戦士の死
時魔導師がいることは予想されていたが、色彩魔導師までいるとは。
計画の段階でも警戒していたとはいえ、実際に二人の魔術師が敵方についているのは、かなりの驚異だった。
俺が状況確認のため周囲を窺っていたら、またしても報告が飛んでくる。
魔術をしかけてきたのは色彩魔導師、近くに時魔導師らしき姿もあるとのことで、彼らは戦力を一ヶ所にまとめ、こちらを波状攻撃している、とのこと。
どうやら、誘い込まれたのは俺たち帝国側だったらしい。
俺は一度振り返り、西の斜面からここまでどれくらい進んできたかを確認した。罠の設置場所につけた目印までは、もう少し距離がある。やつらを蜘蛛の糸で仕留めるためには、ここからさらに東へ、森奥へと追い込まなければならないというわけだ。
本来なら、皇国兵が自ら東側へ退却し罠にかかってくれるのが望ましかったのだが、やつらは予想以上に粘り強く、後退しつつも巻き返す機会を虎視眈々と狙っている。
もし、俺たちが魔法攻撃に怯んで後ずされば、すかさずそこをついて押し返してくるはずだ。規模は小さい敵ながらも、これまでになく手強い。こちらが精鋭で奇襲を仕掛けたのと同じく、向こうも強者揃いということだろう。
「……行くか」
両手で頬をぱんぱんと叩いて、気合いを入れ直す。
俺はじりじりと東側へ歩を進めた。しばらく行くと、砂埃を感じ鼻がむずむずしてきた。
徐々に、敵の魔術によって吹き飛ばされたとおぼしき一帯が見えてくる。土が大きく抉れ、太い木の幹までもが中から折れ、魔法の威力がどれほどのものだったかを物語っている。
周辺には、そのとき飛散した枝や石、そして、犠牲者とおぼしき肢体が転がっていた。
無惨にも屠られた仲間たちの姿が、俺の心を曇らせた。
そこから少し手前に、敵方の出方を窺い木影に身を潜める帝国軍人を発見した。隊長役のロルダンの姿もあった。
魔術師が構えているとあらば、無謀に突撃しても戦力を削がれるだけだ。仲間たちはやむを得ず一旦下がり、攻撃のチャンスを窺っていると見える。
俺は訓練で体得した身のこなしで滑るように移動した。
ロルダンは、茂みに潜んで近づいてくる俺の気配を察知し、肩越しにこちらを睨み付けてきた。
俺は間違って味方に攻撃されないよう、慎重に距離を詰める。ある程度近づき俺の姿が確認できるようになると、こちらを凝視していたロルダンは安全な相手だと判断し、再び敵が陣取る方向へと警戒の目を向けた。
ざっとロルダンの状態を確認したが、重傷は負っていないようで安堵した。あれだけ派手に暴れておきながら平然としてるのは、さすが、砦屈指の強者だ。
俺がロルダンに近づいたのは、歩兵部隊の隊長を務めるこの男と、事態を打開する策を練るために他ならない。俺はやつに接近すると、緊張しながら小声で提案する。
「まずは俺が、密かに魔術師に近づく。俺が敵に近づけるぎりぎりまで進んだら、あんたとデシデリオが先頭に立ち、他の仲間と一緒に突撃してくれ。俺はその隙をついて、魔術師を殺る。切り札である術者を無くせば、皇国兵は罠がある地点まで退がっていくかもしれない」
「……それがいいか。だが、てめぇにやれるのかよ」
鋭く見返され、俺は言葉に詰まった。
しかし、他の兵士が急襲役をやるよりは、ゴーチエの元で訓練を重ねた俺の方が適任だと思っていたのは事実だ。
自分で提案した作戦とは言え、重い責任を感じていたさ。ここで俺がしくじれば、俺の命だけでなく、部隊全体の命運に関わるかもしれないって。
それでも――。
「やるしかないだろ。だから、あんたとデシデリオも……やってくれ。俺たちが勝つために」
俺はロルダンを正面から見据える。やつは、橙寄りの瞳でしばし俺を見つめた。
ロルダンは顔を背け、感情を込めずにぼそりと返す。
「……デシデリオはもう戦えん。それはわかっておけ」
ロルダンは、顎でそう遠くない茂みの一角を指し示した。
俺は胸騒ぎを感じながら、ロルダンが示したものが見える位置までそっと移動する。
