体が、隠すことなく全て晒されている。


 一応、裸は何度も見ている。風呂のとき、一緒に入っているからだ。

 しかしこの状況で、そんな台詞と共に差し出されたら、否が応でも心臓が跳ね上がってしまう。


 トーリスはすぐに悟った。

 マックルと酒を飲むとき、手を出しそうになったということを、たびたび喋っていた。

 そのことを、あの野郎は何かの拍子にぽろっと教えたのだ。

 今度会ったらふん縛って毛を一本一本毟ってやる。

 そんなことを誓っていると、ルニットは一歩近づいて続けた。


「私、は、歌えま、せん。

 踊ること、も、できません。

 学も、ありませ、ん。

 トーリス様に、できる、ことは、これくらい、しか……」


 ルニットはあらゆる拷問を受けてきた。その中には当然、性的なことも含まれる。

 だからこそ、手を出さないと決めていた。

 なのに……。

 彼女は恐怖で震えることなく、トーリスの目の前までやってきた。

 大好きな半眼が、強い意志を込めて見つめてくる。思わず目線を逸らしてしまった。


「ルニット……俺はルニットが心休まるよう、いいご主人様でいたかったんだ。

 前の主人と一緒だと、思って欲しくなかった。

 そして幸せになってもらいたかった。

 だから……だから、苦しい思いはしなくていいんだ」


 トーリスは必死に言葉を探した。

 自身にそのつもりはなく、する必要も無いとも伝えた。

 しかし――。


「私は、ここで、されない方が、苦し、く、思います……。

 どう、か……全ての記憶、を、トーリス様に、して、ください……」


 女にここまでさせてしまって、言わせてしまって、何もしない男がいるだろうか。

 いや、いない。

 無限に激しく鳴る心臓。どこまでも熱くなる顔。

 ルニットを持ち上げ、ベッドに押し倒すと、驚いたような声が漏れた。少し乱暴だったかもしれない。

 溶けた理性と蕩けた思考では、湧き上がる欲望を抑えることは不可能だった。


 いただきます。


 ――――

 ――


「という訳でだ、一応お前には感謝してるんだ」

「おう、そりゃよかったな。感謝のしるしとして酒の一杯でもくれていいんだぜ」

「ルニットは苦しいだけだと思ってたみたいだが、気持ちいいと知ってとても戸惑ってたよ。

 そのこともあって、ルニットは喜んでくれた。俺も嬉しかった。

 しかし一つ、残念なこともあった」

「ほう、なんだいそりゃ。

 ああ、もしかしてお前が下手糞だったってことか?」

「俺の友人の頭だよ、このボケが!」

「うおっ、なんだこりゃ! 動かせねえ!」

「本当は髪の毛を毟ってやるつもりだったが、感謝と差し引きで剃り上げることにした」

「意味分かんねえ! それをやって何になるんだ!」

「俺の気が済む」

「やめろおおお!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