ネナベ腐女子の異世界トリップ
身体を拭くのに使ったお湯の入ったたらいを階下に持って行って、部屋に戻ってみれば。
月の光が窓から差し込む中、首輪とシーツのみを纏った巨乳エルフがベッドの上で正座してる件。
「何してるの……」
「ご主人様を待っていました」
ふと口から漏れたつぶやきに、巨乳エルフがためらいなく応えた。
「そういうつもりで買ったんじゃないんだけど」
「知ってます。でも、一緒に居たいんです」
この巨乳エルフには私の元の性別も嗜好も打ち明けてある。
「添い寝でも抱き枕でも構いません。一緒に寝たいんです」
台詞を続けながら手を動かしてシーツを胸元で握り締めた。ほんとにこいつは
「――あざといなぁ」
「えへへへ」
「照れるな」
褒めてない。
* * * * *
私は仕方無く巨乳エルフとベッドを共にする。巨乳エルフ自身のベッドに帰すのは疲れそうだったし、私もかわいいのは実は嫌いじゃない。
「ご主人様あったかい……です」
「もぞもぞ動くな」
「ああん」
「なんでしたら、わたしが全部するのでご主人様は天井のしみでも数えていれば」
「何その古典的な台詞」
「先っぽだけ、先っぽだけでも」
「だから古典的って言うかその台詞むしろ私が言う側だよね」
「言っていただけるんですか?」
「言わん」
「ご主人様ぁ、ご奉仕、させてください……」
「帰すよ」
「やー、です」
数度の口だけの攻防の末、つい聞いてしまった。奴隷に対する命令権まで使ってしまった。
「あんた、どうしてそれにこだわるの」
「……それ、は」
「言って」
「……だって、これしか無いから」
「はぁ?」
「……こっち来てすぐにあいつらに出逢って、何がなんだかわからないうちに捕まって、初物だからマワされなかっただけでぼこぼこにされて。キャラ作り立てで弱いし、そもそも人なんて撃てないし。……捨てないで、ほしい。料理も洗濯もお裁縫もご主人様ほど上手くないし、魔法だって足手まといだし、ご奉仕もちゃんとできるかわからないけど、捨てないでほしい、です。何でもやるし、何でも覚えっ――」
後悔した。自分がこっちに来て3年、レベル上げとスキルレベル上げと資金稼ぎをしてる間に、知らない人とはいえこんな目に逢っている人がいるなんて知りたくなかった。憎き巨乳だろうと、(無理やり聞き出した)名前から察するにこちらに来る前は男だろうと、少女の涙は心に刺さった。
落ち着けるために頭をなでようと手を伸ばせば、それだけでおびえるようなのが実在するとは思わなかった。
「捨てるくらいなら最初から買わない。それと、私のこれは生産用のサブキャラだから戦闘はからっきしだよ。偶然出会った同郷が奴隷で同情したのはたしかだけど、それだけのためにお金を出したりはしない。レベル上げは手伝うし、装備だって作る。男の子の奴隷のために貯めたお金をあんたにつぎ込んだんだから、その分はきっちり働け」
溜め息と我ながら下衆い本音が混じった台詞に、だけど巨乳エルフは安堵した笑顔で抱きついてきた。何このチョロイン。美少年だったらもっとよかっげふんげふん。
* * * * *
そして翌朝、違和感と小鳥の鳴き声に起こされれば、私の下半身を剥いた巨乳エルフに初めてを奪われかけていた。
「何やってるの?!」
「う、んっ、……ご奉仕、です。ご主人様」
「私の初めては美少年に捧げるって決めてるのっ!」
「……奴隷を買わないと相手も居なかったのに?」
「うっ」
「男の娼婦って、なんて言うのか忘れたけどいるんじゃないの? 買わなかったの? ……ですか?」
「無理に語尾つけるな。男娼は、その、病気、恐いし……」
「そんなかわいいご主人様の初めてをわたしの初物で散らす快感」
「ナイスミドルになってからかわいいなんて言われたのは初めてって言うかぁああーっ!」
* * * * *
「奴隷に初めてを奪われた……」
その日の生産は、過去3年で最低品質です……。
「ご主人様、お客様が買い取り希望ですので査定をお願いします」
「……はぁーい……」
溜め息が止まらない。その私を見て安堵するお客さん。何故だ。
巨乳エルフにメイド服を着せて店番させた効果か、今日の売上はいつもより多かった。消耗品は作り貯めしてた物でなんとかなった。明日はこの最低品質のアイテム持ってレベル上げかな……。