05 友人への報告、そして疑問。
「おはよ。で、昨日はどうだった?結局会ったの?」
「…会って前世の話をされた…」
「あっははははははははは!!!!!!」
昨日から手紙の件について相談に乗ってくれていた友人・コーレアは私の言葉を聞くなり爆笑し始めた。気持ちは分からなくも無いが、あの訳の分からない状況・恐怖を味わった身としては目の前で笑い転げる相手を自然と睨んでしまうのは仕方がない事だと思う。
「ごめんごめん、謝るからもっと具体的に教えて」
眼尻に溜まった涙を拭いながらコーレアが私の前の席へと腰を下ろす。口の端がひくついている様子からまだ笑い足りていない事は一目瞭然だ。しかし私もこの件を一人で抱え込みたくは無かったので、物申したい気持ちをグッと抑え相手が王子だという事を伏せながら昨日の出来事を説明していく。そして話を進めていくにつれ、にまにまと聞いていた友人の顔は段々と引きつったものになり、最終的にはドン引きしたものになっていった。
「それは何というか…笑ってごめん…」
「うん…」
「『君は前世から僕と結ばれる運命だったんだ』みたいな話を想像してたら予想の斜め上をいってたわ…」
「うん……」
王子が、それも4人もの王子が大真面目にこんな話をするものだから、もしかしておかしいのは自分なのではないかと少し自信を無くしていた。が、やはりおかしいのは向こうらしい。…良かったと思いたいが、王子が電波という事実は果たして良かったのだろうか…。
「その『乙女ゲーム』と『ギャルゲー』って人間界にあるオモチャだっけ?」
「うん」
「そこまで具体的な妄想が出来るって事は相手は人間かしら?それとも人間界オタクの獣人や吸血鬼?」
「……………。」
大正解。昨日居た王子の内二人は人間、一人は獣人、そして残りの一人は吸血鬼だ。
コーレアが人間を第一に挙げたのには理由がある。
基本的に、人間界特有のものは幻想界へ・幻想界特有のものは人間界へは持ち込めない。例えば人間界特有の科学で作られたものを幻想界へ持ち込めば、こちらの環境が壊れてしまう可能性がある。それではゲートを閉じた意味が無い。逆に幻想界にある魔道具をあちらへ持ち込めば人間界の科学の発展を妨げてしまう可能性もあるだろう。第一、まともに魔道具を扱える魔力持ち自体が少ないのに下手に扱って暴走なんかしたら目も当てられない。一応どちらの場合も事前に申請を出せば持ち込める場合もあるが、その為の審査は非常に厳しい。なので、個人的に何かを持ち込もうとする者は滅多に居ない。そんな訳で、幻想界側の住人は人間界側の道具について、噂に聞きかじった程度の知識しか無いのだ。こちらには無い科学に憧れを抱き、それらに関する膨大な量の知識を有する人間界オタクも居るが、果たして王子達がそうなのかどうかは知らない。…予想にエルフを挙げなかったのは、自分の種族にそんな電波が居るとは思いたくなかったのだろう。
そんな私情を挟みつつもドンピシャで相手の情報を言い当てた友人に、どう返したものか思考を巡らせる。せめて王子と関わったという事実を無かった事にしたくて詳細を伏せたのに、バレてしまってはどうしようもない。王子が電波だと誰かに言うのも怖いし、何かの間違いで信者に王子と関わった事がバレるのも怖い。勿論コーレアを疑う訳では無いし、種族がバレた程度で王子に辿り着くとは思えない。が、人生何が起こるか分からないというのを昨日体験した身としては少しでも心配の芽は潰しておきたいのだ。
…しかし、上手い誤魔化し方を必死で考える私の頑張りは不要なものだった様で。明らかに困った様子の私を見たコーレアは「まぁどうでもいいわ」と早々にその話題を切り上げてくれた。彼女のそういうところが好きだ。誰とは言わないが彼らも是非見習って欲しい。
「それにしても、人間も変なモノを作るわよねぇ。擬似恋愛だなんて非生産的な事せずに現実で恋人を作れば良いのに」
「なんだろう。今、よく分からないけれど色んな人を敵に回した気がする」
「ユッカも早く悪女だった前世を受け入れてくれる恋人を見付けなさいな」
「悪女じゃなくて悪役ね!」
「同じでしょ」
「いや何かニュアンス的な!!」
…そういえば、何故彼らは"悪役"の私に忠告をしてくれたのだろうか?悪役だと言うのなら、放っておけば良いのに。結局『攻略者』に注意しなければならない理由もよく分かっていない。獣人"の"攻略対象って事は、恐らく他にも攻略対象は居るのだろう。…その人達にも同じ事してるのかな…。
昨日居なかった王子達も電波系なのかとか、他にも私と同じ恐怖を味わった子は居るのかとか、そもそも何で私が巻き込まれたのかだとか。他にも色々と疑問は尽きないが、一番気になるのは。
五の王子にやたら嫌われていたけれど彼らの中で前世の私は一体何をした設定なんだろうか。