【04-06】護衛依頼の対象は・・・・
パリマンさんのパーティメンバー招集を受けて3日後、僕たち一行はメイルトルを離れ、一路ツゥアイライド王国王都ヴァンコックへ向かう街道を、護衛依頼を出した商人さんが用意した馬車に乗って走っている。
メイルトルからヴァンコックまでの距離は、直線距離で約1,500㎞。くねくねと曲がりくねっている街道を通っていくので、実際の距離でいえば、1,600㎞といったところかな?
約1ヶ月ほどかかる道のりを、ちんたら歩くのかと思っていたが、ただでさえ速度が出ない馬車を、さらに遅くする道理はない。また、歩くだけで疲労が溜まり、いざという時に戦闘ができないのではお話にならない。そのため、基本的に護衛依頼というのは、護衛する馬車に同情する形で行われているのがこの世界の常識となる。護衛対象が徒歩の場合は別だが、長距離を徒歩で移動する者は大陸内では皆無となっている。当諸国の国内に限って言えば、徒歩での旅人も普通に存在しているらしいが。
1人2人ならば、位置固定型転移門の裏技『ランダム転移』を利用するらしい。行先不明な部分は置いておいて、そのほうが安全に町から街へと移動ができるからだ。
ちなみに今回の護衛対象は、奴隷商人であるアズマイドさん(今回の護衛依頼の依頼主さん)と、彼の付き人5名に各馬車の御者さんと、彼らの身の回りの世話をする奴隷8人。そして、商品となる奴隷32名だ。護衛対象は総勢50人と馬車4台となる。
この人数を、僕たちを含めて4パーティ総勢22人の冒険者で、大きく分けて護衛している。4つのパーティの内訳は、パリマンさんたち『パリリックブラザース』が、僕たちを入れて6名、脳筋6名組(自己紹介でそう暴露して紹介された)の『ドラグイン』というパーティ、5人組の『ブルーナイト』と『レッドナイト』という兄弟パーティの4つだ。この2つは、『色彩騎士団』というメイルトルに本部を置く個人ギルドに所属しており、5~7人一組で『◯◯ナイト』という色の名称を持つパーティをギルド内で組んでいるそうだ。
この護衛団の中で、本来護衛依頼を受けれる『B-』以上の冒険者は、僕たち『ジャポニクス』以外全員だが、魔法使いは、トモエちゃんと僕(一応魔法を使えると申告してある)、あとは『ブルーナイト』と『レッドナイト』から1人ずつだ。その中で光魔法が使えるのは僕だけとなる。
僕たち3人は、パリマンさんのパーティに臨時に組み込まれる形で、今回の護衛依頼に参加している。
僕たちのギルドレベルでは、護衛依頼を受けることはできないが、高ランクのパーティにお邪魔すれば受ける事が可能という、ギルド公認(低ランクパーティの訓練目的があるらしい)の一種の裏技を使っているのだ。
そんな僕たちのお仕事なんだが、4台の馬車に1パーティずつ護衛につく形になっており、全体指揮を執っているのは、一番ランクが高いパリマンさんとなるため、必然的に僕たちが先頭を走るアズマイドさんの馬車の護衛となる。
町から1歩でも出れば、弱肉強食で無法地帯という世界が延々と広がっている世界だ。町や村の周辺部では危険は少ないが、離れれれば離れるほど危険地帯が増えていく。当然、2つの巨大大陸を縦断する大街道を通っていても、その危険度は計り知れない。
基本は、位置固定型転移門を利用した人や物の移動が主となるこの世界だが、ポータルを利用するためには、一度現地までいかないといけないという制約がある。そのため、旅商人や冒険者等の、所謂旅人に分類されている職種は、1つでも多くのポータルを利用できるのが一種のステータスとして存在している。それも、より遠くのポータルが利用できるとなると、その利用価値は計り知れないものであり、高額の報酬を手に入れる事も可能となってくる。
