01 始まりの手紙
ユッカ=ブバルディア様
大切なお話があります。
本日の放課後、視聴覚教室で待っています。
今日の朝、私の下駄箱に入っていた手紙の内容だ。たった二行の簡単過ぎる文面に宛名である私の名前が添えられただけの手紙。果たしてこれを手紙と呼んで良いのかすら疑問になるレベルの内容ではあるが、一応封筒には入れられていたので手紙と呼ぶ事にする。
「フツーに考えたらラブレターじゃない?告白の呼び出し」
「ラブレターに関するフツーが分からないけれど、細かい用件も差出人も書いていないのはちょっと行くのを躊躇う」
「告白をするので来てくださいなんて書かないわよ。名前に関しては…うっかり書き忘れたか、証拠を残したくなかったんじゃないの」
私に告白をしたって証拠を残したくないというのならラブレター(と決まった訳じゃないけど)なんぞ出すなと言いたい。そんな気持ちを込め、前の席に座り手紙をひらひらさせながら話す友人をじとりと見てしまったのはしょうがない事だと思う。
「これって見なかった事にしちゃダメかな…家に帰ってから見るつもりでした的な」
「薄情者」
「名前も知らない相手にそうそう情なんてわかないと思いますぇ"う"っ」
言い終えるかどうかのタイミングでペシッと顔面に手紙を返された。手に返してよ。
粘着力も何も無いただの紙がすぐさま顔から剥がれ落ちるのは当然で、ヒラリと落ちるそれを慌てて両手で受け止めた。そしてその時、慌てた表情の中に少しの困惑が含まれていたのを友人様は見逃さなかったらしい。
「どうしたの?」
「いや…やけに良い匂いのする手紙だと思って」
「知ってる匂い?」
「いや全然」
手紙を再度顔に寄せ匂いを嗅ぐ。…これは意図的に付けた匂いなんじゃないだろうか。だって、移り香にしてはしっかりと匂いが染み付き過ぎている。そしてこの顔を寄せなければ分からない程控えめな香りを選んだのは、恐らくこちらに対する配慮だろう。匂いがキツ過ぎるものは駄目だ、鼻が痛くなる。
…うーん…匂い付けの意図は分からないけど…こんな気遣いが出来るって事はそんなに悪い人じゃないのかなこの差出人…それに行かなかったらずっと待ってるつもりなのかな…
「情なんてわかないとか言ってる癖に…」
手紙を顔に寄せたままうんうん唸っている私に、呆れた様な、溜め息混じりの声が届く。
「それなら、とりあえず視聴覚教室の近くまで行ってみたら?何か変なら引き返せば良いし、大丈夫そうなら会えば良いし。あんたなら聞こえるでしょ」
「…うん、そうだね。そうする。」
手紙を顔から離したところでタイミング良く予鈴が鳴る。私は手紙をそっとカバンに戻し、1時間目はなんだったかなとカバンの中にある時間割表を探した。