6話「ツンデレチョロイン」
「ねえねえ、陽太と若宮さんってどんな関係なの?」
バイト仲間であり、幼馴染であり、クラスメイトでもある紫小菊が突然訊ねてきた。
「いくらなんでも質問が唐突すぎる気がするんだが」
「なーに、いつものことでしょ? そんなことより、二人の本当の関係を私に言っちゃいな! 大丈夫、誰にも言わないから」
自分から誰にも言わないなんて口にする人間は信用ならない。本当の関係も何もないからあまり関係ないけど。
「だから皆に伝えたことがそのまま真実だって。帰り道でたまたま会って、声かけたら仲良くなっただけだって」
先日の一件で陽太と若宮は二人の関係をクラスメイト達に問い詰められた。一部脚色を交えて納得させるのは相当苦労した。
「えー、本当に?」
「本当だって」
「折角陽太にも春が訪れたと思ったのになー」
「お前、人の心配してる暇あったら彼氏の一人や二人作れよ」
「運命の王子様が現れるまで私は初物でいたいのよ」
「ああ、はいはい」
彼女との応酬には付き合ってられない。
「でもさ、真面目な話、陽太が凄いことしでかしたのは確かだよ。あの若宮さんに……私達同性にも遠い存在のように思えた子と仲良くなるなんて」
「……まさか若宮ってあまりよく思われてないのか?」
「ううん、そんなことないよ。運動も出来るし頭もいいし。ただちょっと大人しい子だから真っ向から話せなくて、裏で若宮さんって凄いよねって話してる感じ。明花さんの下位互換って言えばわかる?」
「ああ、オッケー。把握した」
姉の明花はあまりの優秀ぶりに加えて美貌なことから女性からも慕われている。また実際に彼女に惚れて告白した女の子も存在する。明花は漫画の世界の住人かもしれないと疑ったことすらある。
「対等に話してみると普通の子だけどな」
「その対等ってのが中々難しいのよ。言っておくけどね、あの新村君も『あの陽太が!?』って驚いてたぐらいなんだから」
守の中の俺への評価どうなってるんだろ、と純粋な疑念を抱いた。
「帰り道で偶然若宮を見つけた時、猫を大事そうに抱きかかえてたんだ。だから猫が好きなのかって聞いたら話が広がった。きっかけはそんなもんだ。何でもいいから臆さずに話してみろって」
「今のクラスになってからもう半年近く経つんだよ? 今更簡単に出来るもんじゃないでしょ」
相手の警戒心を少しでも解くために一度話してみたかったという手を使ってみたが、冷静に振り返ると時期的には少々異質だ。そのことは否定しない。
「そうそう、それと聞いたよ。陽太、ちょっと前まで若宮さんの後をつけてたんでしょ? そうまでして仲良くなりたかったってことはあんた、若宮さんに惚れたってことなんだね。つまり今はまだ友達だけど、いずれは告白とかするつもりなのよね?」
まず浮かんだことは、こういった色めいた話題から真面目な話題にシフトしたんじゃないかということ。それとどうして急にそのことを引き合いに出したかということ。二つの疑問に板ばさみになりながら捻り出した回答は、
「誰から聞いたよそれ」
とりあえず諸悪の根源を潰すために知っておかねばならない情報を引き出すことにした。
「新村君」
「だと思った」
さて次会った時、あいつにどんな報復を仕掛けてやろうか。陽太の腹の中にどす黒い渦が渦巻いていく。
「それよりどうなのよ。やっぱり若宮さんのこと好きなの?」
「同じこと何回聞くんだよ。人間としては好きだ。けど異性としてはまだその段階まで程遠い」
「何よそれ。最低なことしといてただ友達になりたかっただけとか信じられない」
人を小馬鹿にした態度の物言いだ。しかし正論ではあるのでこれといった反撃は出来ないのが悔やまれる。
