プロローグ①小さな復讐者
ある日の深夜、日本中のテレビ電波がジャックされた。
そこで流されたとある映像が、それを見た人全員を震撼させた。
「こんばんわ。
このような形で皆様の前に出ることをお許しください。
僕の名前は、武蔵出雲といいます。隣の女の子の名前は、藤堂和泉といいます。
これから、僕たちの日常をダイジェストでお見せします。
この映像は、1年ほど前から、僕の通っている高校のあちらこちらに設置した隠しカメラ映像と音声。そして、僕たち2人の自宅からこの高校までの通学路上に設置したカメラで盗撮した映像を編集したモノです。
不快な映像が流れると思いますが、これが今の『僕たち2人のの日常』です。」
映し出された少年は、150㎝程の身長で、腰まで伸ばした長い髪をしており、視た感じは女の子といわれても納得する容姿をしている。
しかし、少年の片目は何かで潰され瞼が固く閉ざされており、また片方の耳が削ぎ落とされているようでなくなっている。
ひどい暴行を日夜受けているようで、全身青痣を作り男の象徴たる下半身のあれの片割れが、無残な感じで潰されている。
その傍らには、同じように全身青痣を作った同じ背丈の少女が佇んでいる。
少女もまた、片目を潰され、歯も何本かが折れてなくなっている。
そして2人とも、何も身に纏ってなく、さらに、服を着たくても着る事ができないように、金属で造られた首輪が嵌められ、鎖で2人が繋がれていた。そして、よく観察してみれば、何処から調達したのか警察で使われている鋼鉄製の手錠が嵌められており、鎖で首輪に繋がれている。
何処かの学校の教室らしき場所で撮影されたその映像。
「まず僕たちは、登校すると、校門でこの姿にさせられます。」
その言葉とともに、ある朝の一幕を収めた映像が流される。何も加工されていないその映像は、この2人に対して行われている校内挙げてのイジメが映っていた。
彼と彼女の解説とともに、その学校での一日がダイジェストで放映されていく。
映像が切り替わると、そこには何処かの家が燃えている映像になる。そして、その火事の前後なのだろうか、数人の少年少女のありえない会話が流され、その火事が少年少女の犯行であることが暴露されていた。さらには、どうもその親も関与しているような口ぶりである。
『こいつらの家は、俺が放火したんだ。ただし、俺の親がもみ消してくれてね。放火ではなく失火の扱いになっているんだよ。』
などと、得意げに話している姿が。さらに映像の下では、ボコボコに殴られている全裸の2人の男女がいる。もちろん、この映像を作って?流している鎖に繋がれているこの2人となる。
映像の背後では、学校の教職員だろうか?煙草をふかしながら彼らの暴行を止めずに笑っているのだ。さらに某口語地面で蹲っているこの2人に、あろうことか火のついたタバコをそれぞれの片目に押し付けている。この時に片目が潰されたのだろうと、誰もが簡単に想像できる光景だった。
そして、別の教師が、地面で蹲っている2人の首脇繋がっている鎖を持ち上げると、蹴り飛ばしながら2人を何処かに連れていく。
BGMに、この学校のチャイムが虚しく鳴り響いていた。
そして。
「僕たちは、生きる希望を見出せなくなりました。この火事で、僕と彼女の家族は殺され、住む家を失くしました。
その後僕たちは、自由すらも奪われてしまいました。
僕たちは、住んでいる町とこの学校中に隠しカメラを取り付け、今日で映像を貯め続けてきました。今までの映像は、すべてこの隠しカメラで撮影したものです。
そして、今日。
この世界における、僕たちの最期の日を迎えました。」
現在の彼らの様子なのだろうか。
屋上の一角に設けられた檻の中で、全裸の2人は鎖で繋がれた状態で入れられている。
「この映像は、希望を失くした僕たちが最後に送る足掻きとなります。
つまり、僕たちが、この学校、・・・・いや、この暮らしている町の住民すべてに対する復讐です。
どうか、僕たち2人の願いが、何処にいるのかもわからない神々に届きますように・・・・。」
最後にそう締めくくった2人は、どこからか持ち出した包丁でお互いの心臓を貫いたのだった。
映像は、2人の自殺を生放送で放映した後、こんなテロップが流れて終了した。
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この映像の元となる盗撮したあらゆる映像は、映像をお借りしたテレビ局と新聞社、文部科学省をはじめとした関係省庁の送付済み(僕たちが暮らしていた町と、県には送付していません)です。
また、盗撮した映像のすべては、海外を含めたすべての投稿サイトに、日付が変わった午前0時に投稿される予定となっています。拙い映像ですが、お時間がある方はどうぞご覧ください。『人間とは、手段になれば此処までできるんだ』と、逆に感心できる映像となっています。
