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03 王子様からのお話

王子は、イケメンだという以外にも共通点がある。


名前だ。


彼らは名前のどこかに数字が入っているのだ。そんな奇跡的過ぎる偶然の共通点も、彼らの王子様ポジションを確立させた要因のひとつだろう。誰が言い出したのかは知らないが、王子達はその奇跡的偶然を掬い取って『一の王子』『二の王子』と呼ばれていたりもする。




で。




「…だから!さっきから言ってんだろ!?俺達の前世は乙女ゲーの攻略対象でその時のお前は悪役!それでもって今世のお前はギャルゲーの攻略対象なんだよ!!!!!」




三の王子に怒鳴りつけられるという冒頭に戻る。


ここら一帯に生息する不良のトップに立つ番長殿に怒鳴りつけられて恐がらない女子なんているのだろうか。少なくとも私は無理だ。恐い。超恐い。何故だ。何故こうなった。混乱していたとはいえ「えっ?」って5回位聞き返したのが悪かったのだろうか。………番長殿じゃなくてもキレますね………。


でも仕方がないじゃないか。呼び出されて、その呼び出し相手が王子で、しかも4人居て、状況が掴めず混乱しているところにそんな事を言われたら聞き間違いだと思うじゃないか。未だに聞き間違いなんじゃないかと疑う気持ちは勿論ある。だがしかし、残念ながら私の耳は高性能。ここまで何度も聞いたら流石にもう聞き間違いなんて事がありえないのは分かっている。からかっているにしては本気過ぎる王子の目と熱の入りように、どうしていいのか分からず視線をうろうろ彷徨わせていると三の王子の少し後ろに立っていた人物と目が合った。



仁科碧。



穏やかで誰にでも優しいと評判の王子。確かこの人は番長殿と幼馴染で、番長が行き過ぎた行動をした際にはそれを諌めるストッパー役を務めていたはずではなかろうか。二の王子、今です。今がその行き過ぎた行動をしている時です。藁にも縋る思いで彷徨わせていた視線を固定すると、必死に助けを乞うている様子に気が付いたのか。二の王子が三の王子の肩へと手を掛けた。




「三郎。女の子に怒鳴らない。」


「………悪ィ」


「謝る相手が違うでしょ?」


「……………。」


「もう…ごめんね、ブバルディアさん」




三の王子へ向けられていた咎める様な視線は心底申し訳なさそうなものへと変わり、今は私へと注がれている。颯爽とこのピンチから救い出してくれた二の王子は、今の私にとって真の王子様と言っても過言では無い。今親衛隊やらファンクラブやらに勧誘されたら二つ返事で加入する自信がある。




「ここからは、僕が話すね?意味が分からないだろうけど…ブバルディアさんの今後に関わる事だから、しっかり聞いて欲しい」




すみません、勘違いでした。


二の王子へと向けていた尊敬の念が急速に萎んでいくのが自分でも分かる。よくよく考えなくても貴方様は私を呼び出したメンバーの一人でしたね…何故忘れていたのか…。真剣な顔付きの王子と死んだ目をした女子生徒が向かい合うという何ともシュールな状況を気にする人は今この場に誰も居ない。もう何でも良いから適当に話を合わせて一刻も早くこの場を去ろう。それで今日は早く寝て明日には全て無かった事にしよう。と、私が若干変な方向へ決意を固めていると、どんな形であれ話を聞くつもりになったのを感じ取ったのか。二の王子は真っ直ぐに私を見詰めながら、静かに口を開いた。




「『乙女ゲーム』と『ギャルゲー』については知ってる?」


「えーと…擬似恋愛を楽しむゲームで…提示される選択肢を上手く選んでいくと最終的に誰かと結ばれるみたいな内容でした…っけ…?」


「『攻略対象』については?」


「そのゲーム内に数パターン用意されている、擬似恋愛を営む相手とか…確かそんな感じだったような…」


「うん、大体そんな感じ。…ただね、ブバルディアさんやその他大勢の人達が認識しているその内容と、実際には少し違うところがあるんだ。それは『乙女ゲーム』も『ギャルゲー』も、ゲーム内だけに存在する架空の世界なんかじゃあ無く実際に存在する世界の一つだという事。それで、僕達の前世はその無数にある『ゲームの世界』の一つに存在していた『攻略対象』なんだよ」


「……………。」




どうしよう。二の王子が真面目な顔で三の王子以上に電波な事を言い出した。…落ち着け、落ち着け私。変に刺激をしてまた怒鳴りつけられるというパターンは避けたい。二の王子がそんな事をするはずはない、と思いたいが、電波っていう時点で想定外なのだ。この先何が起きても不思議じゃない。刺激をしないよう、話を、合わせなくては。




「えー…っと…とても夢に溢れるお話です…ね…?」




引きつった笑顔(になっていたかも怪しい)を浮かべ搾り出した返答は、どうやら十分に相手を刺激するものだったらしい。三の王子にものすっごい勢いで睨まれた。それに対して「ヒェッ」と情けない声を上げてしまったのはしょうがない事だと思う。




「三郎、落ち着いて。ブバルディアさんの反応は無理も無いんだから。…怖がらせちゃってごめんね?それで、ここからが本題。」




真剣ながらも優しげな声は、三の王子から私を守ると同時に更なる絶望へと叩き落とすものらしい。これ以上まだ何かあるのかと、悲壮感たっぷりな目を声の主へ向ける。その目に気が付いているのかいないのか。もう勘弁して欲しいという私の意志は汲み取られる事無く、二の王子は容赦無く言葉を紡いだ。




「ここも『ゲームの世界』の一つ。様々な種族の女の子と恋愛する事をコンセプトとした『ギャルゲー』の世界で、ブバルディアさんは獣人の『攻略対象』なんだ。」




得体の知れない相手と会話をしている恐怖からだろうか。いつもは堂々と私の頭の上に鎮座している自慢の犬耳は、自分でも可哀想になる位ぺったり垂れ下がっていた。




帰りたい。

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