【06-04】勇者様は困っております・・・・
武術大会が終了た9月、僕は冒険者としての身分しかなく、回復魔法の使い手のいないここ『アメンラウド大神殿ヴァンコック本神殿』において、数日に1回程度の割合で非常勤として働く事を、神殿から正式に指名依頼された。
修道女見習いのフタバちゃんは、見習い修道女の制服である真っ白な修道服を着こみ、僕が神殿に出勤する日は従者として同伴している。この時の僕は、普段着と化していす神様使用の修道服ではなく、神殿からもらった修道服(ほかの修道女が来ているただの布の服)になっている。
フタバちゃんは治療院では僕の隣におり、多少は使える回復魔法の練習に明け暮れている。まだ怪我の治療くらいしか回復魔法が使えないが、それでも練習台となる患者さんは引っ切り無しに訪れるため、ここにいるだけで結構な分量の練習になるのだ。
僕は無詠唱で治癒魔術を行使しているが、フタバちゃんは、しっかりと詠唱して発動している。しかしながら、その厨二病全開な詠唱文を、一言一句飛ばさずに詠唱・・・・つまり、短縮詠唱や無詠唱スキルを使用せずに行使しても、治癒魔術が発動できる確率は全体で5割ほど。簡単なケガの治療程度ならば、ほぼ100%の確率で発動できるのだが、治療が高度になっていくほど確率が下がっていく。
それは、すべての魔術に言える『イメージの詳細化』が不完全だからだ。特に治癒魔術は、人体構造などの医学知識がないと、まともに発動すらしないのだ。
そのため僕は、この国で治癒魔術普及(治癒魔術が使える属性持ちは、実は結構な数存在していた)のための第1歩として、地球における最先端(僕が自殺するまでにあった)医学知識及び技術を、この世界に再現して教え込んでいる。
なお、医学知識と技術は、僕が持っているスキル『異世界(地球限定)知識(LV5)』を駆使して再現した。
まだまだ1カ月程度しか教えていないが、まずは外科的治療をこの神殿内にいる修道士や修道女たちに実践させている。つまり、人体構造を、しっかりと頭の中に叩き込んでほしいためだ。
そのうえで、外科的な医学知識を念頭に入れて治療魔術の発動にこぎつけたいと思ええいるわけで。
そして10月になり、収穫祭の前後で僕とフタバちゃんは、正式にここアメンラウド大神殿ヴァンコック本神殿で出家をして名実ともに修道女となった。まあ、フタバちゃんは、もう1つの顔である魔祓師としての修業を並行して行ってもらっており、現在は聖魔術師(僕の職業である聖女や魔祓師となるための基本職)のレベル上げの最中である。
あと1カ月ほどで、聖魔術師から退魔術師へとジョブチェンジできるだろうと踏んでいる。また、回復魔術のほうも、順調に上達しており、そろそろ1人前の腕前になると踏んでいる。
こうなると僕は、神事などを行う際は、最高位である教皇様と同等の立場になる聖女姫だが、普段では(神殿内では)一番身分が低い立場となる。そうなると、フタバちゃんの職業である、退魔術師や魔祓師よりも低い立場になる。
ちなみに、神殿での序列はこんな感じ。
序列第1位:教皇・枢機卿
序列第2位:宣教師・司祭・転職神官・技能神官
序列第3位:牧師・助祭
序列第4位:神殿騎士・聖騎士・賢者・聖賢者
序列第5位:祈祷師・降霊士
序列第6位:雅楽師・巫女・姫巫女
序列第7位:退魔術師・魔祓師
序列第8位:修道士・聖人・修道女・聖女・聖女姫
そして何故だかは知らないが、聖女だろうと、神殿内では祭典や催事を除いて修道女と同じ修道服で過ごす事が義務づけられている。そして、修道女(修道士)・聖女(姫)と退魔術師・魔祓師が神殿で着る修道服は、デザインは同じでも主となるワンピースとベールの色が違うのだ。ちなみに、修道女(修道士)・聖女(姫)は黒色の修道服で、退魔術師・魔祓師は濃紺色の修道服になる。
