【01-04】もう1人の聖女様の転生
私の名前は、イズミ=エステイル=ハーネスト。
この世界に来て、早15年になる転生異世界人である。
ちなみに、赤ちゃんからの転生選んだ普人族(この世界では『ただの人間』ですね)です。
今は、神民として出家しているので、家名はなく『シスター・イズミ』、もしくは『聖女様』などと呼ばれています。
生前私は、地球という惑星にある日本という国の、一地方都市に住んでいた女子高生でした。
その時の私の名前は、藤堂和泉。
私が通っていた高校では、凄惨なイジメがまるで数十年続く伝統のように、各学年毎に2人の男女に対して行われていました。
そのイジメの対象が、私と、もう1人の”男の娘”です。”男の子”ではなく”男の娘”です。
名前は武蔵出雲君といい、一緒にイジメを受けだしてからは、常に隣にいてくれた私の大切な男の娘でもあります。
私がいた3年生は特に酷く、校内にいる時は、出雲君とともに全裸でいるのは当たり前。暴行されるのも当たり前の環境です。
もちろん、私たちの両親もいろいろと動いてくれていたのですが、所轄の警察署長の息子が主犯格なため、所轄で握り潰されてしまい相談をするたびにイジメがエスカレートしていったのです。
ちなみに、『市長の息子』・『県議会議員の娘』・『所轄の警察署長の息子』・『消防署所長の息子』・『市議会議員の娘』・『通っていた高校の理事長の娘』。
この5人が私たちをイジメていた主犯格です。
そして・・・・・、寒さも厳しくなった11月のあの日。
私と出雲君は、学校屋上で自殺をしました。
置き土産とともに・・・・・。
その後私と出雲君は、この世界に転生する事になります。
転生する際、私が選んだのは、赤ちゃんからの転生であり、15歳の成人まで記憶を封印するという事です。もちろん、この世界の最高神様と転生前に出逢って会話をし、いろいろな能力をもらっています。
私が貰ったモノは、『固有能力』と呼ばれている能力から、『ストレージ』・『治癒の極み・』・『極大魔力』の3つ。
『習得技能』と呼ばれている能力から、転生特典?である『エジャプルス言語知識』・『異世界(地球限定)知識』の2つのほかに、『魔導』・『医学知識』・『料理』の3つです。
魔法を使うために必要な『魔力属性』から、『光』・『風』・『水』の3つを選びました。本当は、私も5つずつ貰える予定でしたが、私のとある我儘を叶えるため、3つずつになってしまいました。
しかし、これでも、『神童』と呼ばれる類の下のほうに配置するとの事。
スキルや魔力属性はともかく、ギフトが3つもあるのは、この世界でも1割くらいしかいないんだってさ。それならば、5つももらった出雲君は、何て呼ばれるんだろうか?
最高神であるアメンラウドさんから聞いた話によると、私の大切な男の娘である出雲君は、『3歳の若返り』での転生を選んだとの事で、固有能力・習得技能・魔力属性ともに5つずつ選んだとの事。
ちなみに、私の我儘とは、『私が15歳になった時に、出雲君とどんな形でもいいので再会したい』というモノ。この時に、性別まで指定しなかったため、まさかあんな形での再会になるとは思ってもみませんでしたが。
この我儘を叶えるため、出雲君には、この世界の神界で、15年間眠りについてもらう事になります。これを行うために、貰えるものを2ずつ減らされたのですが、私にとっては出雲君との同年齢での再会さえ果たせれば、そんな事はどうでもいい事に分類されています。
話は変わりますが、召喚される勇者の場合は、そもそも世界神様との会談は予定されてなく、貰えるギフトは、世界を渡る際にランダムで付与されるとの事。これは、この世界を創った時の初期設定らしく、その際付与される能力の数も”召喚される人数”もその時々で違うらしい。
人数といったのは、召喚する際の魔力を補うため、勇者の周囲にいる者たちを巻き込むんだって。魔法が一切なかった(実際は使える人はいたらしいが、魔法と認知されていなかったみたい)地球に、魔力があった事は驚きだよ!!アメンラウドさん曰く、どの世界にも魔力も元となる物質『魔素』はあるのだが、それを使えるかどうかは別の話だという事だ。
それはいいとして。
勇者を召喚する魔力は、召喚される世界と召喚する世界との距離
そのため、召喚するこの世界の住民が、その数だけ召喚陣の周囲に集めれば巻き込まずに済むんだけど、そんなことはこの世界の住民は知らないらしい。仮に知っていたとしても、召喚者の権威を高めるために、わざと少人数で行っている可能性もあるんだとさ。
召喚される側にとっては、はた迷惑な”言い訳”だよね、・・・・これ。
召喚前に出逢えるのは、世界神様を含めた神々の気まぐれであり、その気まぐれを行った時は、私たちのように能力を選ぶことができるみたいだ。
しかし、残念なお知らせがあります。
この世界には、"ステータス"を視る事ができないのです。さらに言えば、私は、赤ちゃんからの転生を決めているため、15歳になるまでは、記憶を封印してもらう予定になっています。
そして、私の能力は、5歳の誕生日までは完全ではないにしろ、ほとんど封印されているとの事。特に極大魔力は、命の危険に曝されない限りは発動自体しないみたいだ。これは、幼い頃に必ず起こる、『魔力暴走』という儀式みたいな出来事の影響を、少しでも抑える事が目的みたいだ。極大魔力が、発現している状態でこの魔力暴走が起こると、洒落でもなく私が暮らす予定の町が地図から消えるらしい。
そして、私は、ノースアトランシア大陸とサウスノースアトランシア大陸との距離が、最も近い場所に存在している島嶼国、シンガーハット王国という国の公爵家の第2令嬢として転生しました。