木の幹に寄りかかるようにして、大柄な男が倒れ込んでいるのがわかった。先ほどの爆発に巻き込まれたのだろう、胴の右側に太い木片が突き刺さっており、体のいたるところに深刻な裂傷が確認できる。
金属質な光沢を放つ義肢の左足と、血まみれになった顔が目に焼き付いた。
見るに耐えない姿になった仲間を、俺は息を止めて見つめた。
「助からん傷だ。じきに死ぬ」
ロルダンは無情に、簡潔に言い放つ。
――認めなくないむごい現実が、そこに展開している。
俺は、体が震え出すのをこらえられなかった。
関節が白くなるまで拳を握り締め、爪が手のひらに食い込んで血が滲んでも、力を緩めない。緩めることができない。
死にかけた男は――デシデリオは、少しだけ首をもたげ、俺を見ていた。
豪快な陽気さで仲間を活気づけ、勇敢な戦いぶりで味方を奮い立たせ、義足であるという身体的不利を全く感じさせない戦士。酒好きな楽天家かと思いきや、冷静な分析力と情報収集力で軍団を支え、ときには周囲が驚くほど冷利な面を見せる切れ者。
そんな男が、頼れる人生の師の一人が、今まさに、目の前で命の灯火を消そうとしている。
俺は、たまらずやつの側へ駆けた。何かができると思ったわけじゃないが、じっとしてられなかったんだ。
ひどい有り様のくせに、やつは近づいてきた俺に薄く微笑みながら軽口を叩いた。
「阿呆……俺に構ってる場合かよ、チビ助」
これだけの怪我だというのに、瀕死の仲間はしっかりと自分を保って喋っている。本当に気丈な男だったと思う。
言葉を返せず俺がじっと見つめていたら、デシデリオは血に濡れた左手を差し出してきた。俺が大きな手を両手で握り返すと、やつは安心させるように力を込めて握り返してくる。
「あとのことは……ロルダンに任せると……伝えてある。お前も……あいつと一緒に、戦ってくれるな?」
「……もちろんだ。だから、安心してくれ……絶対、絶対にやつらを倒してみせる」
俺の声は掠れていた。
返答を聞き、デシデリオは満足げに息を吐き出した。出血量が夥しいからか、多くの傷により既に感覚が麻痺しているのか、最後まであまり苦しそうな表情を見せなかったのは、せめてもの救いだ。
俺の手を握るやつの左腕から、次第に力が抜けていく。
「これまで、すまねぇな……」
それが――デリデリオ・グロンキの最後の言葉だった。
俺は、光を無くした戦士の目を食い入るように見つめる。
涙や嗚咽よりも先に、俺の口から言葉がこぼれ落ちた。
「……おつかれさん」
デシデリオという男を永遠に無くした事実を、俺は噛み締めた。
その瞬間の喪失感は、今も言葉では言い表せない。
それでも――こうして大切な仲間を看取ることができて良かったと――今は思っている。
じわりと潤んだ目尻を拭い、俺は再びロルダンの元へと引き返した。
デシデリオの死を悼みたいのはやまやまだったが、俺は俺の成すべきことを成さねばならない。犠牲になったデシデリオのためにも、必ず魔術師を仕留めなければならない。
涙を流すのは、その後だ。
俺が沈痛な面持ちでロルダンの元へ戻ると、やつは覚悟を問うように強い眼差しを向けてきた。
俺は、低い声で応える。
「……俺にやらせてくれ」
相手はしばし沈思したが、溜め息と共に宣言した。
「てめぇに任せる。時魔導師、色彩魔導師、どちらかだけでも上出来だ……なんとしてでも、殺れ」
俺は、俺に懸けてくれたロルダンに感謝し、意を決して動き始めた。
俺たちが先ほどいた場所からでは、魔術師の姿はおぼろげにしか認識できない。周囲を囲む皇国兵の姿に紛れることもしばしばで、狙いをつけるのは至難の技である。
(それでも、やるんだ。今は、俺が果たすべき使命だけを考えるんだ)
心を殺し、地に伏せたまま、それこそ蛇のようにやつらに迫っていく。
敵に接近するにつれ、姿を隠せる木や茂みは減っていくように感じられ、敵の目を忍んで接近するのは綱渡りのように危険な芸当だった。