この複雑怪奇な身分制度はいいとして、なぜ僕が(フタバちゃんはついでだが)、神殿に正式に身分を移す事になったのか。
それは、何度も登場している勇者様御一行によるストーキングを回避するためという、個人的な理由によるところは大きい。
勇者君の言い分の理解はできるのだよ、これでも。
(この世界にいる聖女様は、何人いるのか知らないが、)大部分の聖女様は、神殿ないし教会に身を置いているだろう。そのため、出家する前の僕のように、野良で聖女様と呼ばれているのは少ない。というか、(調べた事はないが)ほとんどいないだろう。
それはもともと、聖女様はすべからく修道女だからだ。そして、回復魔術を扱う事が出来るのも、制度上では修道女(修道士)だけになる。
回復魔法を扱える修道女の中から、ある日神様の1柱(出家した神殿に祀られいる主神が多い)が『お前を聖女にする』と、神託を下す事によってそう呼ばれるようになる。
今の僕は、この世界に来た時から聖女だったが、僕のもとになった『元オストラス王国第2王女、イズモネーゼ=トゥルフ=オストラス』という女の子も、本当の家族を失い育ての両親のもとで修道女として、村はずれの小さな教会で生活していた。
僕もこの世界では、修道女としての生活があったという事だ。転生設定を読む限り、そのころから僕は、結構な回復魔法の使い手だったみたいだ。
この辺りの事情はいいとして、勇者様御一行のパーティ構成は次の通り。
【前衛】
《楯職》
ナルミ(槍騎士:チャイナース帝国)
《攻撃職》
コウスケ(剣士:クランダル神皇王国)
【中衛】
《斥候職+遊撃》
マルス(盗賊:べジタムル王国)
【後衛】
《攻撃魔法職》
イナバ(魔法使い:コリアンヌ)
《支援神官》
ティリア(姫巫女:クランダル神皇王国)
《御者+物資担当》
サモン(旅商人:ツゥアイライド王国)
勇者様御一行は、バランスの良いパーティ構成をしているが、非戦闘職でないものが混じっているところを見るに、物資の調達や運搬で苦労していると見受けられる。9月に行われた武術大会では、魔法の袋をいくつか貰ってはいたようだが、持ち運びには少し不都合な形をしている。
ちなみに、僕とシャルルの共同製作で、指輪型や腕輪型の魔法の袋(改)は既に完成している。現在は秘密裏に実用実験を行っており、年明けあたりには市場に流す事が可能だと思う。しかしながら、年明けになると僕は神殿関係で忙しくなるので、量産する事は出来なくなるはずだ。
そうなると、流通量が不安定になるので、指輪型や腕輪型の市場価格は天井知らずとなるだろう。
余談だが、新たに完成したポーチ型(修道服の小物入れそのもの)は、僕の回復魔術の特訓において、及第点が取れた者にプレゼントする事にしている。今のところ該当者は、フタバちゃんを含め10人ほどだ。
閑話休題。
また、勇者様御一行は、回復職となる修道女(修道士)が不在なので、戦闘時などの回復にも結構なお金がかかる。実際、聖女様も含めて修道女(修道士)は、世界的に見ればそれなりの数はいるみたいだが、国によっては1人もいないという事もあるほど希少価値が高い職種でもある。現に、僕がこの神殿で出家するまでは、ここツゥアイライド王国にはいなかった。今は、僕の考案した方法が実を結んで、それなりの数が確保できてきている。
そして一番肝心な事だが、少し前の僕のように、修道女(修道士)には、ノラとして活動している者がほとんどいない。
そのうえ、すべからず回復薬やポーションといった類は、回復量や回復時間に比例して金額が高くなっていくのだ。
で、これが、僕のパーティメンバーの構成である。
