【05-05】勇者様の黄昏(その1)
俺の名前は、コウスケ=アークネスト=クランダル。
元の名前は、播磨浩輔という日本人だ。
ここエジャプルスという異世界で、勇者なんてたいそうなことをやっている元日本人だ。”元”とついているのは、俺がこの世界に転生したからであり、現在は転生異人と鬼人族の混血人族となっている。
そのため、身長も2mを超えてしまっており、力も、巣の状態で200㎏近く持ち運ぶことも可能だ。ただし、種族特性なのか知らないが、完全に物理一辺倒で近接武器に関しては鈍器から剣まで、少しの練習ですべて使用可能なのだが、魔法は生活魔法と呼ばれているものですら、何1つ使うことができないのが難点である。
俺が魔術を使えないのを補っているのが、俺と一緒にこの世界に転生してきた長門因幡だ。現在の名前は、イナバ=アークネスト=クランダル。俺の嫁さんでもあり、名目上は第2夫人となる。
イナバは、俺と同じ転生異人と妖狐族の混血人族だ。
そして、俺が魔術を使えないと同様に、イナバは、なぜか近接武器を使うことができない。ただし、魔術は使用できるため、俺は羨ましくも思っている。
武器が使用できないだけで、体術でもって自己防衛ができるため、地球時代から嗜んでいた合気道でそれをカバーしている。
イナバが持っている属性は、混血種族の片割れである『転生異人』の影響で、風・水・火の3属性しか持っていない(妖狐族は、闇・風・水・火・地の5属性をデフォルトで持っている)。これについては仕方がない問題なので、イナバはこの3つの属性を極めるべく、日夜努力を重ねている。
その理由は単純で、この世界の魔力属性は遺伝子に刻まれた情報だからだ。そのため、生まれた瞬間に持っている魔力属性は決まっており、個人間で使用できる属性の数が異なっている。ちなみの俺は、光と地の2属性を持っているが、魔術を使えるだけの保有魔力がないため使う事ができないだけだ。
この世界で保有魔力を増やすには、5歳から15歳までにどれだけ魔力を使用するのかにかかっている。この期間に限界まで魔力を使用すると、筋トレで筋肉がついていくように(個人によって異なるが)増加していく。どういう理屈かは知らないが、15歳を超えるといくら頑張っても魔力が大きく増えることはない。
さて、イナバが『第2夫人』ということは、当然俺にはもう1人嫁さんがいることになる。
その嫁さんの名前は、ティリアネーゼ=アークネスト=クランダル事ティリアだ。
この世界に俺とイナバを呼び出した国家、クランダル神皇王国第4王女であり、『姫巫女』の職を持つ神官(支援職)でもある。領地を持たない貴族(公爵)の身分だったが、俺と結婚したことにより、公爵の爵位が俺に移行せれた。今はまだ領地をもっていないが、魔法討伐の旅を終えれば、晴れてクランダル神皇王国のどこかに領地をもつ貴族に列せられる予定になっている。
ティリアは神官だが、回復魔法の使える修道女ではなく、支援術式が使える巫女である。つまり、魔術ではなく、神楽や剣舞を舞う事によって広域支援をかける術式『神舞術』に長けている神官だということだ。
この3人で、魔王討伐の旅に出て1年。
各地を巡って仲間を集め、現在俺のパーティメンバーの枠は、この3人を除いて3つ埋まり、残り4つ枠が空いている。
まず1つ目の枠は、大きな盾と長い槍が武器の楯職であるナルミ=シンジョウ。
元クラスメイトの新庄鳴海さんであり、現在は23歳の転移者である。彼女がこの世界に来たのは5年前で、俺たちが召喚されたお隣の国チャイナース帝国の国籍を持っている。国籍がチャイナース帝国なのは、初めて登録した冒険者ギルドが国籍になるためだ。
これを利用してイナバの国籍を、やはりお隣にある国コリアンヌにしたほどだ。こんなややこしいことをしているのは、俺が勇者になるための条件である『パーティメンバーは10人までとし、それぞれの生まれの国籍および職業が違う事(仮のパーティメンバーならばこの限りではない)』のためだ。
2人目は、マルス。べジタムル王国出身の、16歳の犬人族の男の子だ。
彼は、犬人族の特徴であるよく利く鼻での探索役と、そのすばしっこさで遊撃を兼任している。武器は、弓矢で、矢がきれれば腰に差している2本の短剣を使っての攻撃に移る。また、常に10本以上の投擲用ナイフも持っている。
3人目は、元旅商人で、現在は馬車の御者や物資担当をしているサモンさん。20歳。彼は、チャイナース帝国を旅している時に出会った人で、たまたま泊まった宿屋で意気投合したのだ。それから、護衛依頼を受けてここツゥアイライド王国まで来た後に、正式にパーティメンバーに加入してもらえた。ちなみに国籍は、ツゥアイライド王国の田舎町メイルトルの出身である。
閑話休題。
現在決まっているパーティメンバーを、役割と国籍で表すとこうなる。
【前衛】
《楯職》
ナルミ(槍騎士:チャイナース帝国)
《攻撃職》
コウスケ(剣士:クランダル神皇王国)
【中衛】
《斥候職+遊撃》
マルス(盗賊:べジタムル王国)
【後衛】
《攻撃魔法職》
イナバ(魔法使い:コリアンヌ)
《支援神官》
ティリア(姫巫女:クランダル神皇王国)
《御者+物資担当》
サモン(旅商人:ツゥアイライド王国)
なかなかとバランのいいメンバーがそろってきてはいるが、まだまだ攻撃が俺1人というのは心もとないし、全属性の魔術にも対応できていないのが現状である。そして真美より、回復薬である修道女(修道士)がいないのもいただけないが、これについては仕方がないことらしい。