俺は警戒の視線をかい潜り、太い幹の影に滑り込む。先ほどの魔術でなぎ倒された木々の一部は、皇国兵の視線を掻い潜る丁度良い障害物となっていた。
そっと顔を出して敵方を窺おうとしたが、剣を抜き放つ音が間近から聞こえ、ぎくりとして顔をすっ込めた。
もう、最前線の敵はすぐそこまで迫っている。少しでも余計な音を立てれば、存在が容易に発覚してしまう。敵に気づかれずにこれ以上接近するのは、難しいだろう。
左手の指を揃え、上から下に向かってふりおろす仕草――“首を断ち落とす”動作を元に俺が合図に設定したジェスチャーで、ロルダンに指示を伝える。
わずかな間、無音の時が流れた。
「――行け!!」
ロルダンの荒々しい怒号が轟く。
地を震撼させるような勢いで、雄叫びと共に帝国兵が木の影から飛び出す。
帝国側の突撃開始を見て、対抗する皇国陣が即座に動いた。
そんな中、敵陣の奥から、兵士たちの喊声とは異質な声が上がる。
「大地よ、貫け!!」
老齢にも聞こえるこの声の主は――
(色彩魔導師か!!)
俺は、声が響いた方へ体を向け、大砲のように空を切って駆け出した。
それと同時に、魔術師の呪文に合わせ、地面が至るところで隆起する。
俺の行く手や、仲間たちが戦う足元に、謎の振動が伝播した。
土くずと落葉を撒き散らしながら、杭の先端のようなものが地表から顔を覗かせる。
感覚的に、地面からの攻撃が飛び出してくるというのがわかった。
仲間たちも同じ危惧を覚えたらしく、魔術で蠢く大地の上、ロルダンが声を張り上げた。
「下からくるぞ!! よけろ!!」
もちろん、敵の術にむざむざ殺られるつもりなどない。
軸足である右側にぐんと力を込め、膝のばねを最大限に利用し、前方に回転しながら飛び退く。
俺が地を弾いた刹那、地表のひび割れから一瞬赤い閃光が放たれた。それと同時に、地から顔を覗かせていた杭の先端が、意志を持つ凶器のように突ん出す。
俺の体は、杭に貫かれる直前で地表のひび割れの上を通過した。
魔法の土杭をよけ、前方へ、隊列の隙間へと飛び込んだ勢いそのまま前転し、敵兵の波を一つ突破する。
一番近くにいた皇国兵が、帝国兵接近に気づいた。単身の突撃とはいえ、ここまで早く突破されるとは思っていなかったらしく、相手は混乱した顔つきで剣を俺に向けてきた。
だが、敵は慌てたらしく、俺からすれば隙だらけだ。
「らぁっ!」
俺は下方から飛び上がる勢いを利用し、ダガーを敵の顎下から突き通す。
返り血が大量に降りかかり俺の顔を汚したが、気にしていられなかった。ついで、騒ぎに気づき迫ってくる他の兵士の動きに注意を向けた。
先ほどの仕留めた男の体を敵の方へ蹴り飛ばしてやると、それにぶつかりバランスを崩した敵の一人が、仲間の体にうっかり斬撃をお見舞いする。運が良かった。
他の敵兵も俺の存在に気づき、「鼠みたいにちょろちょろしやがって!」という罵りを浴びせてきた。
予想以上に迅速に対応され、敵の意識が俺に集まり出している。思わしい状況ではない。
四方を塞がれかけた俺が、どうするべきかと半ば冷静さを失いかけたとき――。
側方から敵兵の悲鳴が多数上がった。直後、俺ににじり寄る敵兵の一人が背中からばっさりと斬り捨てられた。
血飛沫の向こうから表れた男は、野獣のように目を光らせながら吼える。
「こいつらは俺が抑える! 早く魔術師を殺れ!」
武神と謳われる戦士、ロルダンだ。
やつの指令を受け、俺は視線を再び標的へと戻した。前方を阻む兵士たちの壁の向こうに、数人の軍人と共にこちらを見ている人物を確認する。
一人は、初老とおぼしき恰幅の良い男。こちらは軍服を着ているものの、先ほどの魔法攻撃のときに声を張り上げていたことから、色彩魔導師だと目星をつけていた。
もう一人は、フードを目深にかぶり顔を隠した人物。容貌がはっきりしないが、こちらが時魔導師だと思われる。
これまで、はっきりとした実像をとらえられていなかった魔術師たちが――ようやく手が届く距離にまで姿を表した。
あとは、俺が役目を果たすだけだ!