そのため、旅人に分類されている者たちは、ポータルの裏技を駆使して利用できるポータルの数を増やしているのだ。そのため、同じ商人一家でも、1人1人行ける場所が違うといった事も、当然発生しており、各商人さんたちはそれが当たり前といった存在となっている。
こんな理由から、とんでもないところに支店がある大店も多く存在しており、世界中のあらゆるところから取り寄せられた、様々な品物が市場に溢れているのは、何処か現在の地球に似ている部分がある。
そんな感じで、今回の護衛依頼はあるわけだが、今回は取り扱っている商品が特殊なためその方法が使えないのだ。
今回の護衛依頼は、商人さんを護衛ししているのではなく、取り扱っている商品を護衛しているといっても問題ではない。というか、商人さんの口からも、そんな感じの事を言われている。
さて、さっきから出てきている特殊な商品・・・・、それは奴隷である。
奴隷たちは、3台の護送馬車に10人前後で詰め込まれている。護送馬車は、罪人輸送用の窓のない箱馬車ではなく、床以外が鉄格子で造られた箱馬車となっている。鉄格子の上には、何かの革で造られた幌が被せられており、現在は天井以外は開け放たれている。この幌は、夜になるとすべて閉じれれるみたいで、冷たい夜風に当たらなくてもいい構造になっている。もちろん、雨の日はすべて閉じられているみたいだ。
奴隷専用の貫頭衣(長い布に首を通す穴が開いたモノ)を着て、腰部分で手枷と一体になった金属ベルトで固定している。
もちろん素足であり、歩幅くらいの長さの鎖のついた足枷を填められており、その両端は床面に鎖で固定されている。貫頭衣の長さは、膝丈よりも短く太ももに中間くらいの長さで、それ以外は何も身に纏っていない。
腰ベルト一体の手枷で、後ろ手に固定されているため、座った際に捲れただろう貫頭衣の裾を治すこともできずに、何も履いていない股間部を男女ともに晒している。
首には、魔道具の一種の奴隷の首輪が填められており、首輪同士が鎖で繋がれている。また、首輪の後ろ側には、天井の鉄格子から延びる鎖が1つ1つの首輪に繋がっているのが見て取れた。
髪の毛は男女ともに、衛生上の問題なのか、首筋が見えるほどに短くされている。
ここまで徹底した早々で護送されているのは、彼らはまだ正式な奴隷ではないからだ。
現在彼らの仮の主は、アズマイドさんなのだが、実は『仮』というだけあって、その権限は最低限しかもっていない。
現在アズマイドさんが持っている主人としての権限は、
(1)主人・奴隷双方が互いに危害を加えない
(2)生命維持に必要な(奴隷としての)必要最低限の衣食住を保証する
(3)適正価格で販売する
の3つだけだ。
つまり、現段階での奴隷たちは、主人に危害を加えなければ、別に逃走を図っても構わないということになっている。もちろん奴隷自身が、自殺を図らないように奴隷の首輪が制限を施してはいるが。
そのため、奴隷に填められている各種拘束具は、ただ単純に逃走防止を目的にしているにすぎない。
そんな感じで護送されている彼らだが、これはまだ囚人や罪人たちの護送に比べればまともらしい。
囚人や罪人を護送するための馬車は、先程少し話に出ていたが『窓のない箱馬車』である。
また、奴隷たちの乗る護送馬車は、スプリングが各車輪毎についているためまだ乗り心地はいいほうだが、囚人や罪人用の護送馬車には、スプリングはついていない。そのため、乗り心地は最悪らしい。
そのうえで、分厚い木の壁(金属製だと重すぎて動かないため)に囲まれており、外の景色を視る事はできない。一応、監視窓は御者席後方と後部についている出入り口1か所ずつあるが、監視時しか開けられることはない。そのため、中は基本真っ暗闇である。
そんな護送馬車に、手枷と首枷が横一列になった拘束具を填められ、膝で曲げた状態で拘束する足枷を填められて床に転がされるのだ。もちろん、処刑場に着くまで、出入り口が開けられることはない。