ここで、シンガーハット王国について簡単に紹介します。
南北アトランシア大陸の陸路での通商路となっている重要度の高い国家で、一番大きな島であるハーブル島を中心として、大小50余りの島からなる、赤道直下にある陸路と回路が交差する通商国家でもあります。
ちなみに、南北アトランシア大陸とハーブル島は、その途中にある島を経由したつり橋で相互に結ばれているため、天候が悪くなければ歩いてでも南北の大陸間を横断する事が可能です。もちろん、橋を渡るには1つの橋毎に渡橋料がかかりますが、それは橋の維持費としてとられているモノで、基本的には渡橋料のほかに、それぞれの国境で出入国税が徴収されます。
ハーブル島は、佐渡島と姿かたちが似ており、面積も同程度の大きさしかありません。しかし、平野部はすべて都市化されており、王都ハーブルプレスとして栄えています。西側の湾に商業港が、東側の湾に軍港が整備されています。その関係で、王城や貴族街は東側に、庶民街は西側となっています。
南北の山間部はすべて神域となっており、基本的には立ち入り禁止区域となっています。しかし、唯一立ち入る事が出来るのが、南北の大陸を結んでいる橋を含めた街道になりますが、山をぶち抜いているトンネルでの通行となっています。
王都ハーブルプレスは、人口約50万人。
シンガーハット王国の政治・経済の中心地である王都であり、陸路と海路の交差する商業都市であり、アメンラウド大神殿の建つ宗教都市の一面も併せ持っています。
南北のトンネルを抜ける街道と、東側の港と王城の正門を結ぶ通りがメインストリートとなり、それぞれが交差する場所にアメンラウド大神殿が聳え建っています。王城は、東側の軍港を背に建っていますが、どちらかといえば宮殿と称したほうがいい造りとなっています。
私が暮らす町の解説はこのあたりで終え、転生後の私についてお話します。
まずは、私の家族の紹介からですね。
それぞれの名前については、申し訳ないですが割愛させていただきます。
私には、2人の兄と1人の姉そして、双子の弟と妹がいます。
一番上の兄様(18歳)は、父様の仕事の補佐(父様の仕事は私の国の宰相様です)として、将来宰相となるため仕事を覚えています。
2番目の兄様(16歳)は、今年王都の騎士学校に入学。将来は近衛騎士となるため日夜頑張っております。
姉様は、今年20歳になります。16歳で当時第1王子様(現在22歳)と結婚、現在は王大使になっているので王太子妃様と呼ばれ、すでに1児(王女様)の母となっており、将来は王妃様になる事が決定しています。現在おなかの中に2人目のお子様がいるらしいです。
そして、年の離れた6歳になる双子の弟と妹。ちなみに、この世界においては、双子を『忌み子』とする文化はありません。
で、私ですが。
5歳の時に、転職神殿で魔力属性を調べた際、蘇生・光・風・水の属性を持っていることが判明。さらに、『治癒神の加護』がある事も判明したため、私は親元を離れて5歳で出家する事になりました。
この時は、なんで??と思いましたが、今思えば、自分自身で選んだ能力でしたね。
その後私は、自分自身で選んだ能力の甲斐あって、神民として出家してから3年後には、数段飛ばしで『修道女』に職業がランクアップします。本来は、初心者⇒魔法使い⇒聖魔術師⇒修道女⇒聖女⇒聖女姫の順で、10年から15年かけて職業がランクアップしていくらしいのですが、私は、修道女になった5年後の13歳の時に、聖女へとランクアップします。
そして、15歳の誕生日の日。
世界神『アメンラウド』様から神託を賜った結果、私は、神職女性の中で最高権力者である、『聖女姫』へとランクアップを果たしてしまったのです。この職業であり階位でもある聖女姫(階位で言うと『第19代世界神眷属聖女姫』となりますが)、実は、神殿内では教皇様よりも立場が上なのです。何故なのかというと、初代聖女姫まで遡るので、ここでは詳しくは話しませんが。
で、これが、現在の私の『職業刻印板』となります。
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=身分証明証=
【名前】イズミ
【性別】女【年齢】15歳【種族】純人族
【生年月日】グレコニア歴1,018年4月1日
【現在の身分】神族【職業】聖女姫(序列第8位)
【加護】
世界神の加護・魔術神の加護・快癒神の加護
【魔力属性】
蘇生・光・風・水
【発行日】グレコニア歴1,033年4月10日
【発行番号】975-10-12998
【発行者】シンガーハット転職神殿本殿
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そんなこんなで、最高権力者の仲間入りを知らないうちに果たしてしまった私です。
生前の記憶も思い出した私は、私の仕事場であるこの『アメンラウド大神殿』で、聖女姫に就任して数か月後に、勇者として何処かの国で召喚された、元クラスメイトであり、イジメの加害者の筆頭だったあの2人とも再会する事になるとは思いもよりませんでした。
その際、私が元『藤堂和泉』である事は、勇者2人には知られる事はありませんでしたが。というか、私と相対して、お茶しながら言葉を交わしていたのにも係わらず、全く気付く素振りすら見せませんでした。私も、改めて転生して此処にいる事を地にしている事を、わざわざ言うつもりもなかったのですがね。
それよりも、何故勇者2人は、アメンラウド大神殿に来たのか?
どうして、聖女姫と面会をしたのか?
少し疑問に思いました。