「ま、あんたが若宮さんをどう思ってるにせよ、私が二人の恋のキューピッドになってあげるわ。感謝しなさい」
「頼まれてもないのに感謝なんかするかよ。むしろいい迷惑だ」
「とかいって本当は嬉しいくせに」
女性の更衣スペースのドアが開けられる。すると快活な笑顔を浮かべたポニーテールの少女の姿が現れた。彼女が紫小菊本人だ。周囲の人間も笑顔に変えてしまうほどの眩しい笑顔はまるで太陽のようだ。
「人の気持ちを勝手な憶測で決めないでくれ」
「折角の懇意なんだからありがたく受け止めなさいよ」
小菊はずいと身を乗り出して陽太に顔を近づける。ニヒヒ、と悪戯を仕掛けた子供のような笑みを押し付けてくる。
「小菊が人に親切を押し売りしようとしてるのは充分理解した。しかしいいのか? もう勤務開始時間過ぎてるぞ?」
「え?」
素っ頓狂な顔をした小菊は壁にかけられている時計に目を向ける。
「うわ、マジじゃん! 何で言ってくれなかったのよ!」
「お前が時間ギリギリで来たくせに若宮に関する話題を振ったからだ」
限りない時間でもお喋り魂に火をつけて生きる姿勢には感服すら抱く。
「さ、店長に怒られてこい」
「くっそー、この恨み覚えてなさいよ」
「恨みは自分のものだからな」
最後の最後まで口を開くその根性、末恐ろしや。
スタッフルームを出ようとしたところで小菊は陽太の方を振り向いた。
「というわけで今度、私も若宮さんとの会話に混ぜてね。それじゃあねー!」
彼女は嵐のような勢いで消えていった。
「あいつ、最後のあれ言いたかっただけだろ……素直じゃないなあ、ったく」
馬鹿だけど純粋で底抜けに明るい彼女の働く姿を横目に陽太は店を出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
陽太がアルバイトとして働いている店は駅前の通りにある小さな喫茶店だ。週に二、三日程シフトを入れている。
働くようになった動機は部活動に入る気はないがそうすると時間をもてあます。なので働くことでその埋め合わせを行うことにしたのである。
明花を説得するのには骨が折れた。
陽太の通う風ヶ丘高校はアルバイト禁止と生徒手帳に書かれているが、書かれているだけで既に校則として成り立っていないのが現状だ。他の生徒達も平気な顔してバイトをし、先生達も見てみぬフリをしている。しかし明花は校則などに厳しい人間であるから、バイトをしたいという陽太を非難し糾弾した。陽太は陽太で意地になり、今働けば社会勉強になるから、という旨を繰り返し繰り返し訴え、激論の末ようやく明花に認めさせた。条件として成績を落とさないことを提示されたが、今のところは何とかなっている。
店まではいつも自転車を使って来ている。学校に行くのに普段は徒歩だが、バイトのある日は正門から学校を出ないといけないために自転車で登校している。
バイト終わりの上機嫌な気分で、ふんふふーんと鼻歌を鳴らしながらゆっくり自転車を漕ぐ。自分以外の高校生達が伸び伸びと歩く様子を眺めながらお気楽気分でいたのだが、ビル群の中では異質な小さな公園から怒声が上がるのを聞いた。何事かと思い、公園の入り口で自転車を止める。
公園の中にいたのは中学生くらいの少年三人に、同じ背丈くらいの少女だった。
少女は腕を少年の一人に掴まれていた。声を張り上げて少年達に向かって何か叫んでいる。
よく見ると少女の制服には特徴があった。近所で有名なお嬢様学校の制服。そして、限られた人間しか着ることの出来ない制服を上に着込む可憐な少女の正体は。
「……おいおい、マジかよ」
長いツインテールを振り回し、ニタニタと気味の悪い笑顔を浮かべる少年達に必死で抵抗しているその少女は先ほどまで小菊との会話で話題に上がった若宮の妹、赤恵だった。