【前衛】
《楯職》ナガト君(楯執事)
《攻撃職》アスカ君(拳闘士)
《攻撃職》サツマ君(刀剣士)
【中衛】
《魔祓師(現在は聖魔術師)》フタバちゃん(祓魔師)
《遊撃》アズールさん(魔法剣闘士)
【後衛】
《攻撃魔法職》トモエちゃん(魔導師)
《攻撃魔法職》イヨちゃん(魔法使い)
《物理支援魔法職》シャルル(精霊呪術師)
《攻撃・支援魔法職》コレット(精霊術師)
《回復職+物資担当+移動担当》イズモ(聖女姫)
狙ったわけではないが、後衛5人という魔法特化型の構成をしている。
全体的に見れば、バランスが取れているパーティ構成をしている。これを見る限り、僕を含めた異世界組の職業から、『異世界の』とか、『流浪の』とかいう枕詞がなくなっていたのには驚いた。
これを勇者様に見せたところ、何故か対抗心を燃やされてパーティメンバー獲得に奔走しているらしい。その過程で、僕に仲間に入らないかとお誘いしていたわけだが、そのお誘いに断っているのだ。
勇者パーティ参加は、僕にとって何のメリットもないからね。いろいろと・・・・・。
それはともかく、僕が聖女姫と公表されてから、勇者君にいろいろと相談を持ち掛けられている。パーティ参加要請以外ならば、知っている内容ならば答えてあげているため、調子こいてきているみたいだ。
知らないとはすばらしい事だと、しみじみと思う今日この頃。
僕が、生前君が虐めていた武蔵出雲だと知ったら、どんな反応を示すのかな?
まあその時、力づくで来られても、今の僕なら軽くあしらえる事が出来るがね・・・・。
(1)召喚した国家の王族と姻戚関係になる事
(2)世界を旅し、様々な国家・人種と交流をする事
(3)交流した人脈の中から、魔王戦を共に闘う仲間を見つける事
(4)パーティメンバーは10人までとし、それぞれの生まれの国籍および職業が違う事(仮のパーティメンバーならばこの限りではない)
(5)世界中に散らばるすべての聖地を巡礼し、祀られている神から加護を授かる事
(6)10大ダンジョンの隠しダンジョンを攻略し、聖武器・聖武具をすべて揃える事
勇者になるには、こんな条件を達成しないといけないとか。初めて知りました。
そういえばと思い、勇者君を鑑定してみれば、『勇者(見習い)』という職業になっていた。
で、この条件の中で、勇者君の頭を悩ませているのが、(4)(5)(6)の条件だ。
(4)の条件は、『国籍および職業が違う事』がミソだろう。職業はともかく、国籍が被ればアウトなので、必然的に全世界を回る事になる。
(5)の聖地巡礼だが、この世界には僕が神殿で調べたところ、112か所の聖地が存在している。中には、絶海の孤島にある聖地や、ファンタジー世界特有の空飛ぶ小島にある聖地もある。
一応暇を見つけては、僕たち『ジャポニクス』のメンバーも、訓練の一環として10大ダンジョンも含めて巡礼しているが・・・・。
現状勇者様御一行は112か所中、99か所の聖地巡礼が終わっているらしい。ちなみに僕たちは、112か所中、57か所の巡礼が終わった。
そういえば、最近できたナイアゲルの滝にある岩山の洞窟内のあの聖地。僕が初めて創った聖地(『瀑布の聖殿』と呼ばれているらしい)だが、祭壇は設けたら、神様の彫像は作った記憶がない。アメンラウド様当りの彫像を作って安置しておいたほうがいいのかな?
まあ、いいや。
この調べた内容は、一応勇者様には伝えておいてあげた。瀑布の聖殿には、僕が教えた後に足を運んだらしいが、現状あそこにたどり着く方法がないんだとか。巨大な滝のど真ん中にあるからね、あそこ。飛行魔法か転移魔法がないと、普通の人はたどり着く事すらできないだろうね。
僕には、関係ない事だけど・・・・・。