また、僕たち2人が暮らしている町にある行政機関は上位機関の県組織も含め、警察も含めてこの事件の事をもみ消す事が予想されます。
それは、僕たちをイジメていた加害者の代表格が、『市長の息子』・『県議会議員の娘』・『所轄の警察署長の息子』・『消防署所長の息子』・『市議会議員の娘』・『通っていた高校の理事長の娘』だからです。
もちろん、僕たちが通っていた学校の教職員全員が、見て見ぬふりどころか、積極的にイジメに加担しているのはこの映像をご覧いただいていれば、明白な証拠となります。
そして、此処までのイジメガあるにもかかわらず、なんも対策をしてこなかった市や県の議会、教育委員会などの組織も、イジメの加害者として僕たち2人は認識しております。
なので、もみ消しがあることを前提にして、投稿した映像には、イジメている加害者の本名と親の職業を実名をテロップで入れてあります。
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この映像の直後、まず真っ先に動いたのがマスコミ各社であった。
2人が自殺をした翌日。
即座に所轄警察が動き、2人の自殺をもみ消そうとした事が発覚。
所轄警察よりも早く、現場を押さえたマスコミ各社のバリケードを壊して、件の学校施設を破壊しようとする映像が全国に流された。
この映像は、朝のニュースで生中継され、その結果、この町の行政機関は、すべての評価が地に落ちる結果となる。
この事態を重く見た国は、自衛隊と公安警察を件の学校に派遣。
学校を破壊しようとした関係者をすべて現行犯逮捕し、これ以上の破壊をさせないため学校を自衛隊で封鎖した。その後公安は、市役所や消防などの関係各所を家宅捜索し、件の映像で実名公開された者たち及び、それ以外にもくみした者たちすべてを逮捕するに至る。それは、県にも及び、行政サービスがマヒする異常事態へと陥ってしまう。
その後の国会は、この問題で大いに荒れる事になる。
加害者認定された県警や県、件の市の各組織は、その事実を隠すことなく認めた後、関係者を厳罰に処罰して事態の鎮静化を図るが、時すでに遅く、全国にこの問題が広がっていく。その結果、すべての学校が、どんな些細なイジメにおいても、隠蔽する事無く公表しないといけなくなる。
それは、大学入試や就職などにも影響し、この年のこの町からの出願者は、ことごとく不採用となったのは別の話である。もちろん、全国各地においても、ある一定以上のイジメの加害者が、不採用となってしまった。
件の町では、市長をはじめとした、公表された生徒の親が、すべて辞職する結果となった。
さらに、今までもみ消していた事がすべて暴き出されていく事になる。
その結果、ほとんどの職員が逮捕され、懲戒解雇されたこの町では、一度組織を解体して再出発をする事態にまで陥る事になる。
俺の名前は、播磨浩輔。〇〇県にある☓☓市の、市長の息子である。親の敷いたレールを走る列車のごとく、順風満帆だった人生が終わったのは、・・・・今思い出したらあの日からだ。
そう、今から3ヶ月前、武蔵出雲と国枝和泉が自殺したあの日を境に、俺の目の前に敷かれていたレールが、奈落の底へとポイントが切り替わったのだ。
武蔵出雲と国枝和泉が自殺してから早3ヶ月。
2人が自殺した際の置き土産によって、俺の、いや、あの学校関係者すべてが世間から叩かれた。
受験生だった俺たちは、当然?のごとくすべての学校(上は国公立や有名私立大学から、下は、地方にある農業大学や無名の大学、短大、専門学校に至るまで)に入る事ができなかったのだ。その影響は、海外まで及んでおり、先進国やちょっと有名な国にある大学にすら留学する事ができなかった。
そんな事があり、この学校では初めててとなる『卒業生全員が浪人生』という、ある意味有名な学校の卒業式を迎えた日。
卒業式と言っても、教職員全員が何らかの罪で逮捕・解雇されたこの学校では、新たに迎えられた教職員によって式が進行していく。
もちろん俺をはじめとしたイジメの加害者をはじめとした卒業生全員は、この卒業式の終了後、その罪に応じて刑罰を受ける事が決定している。そのため、俺たち卒業生を乗せるための護送車が、学校の周囲を取り囲んでいるありえない卒業式となっている。
異様な雰囲気に包まれた卒業式も終わり、最後のホームルームが始まる。
俺たち卒業生全員は、これが終われば刑務所行きの護送車に乗る事になるわけだ。
そんなモノ苦しい空気をぶち壊したものがあった。
それは、ホームルームの終わり、卒業生全員が校庭に集合したときに起こった。
校庭にそれぞれの行き先別に分けられた俺たちの足元に、”複数”の幾何学的な模様が描かれた円陣が現れたのだ。その円陣は、俺たち全員を包み込むと、一際激しく輝いた後に突如として俺たちを飲み込んだまま消滅したのだった。