あの穏やかな若宮とは似ても似つかない強気な目で少年達に言葉をまくし立てている。そこにお嬢様らしさは一切感じられない。
何やってるんだよ、あいつとため息をつく。
幾ら生意気な少女で、第一印象がすこぶる悪い相手でも見たフリをして帰るのは反義に値する。仕方ないと嫌々足を公園内に向けた。
「はいはい、やめやめ。喧嘩はよくないぞ」
拮抗している両者に気配なく割り込んであっさりと赤恵の腕を解放した。
「誰だお前!?」
「え……何であんたがここに!?」
両者から敵意の篭った目を向けられる。ううむ、少なくとも若宮の妹は助けてあげたんだから見方を改めてくれると嬉しいんだが。
「こんな目立つ所で騒ぎ立てるなって。警察が来てないのが不思議なくらいだ。お前ら中学生だろ? 補導されたくなかったら大人しく手を引いとけ」
実力ではなく、あくまで言葉で諭す。どうしてこのような緊迫した事態になったのかという疑問は今は置いておく。とにかく喧嘩沙汰にならないのが一番だ。
「は? あんたも同じ中学生だろうが! つーかむしろ俺達より小さいし。あれだろ、中二病ってやつ。ああ、でも正義の味方気取りで助けに入るなんて中二病なんかよりもっと幼いか」
少年達は突如現れた乱入者に対して数が勝っていることから余裕を見せ、下劣に笑った。
しかし彼らは知らない。彼らが陽太に対して放った煽りは、陽太に一番言ってはいけない類のものであるということに。
「ほう。俺が中学生と。俺の方が小さいと。中二よりも幼いと。お兄さん的は人を見かけで判断するのはよくないと思うけどなー?」
「え、何、あんたまさか高校生? うわ、ちっせー! チビだチビ!」
かろうじて保っていた理性も「チビ」の二文字に消えてなくなった。
「君達はどうやら先輩に対する礼儀を知らないようだね。駄目な子にはおしおきだよ? 身を持って教え込んであげるよ糞餓鬼共が」
さて、陽太がここにやって来た目的は赤恵を魔の手から救出するためである。過程はともかく、結果として彼はその大義名分を果たしたといえよう。
陽太は少年達を大人気ない手法で抵抗なんてものが出来なくなるほど完膚なきまでに、圧倒的な力をもってして打ちのめした。少年達は「お、覚えてろ」と半泣き状態で幾度も転びながら逃げ帰っていった。
「口ほどにもないやつらだ」
少年達を清々しい目で陽太は見送る。後ろで赤恵が一言物申したい思いをしていたのに気づく事はなかった。
「あんた、何で私を助けたの?」
その声で陽太は赤恵がいたことを思い出し、こちらを睨んでくる彼女に平然とした顔で頭を掻きながら答えた。
「あいつらに絡まれて困ってたから出向いてやったんだ。感謝しろよ」
陽太は赤恵からの明らかな牽制を感じていた。故に皮肉に近い言葉を並べる。
「私は助けてくれなんて頼んでない。あんたが勝手に入ってきたのよ。だから感謝なんかしない」
「あー、はいはい。どうせそう言うと思ったよ。ま、たまたま見かけたから駆けつけただけで感謝なんてこれっぽっちも期待してなかったら別にいいさ。それよりもこんなこと二度と起きないように気をつけろよな」
正直な所、陽太から見た赤恵の印象はあまりよくない。
それに加え、一度接見した時と今の態度から赤恵も陽太にあまりいい印象を持っていないのはよく分かる。というか、むしろ最低評価を貰っているだろう。
顔を会わせていてもいいことなんか何もない。一刻も早く別れた方がお互いの身のためだ。
じゃあな、と適当に返事をして身を翻そうとしたところで、赤恵が「待ちなさい」と呼び止めた。
「何だ?」
「言っておくけど、あんたが助けに入らなくても、私一人で何とか出来たんだから!」
少年達の腕をどうにかしようと必死な顔をしていた赤恵の姿を思い出しながら、そうですか、と投げやりに言った。