回復魔術の扱える光属性持ちが圧倒的に少なく(1国に10人いれば多いほうで、まったくいない国家のほうが圧倒的に多い)、勇者パーティである俺たちの行き先を考えると、最高位の回復魔術が使えないと何処かで行き詰るはずだ。そうなると、修道女の上位最高職である【聖女】を仲間に入れないといけないが、これがまた圧倒的に数が少なく、そのほとんどが何処かの大神殿所属なので、やすやすと引き抜くことができないのが現状である。
もちろん、野良で活動している聖女や修道女もいるにはいるのだが、騎士団・神殿・冒険者と、あらゆる場所からの引き抜き合戦が起こる。そのため、回復魔術を扱える者が所属する場所は、本人の意思が絶対条件になり、合法的・非合法的問わず、無理な引き抜きは神罰が下るらしい。実際、過去100年間に、10回ほど神罰が下ったという話がある。
そんなこんなで、ツゥアイライド王国王都ヴァンコックにやってきた俺たち一行。
そして俺たち一行は、日ごろの訓練の成果を確認するためと、対人戦の訓練を兼ねて、たまたま行われる『ツゥアイライド王国建国記念 第100回武闘大会』に参加する事になった。
まず最初に始まったのが『魔術禁止部門』。
つまり、物理戦闘力だけで闘う、前衛主体の競技部門だ。この部門委は、当然魔術の使えない俺と、楯職のナルミ、斥候のマルスの3人が出場する。勇者パーティとはいえ、未だこの世界では無名である俺たち。有名・無名問わず、シード権はないので、全員が予選からの出場である。
『魔術禁止部門』の参加者約600人を、16のブロックに別けたバトルロワイヤル方式で行われる予選。各ブロックで最後まで生き残った32人が決勝に駒を進める事ができる。
第8ブロックに出場したマルスは、突風のような攻撃を受けて、開始早々にリングアウトして試合終了となってしまった。この突風のような攻撃、純粋に体力だけで起こした敢然たる物理攻撃であり、試合規則にも抵触していないため有効と判断された。しかし、物理だけでもあんな攻撃ができるんだと、敵ながら感心してしまった。
ちなみに俺はできない。魔王軍との戦闘を考えると、単純な物理攻撃で魔術みたいな攻撃ができるようになったほうがいいのだろうか?
そんな、どうでもいい事だが、たぶん大事な事を考えてしまった試合だった。
それにしても、この突風のような攻撃を行った、あのメイド服を着たイヌ耳と尻尾幼女。とっても強いな。国籍がかぶっていなければ、是非とも我がパーティの前衛としてほしいところだ。
第10ブロックには、ナルミさんが出場するブロックだ。ナルミさんは、俺たちの中では一番闘いなれているため、危なげなく決勝戦に駒を進める事ができた。
で、最終ブロックには、俺が出る事になった。このブロック別けは、単純に登録順に決まっている。ただし、同じパーティメンバーに属している場合は、不正をなくす目的でばらばらのブロックに別けられる仕組みだ。この部門は、個人の実力をためる場所なので、こういったことは仕方がないと思う。そのための『複合部門(団体戦)』が最終日にあるわけで、パーティ戦をしたければ、最終日場で待てばいいのだ。
どういうわけか知らないが、このブロックは矢鱈目ったら強いのが集まっている感じで、開始の合図と同時にあちらこちらで乱戦が繰り広げられている。
当然俺も、その乱戦の中に身を投じているわけで、俺は10人ほどに囲まれての多対一の構図で闘っている。そして、満身創痍になりながらも、何とか決勝戦に駒を進める事が出来た。
予選を終えた俺は、戦闘で付いた傷を治してもらうため、大会本部横にある医務室へと足を進めていく。そこにはすでに100人ほどの列があり、皆治療の順番を待っている。俺はどうも殿らしく、俺の後ろには誰も並んでいなかった。
運営の話によると、今回の大会期間中、治療師は1人しか集まらなかったらしく、とっても大忙しで治療をしてくれているそうだ。現に、第1ブロックのあった朝早くから、最終ブロックの今まで、休憩なしに治癒魔法をかけ続けているらしい。
俺はその話を聞いて、休憩なしというくだりに戦慄を覚え、長時間魔力が枯渇する事なく続いている事にさらに戦慄を覚えた。
そんな事を考えながら、俺の順番になり、目の前の治療師をまじまじと見る事が出来た。
治療師として働いていたのは、1人の修道女だった。
身長150㎝程の小柄な女の子が、真っ黒な修道服を身に纏って、俺のほうを覗き込んでいる。
現在は、簡易装束のため、ベールではなく幅広の白色のカチューシャを填めているため、その容姿がはっきりと確認できる。
お尻の先あたりまで伸ばしている長い銀髪は、とても細く、サラサラの髪質だ。窓から入る太陽の光を反射して、きらきらと光り輝いている。見ているだけでも、ひきつけられるような魔性の髪質をしている。
白磁の陶器のような真っ白肌で小柄な顔には、蒼色(右眼)と朱色(左眼)のオッドアイが、自己主張激しく俺を見ている。鼻筋は細く、小さく赤い唇をした少女だ。細い指先が、修道服の袖口から伸びている。
「治療を望まれるのなら、金貨1枚をこの箱に入れてください。」
発された声も、この世のものとは思えないほど澄んでいて、聞いているだけでも体の隅々まで浄化されていくような感覚に襲われる。俺は、彼女にせかされて金貨1枚を箱の中に放り投げた。