また、見せしめ目的で、独房から処刑場まで、全裸で拘束具を填められる罪人(元の身分が高い女性ほどこの扱いを受ける事が多い)もいる。この場合まだ、護送馬車に入れらえるほうがましといわれている。
実は、僕の設定上の姉であったオストラス王国第1王女の場合は、捕まった町から王都(この時はすでに辺境伯領の領都だった)まで、全裸拘束で引き廻されたらしい。
閑話休題。
商品である奴隷を連れて、ポータルを利用することができないため、こうして護衛を雇って目的地まで行くのが、奴隷商人たちの仕事の1つでもある。この際、奴隷たちには、唯一の財産として通過していく町や村にあるポータルを登録させていく。
今回は、ホレストン村からメイルトルまでは、奴隷となった全員が跳ぶ事ができたが、ここから先は、全員一度の跳べないため、こうして街道を行く事になったのだ。
今回商品となった奴隷たちの一部だが、去年の借り入れ時に、ホレストン村近郊の開拓村が盗賊の襲撃にあったらしい。その際、村にあった金銀財宝が、農機具などの金属製品を含めてすべて強奪されてしまった。冬越しにため込んでいた食料品も強奪されたため、お金を借りて何とか冬を越したんだそうだ。初雪前に魔物を村人総出で狩り、なんとか借金の半分は返済したようだが、盗賊の襲撃時に村の若手の男性の半分近くを失い、狩りの段階でさらに男手を失ってしまった。そのため村には、老人と女しか残っておらず、雪解けを待って奴隷商に身売りしたわけだ。
村自体は、領主様が新たに人員を募集して、現在も存続しているらしいが、彼女たちには関係のない話になってしまっている。
僕たちの知識では、こういった場合、若い女の子たちは盗賊の忌物になったり、裏ルートで奴隷落ちするのが普通だと思っていた。しかし、この世界では、そのような事は起こらないのが普通みたいだ。そもそも、盗賊たちが生き物である奴隷を輸送する手段もなく、奴隷市場に流して現金に換える手段も持ち合わせていない。
奴隷商人は、国家公務員みたいな存在であり、国家に商品である奴隷を含めてすべて管理されている。そのため、盗賊と手を組んだ時点で身の破滅となるため、奴隷商人たちは盗賊と組む事はほとんどないのが現状である。もちろん、購入者も破滅するため、そんな商品を購入する者は、よほどのモノ好きくらいしかいない。
そんな理由から、盗賊は、最低限の身の回りの世話をさせるため拉致る以外は、ただのお荷物となる事はしない。同じお荷物を抱えるのならば、裏市場を通せば出所が解らなくなる金銀財宝の方がよほど実入りになるという話らしい。
という事は、あの殲滅した盗賊団が持っていた金品は、この奴隷ちゃんたちが暮らしていた村にあったモノだという事だ。
「・・・・その盗賊団も、つい先日、誰かに討伐されたと聞いています。村にあった金品は、その討伐した誰かさんのモノなので彼らに返す必要はありません。その誰かさんが、返還に応じない限りはね。
そもそも、彼女らはすでにその身分が奴隷となっているので、財産を所有する権利がないため返還権も持っていません。もちろん、彼女らを購入した者も、彼女らが奴隷落ちになる前に持っていたモノを取り返すといった事はありませんし、その行為を行う事もできません。」
「そのような事情があったんですね。奴隷落ちした事情は、僕たちには与り知らぬ事。
あっ!!
1㎞くらい進んだ場所に、20人くらいの盗賊さんが待ち構えていますね。手加減の練習をするにはちょうどよさそうな数ですね!!(相手のレベル的に見てもね)
ちなみに、今さっき通過した街道脇の大木の枝に、盗賊さんらしき見張りがいましたよ。せっかくの襲撃を邪魔しちゃまずいので、黙って見過ごしましたが。その見張りが、何らかの手段で本陣に伝えたみたいですね!!」
どうも、ファンタジーな物見遊山には、欠かせない楽しい襲撃が始まるみたいです。