「あんた信じてないでしょ?」
「そりゃあなあ。あんだけ表情を歪めて、罵声を浴びせながら抵抗してたのに一向に事態は好転しなかったら誰でも信じないと思うぞ」
「そ、それはそうかもしれないけど! ま、魔法が使えたならあんなやつら……!」
赤恵は悔しそうに奥歯を噛み締めた。
そんなツインテールの少女をぼんやり見つめ、
「使えばよかったんじゃないの?」
と発言した。
赤恵の動きが止まる。
「使えばって……あんた何言ってるの?」
「いやいや。だって考えてみ? 魔法をかけて彼らを吹き飛ばしても、一般的な目線から見たらせいぜい怪奇現象が起きたと思うくらいだろ? 聞いた感じ、魔法は本来秘匿のものっぽいから軽々と話せなくても、発動する分には誰も魔法なんて思わないから平気じゃないのか?」
陽太はスラスラと口を動かすが、赤恵は中々反応を返さない。しばらく返答を待ってようやく口を開いた。
「お姉ちゃんの彼氏なんでしょ? 聞いてないの?」
「聞いてないよ。俺が聞いたのは触りだけ」
赤恵はどうやら唖然としているようだ。
「お姉ちゃんと付き合ってるのに、何で聞いてないのよ」
どういう理屈だ。
めんどくさいから若宮と恋人関係であるというのもその場限りの嘘だと説明しようとした。しかし、ここで赤恵に暴露したとしても勘違いが解けるだけで、若宮に対しての心持ちは変わらないだろう。むしろ猜疑心を煽ってしまうかもしれない。よってここではそのことを口にしないと決意した。
「別に付き合ってるからって全部知ってるわけじゃない。恋人同士だって一つや二つ秘密はあるもんさ。そんな全てを包み隠さぬカップルなんて、夢のまた夢だ」
「ゆ、夢見て何が悪いのよ!?」
赤恵は怒りと羞恥心で顔を赤くした。
彼女の思わぬ純然ぶりに驚くと同時に、勝手な逆ギレをされたことに理不尽を感じた。
「幻想を抱くことには誰も文句を言わないから気にすんな」
「どういう意味よそれ!?」
フォローしたつもりが逆に反感を買ってしまったようだ。
「とにかく、魔法は人前じゃ使えないのよ。さっきみたいな切迫した場面では魔法を練り上げる余裕なんてないし、魔法を使える環境下においても、一般人の目があるところで使用することは禁じられているわ。人の命なんかが関わってきたら話は別だけどね」
赤恵は自分の失態を覆い隠すように説明を挟んだ。
なんというか、面をくらった。第一印象は陽太の生涯の中で一、二を争うほど嫌なやつとなっていた。
しかし、このテンプレツンデレのツンのような態度を思う存分発揮する姿はむしろ姉の若宮より女の子らしい。後はデレさえくれば文句はないのだが。
「でもさ、悪い魔法使いはそんな言葉だけの禁則に耳を貸さないだろ。魔法を使って殺人でも起こした日にゃ迷宮入り間違いなしだ」
「いいえ、そうとも限らないわ。魔法を使った事件が発生した場合、魔力の出所を検出して犯人を割り出せるから。指紋と同じね」
いつしか赤恵は得意気になり始めていた。
「第一、魔法を使って事件を起こすなんて手間がかかってしょうがないわ。人を殺せる威力を持つ魔法使いそのものが希少だもの。例え私が加害者になるとしても、魔法は絶対に使わない。魔法を使うぐらいなら、安全かつ手短に犯罪を行えるナイフとか現代兵器を凶器にするわ」
非常に物騒なことを口走っているわけだが、彼女は意に介してないらしい。あくまで例え話ということだろう。
「あれ、でも昔は忍術として暗殺やらなにやらしてたんじゃないのか?」
「いつの時代の話してるのよ。今は科学技術の時代よ。魔法のような幻想の時代はもう終わったの。今は魔法そのものを残すだけで必死なんだから」
「へえー、そんなものなのか」