「任せとけ!」
俺は鋭く声を張り、ロルダンが敵兵を薙ぎ倒していく側面を潜り抜けた。
低い体勢を維持し、地すれすれを滑空するように、地表から突起した杭と皇国兵の間を縫って突き進む。
猛然と駆けてくる俺を見て、色彩魔導師は表情を強張らせたものの、退くそぶりは見せず、朗々と呪文の詠唱に入った。俺に討たれるより先に、魔術で仕留めようというのだろう。
だが――やつは俺の行動を読み違った。
それこそが運の尽きだ。
俺は右腕を目一杯引き、胸を張る。それと同時に足を踏ん張り、土埃を上げながらその場に急停止した。
俺がなにをするか察した魔導師は、とっさにその場から飛び退こうとする。
俺は相手の動きに合わせて狙いを修正し、正確に、魔術師めがけてダガーの一撃を投げ放った。
空を滑る刃の一閃は、色彩魔導師の体へ――丁度腹のど真ん中に、吸い込まれるように命中する。
大柄な魔術師はうっと短く声を上げ、自身の体に深々と突き刺さったダガーの柄を、信じられないという顔で見つめた。
やがて、標的の体がぐらりとよろつく。
側にいた兵士と時魔導師が、慌てて色彩魔導師の体を支え起こし守りの体制に入った。やつらは俺に憎悪を宿した目を向け、唇を噛み締めたり、何事かを叫んだりしていたが、俺が敵の的にされるより先に、帝国の仲間たちが動き始めていた。
全力の投擲後、バランスを崩し地面に膝をついていた俺の元に、一つの足音が近付いてくる。
「よくやったな」
砦中の若手が慕う曹長、ジャベリンが俺を誇らしげに見つめていた。
ジャベリンは、火傷後が露になった右腕で俺を助け起こしてくれた。俺は荒い呼吸のまま、改めてじっくり周囲を確認した。
ロルダンを筆頭に、勢いづいた帝国兵たちが皇国兵を次々に薙ぎ倒していく。戦況はこちらが優位と見て間違いない。
中には、武器を捨てて逃げ出す皇国兵も確認できた。敵の士気は、目に見えて減退しつつある。
「見ろ。魔術師たちも退却していくぞ」
ジャベリンの言葉を受け、慌てて魔術師がいた方向に目を戻した。
俺がダガーを命中させた色彩魔導師は、皇国兵数人がかりで担がれ、生き残った仲間たちと共に東側へと撤退していくところだった。
やつはまだ生きているものの、ぐったりとした生気のない顔をしていたため、もう戦えるだけの気力はないだろう。切り札であった色彩魔導師が倒れ、敵方はついに逃げ出す覚悟を決めたようだ。
しかし、フードの男――時魔導師とおぼしき男はまだ無傷のようだ。
時魔導師がまだなにか仕掛けてくるかもしれないと感じた俺は、無意識に、撤退する敵を追って足を踏み出していた。
「大丈夫だ、ピトン。あとのことは、俺やゴーチエに任せてくれ。君は充分奮戦してくれた。もうふらふらだし、体力も残っていないだろう」
俺の行く手を遮り、ジャベリンが肩に手を置いてきた。
極度の緊張が続いたせいか、未だに責務を果たした実感がない。俺は無心で先輩の顔を見返していた。
が、ジャベリンのいつもの穏やかな微笑を見ていたら、気が抜けて疲労がどっと押し寄せてきた。
同時に――多くの仲間を失ったという、残酷な現実を目の前に突きつけられ、胸が詰まる。