「そうよ。どう? タメになった?」
「なったなった」
赤恵は得意気な笑みを見せた後、ハッと我に返ったように陽太から身を引いた。
「ふん! 無知な相手には説明しておかないとまともに会話が続けられないから、そのためにわざわざしてあげたんだからね!」
「俺とまともに会話を続けるつもりだったのか?」
「ハッ!? ち、違うわよ、語弊ってやつよ! あんたなんか顔も見たくないわ!」
分かりやすい。というかチョロい。
「昨日若宮から聞いてたけど、本当に現実の魔法は創造の物語よりもずっとしょぼいんだな」
赤恵が割と話せる人物だと見抜き、若宮の前では言えなかった落胆の言葉を口にしてしまう。
「はは、悪いな、こんなこと言って。やっぱ俺、ちょっとファンタジーに考え過ぎてたっぽい。まあ、こっちの方が妙にリアリティがあって、下手に派手な魔法なんかより信じられるのも確かなんだけど」
ただ、ちょっと寂しく感じるのは否定できない。全く、俺ってば見た目どおり子供みたいに自分勝手だ。
「今の言葉、出来るなら若宮には言わないでくれ。俺の勝手な意見だからさ。魔法ってものを見せてくれたあいつに失礼だ。愚かな一般人目線の解釈って考えてくれると助かるな」
今度こそ赤恵に別れを告げようとする。しかし彼女は再び引き止めてきた。
「お姉ちゃんはどうしてあんたに魔法を教えたの?」
「それはだな……」
良い言い訳が思いつかなかったので、事故に遭いそうになったところを魔法で助けられたというのは真実だと伝えた。自分もよく分からないが、あの時の彼女は少しおかしかったという一文も添えて。
「で、その後俺が魔法を見せてくれってせがんで、若宮に地下世界のことも一緒に教えてもらったってわけ。以上だ」
赤恵は複雑な顔を浮かべていた。
「あなた、いえ、えっと……」
「大平陽太だ」
「……大平さんはお姉ちゃんの大切な人なんでしょ? 本当に大切と思ってくれてるなら、お姉ちゃんに言ってやってよ」
「何て?」
「それでいいのかって」
彼女の頼んだ伝言は当然陽太に意味は理解出来ない。
「お姉ちゃんが本当にそれでいいのなら私はもう、貴女に譲るつもりはない。これが最後のチャンスだよって」
赤恵は最後まで言い切るとふう、と息をついた。
「……さっきはごめんなさい。少し感情的になってた。でも、昨日までのことを許すつもりはないからね」
「そこは寛容な心で許してくれよ」
「はあ? 何甘えたこと抜かしてんの」
やっぱりこいつは生意気だ。
「話したいことは全部話したわ。もうあんたと向かい合う必要はない。このままだと帰り遅くなっちゃうし、帰らせてもらうから」
踵を返そうとする赤恵を今度は陽太が制止させた。
「ちょっと待った。二つほど聞きたいことがある」
「二つほどって強欲ね。何よ」
「結局、どうしてあの少年達と争ってたんだ?」
ああ、と赤恵は遠い記憶を見るかのように語る。
「友達があいつらに絡まれてたから助けに入ったの。で、あいつら、今度は私に文句言ってくるわけ。先に友達を逃がして徹底口論してやろうと思ったら、相手も怒って手を出してきたってところよ」
今ではもうどうでもいいような言い草だった。
「じゃあ、最後の一つだ」
赤恵は無言で陽太を見た。
「俺は君のこと何て呼べばいい?」
「……私の名前はどうせお姉ちゃんから聞いてるんでしょ? お姉ちゃんの呼び方と混同しないような呼び名を考えておきなさい」
「オッケーだ、赤恵ちゃん」
「何で彼女のお姉ちゃんより気安く下の名前呼んでるの!? あんた馬鹿なの!?」
赤恵はプリプリ怒りながら公園を出て行った。
残された陽太は若宮と赤恵の関係性を思案する。ついでに赤恵はいじりがいがありそうだ、とくだらないことも一緒に考えた。