「…デシデリオが……」
俺がなんとか一言そう言うと、ジャベリンの手に力がこもった。
やつは、表情だけは冷静に頷いてみせる。
「……ああ、わかってる。大きな……大きすぎる損失だった。デシデリオのみならず、この戦いで散った仲間たちはみんな、なくすには惜しい人材だったよ」
やつは深く息をついて目を閉じ、しばし黙祷を捧げた。
顔を上げたジャベリンは、今にも膝から崩れ落ちそうな俺を仲間たちの方へ軽く押し戻した。
「俺は東に向かい、最後の仕上げをしてくるよ。一人残らず仕留めるっていうのが、この作戦の本懐だからね。なに、心配は無用だ。向こうには罠もあるし、ゴーチエもいることだから……そう時間はかからないさ」
矢先、皇国方が逃げていった先から、俺たちが仕掛けた罠が発動したとおぼしき炸裂音と衝撃が伝わってくる。
「蜘蛛の巣にかかったようだね」ジャベリンは静かに言った。
「これでやつらの壊滅は確実だろう。もう逃げられはしないさ」
槍士はそう宣告し、森の奥へと踏み込んでいった。
疲れきった顔でやつが消えた木々の間を見ていたら、見知った声と共に背中をどつかれた。
「ピトン! 良かった、作戦は無事に成功しそうだな!」
負傷した左腕を包帯で吊り、右手だけで剣を握ったライグが現れる。
そんな重症でのこのこ前線に出てくるんじゃねぇと怒鳴りそうになったが、もう周囲には残兵もあまりいないようで、差し迫った危険は感じられなかった。後方で支援に徹していたとおぼしきアルガンまで、ライグと共に俺の側にやって来ていたんだから、こちらの優勢は明白だ。
俺は、ジャベリンやゴーチエたちが最終工程をこなしていることを二人に教えた。ライグは勇んで追撃に向かおうとしたが、俺たちが状況を伝えあっているうちに、殲滅へ向かった仲間たちがぽつぽつと戻ってきて、残兵確認が終わり次第撤収だと知らせた。
俺たちが仕掛けた罠も、闇討ちのプロであるゴーチエも、実に見事な働きぶりだったようだ。全ての敵を狩り尽くすのに、思ったほど時間はかからなかった。
帝国兵たちは、なんとか任務を遂行できたと知り、安堵の息をつき、歓喜の声を上げたり、互いを労ったりした。ライグとアルガンも、互いの無事と作戦完了を喜ぶ。
俺はそんな二人に、遣り切れない犠牲があった事実を伝えなければならなかった。
ライグが浮かない様子の俺に気づき心配してきたところで、ようやく遺体がある場所へと案内する決心がついた。
俺についてくる間、二人はひどく大人しくて不安そうだったよ。俺の態度から、並々ならぬ悲嘆を感じていたんだろう。
義足の武人の亡骸を目した二人は、長い間押し黙っていた。
永遠にも感じた静寂のあと、ライグが横たわる仲間の体に近づき、冷たい血まみれの手にそっと触れた。
もう二度と、やつの陽気な笑い声を聞くことはできないのかと、確認するみたいに。
ライグが動かないデシデリオをじっと見つめる中、アルガンが膝をついてすすり泣き始める。
俺たち三人の中で、一番最初に涙を見せるのはいつだってアルガンだ。
ライグは唇を噛み締め、俺は天を仰いで、こぼれ落ちそうになる涙を、長い間こらえていた。




