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非力な魔王と無力な勇者

作者: 稗田阿灯

短いけど、私なりに頑張った。

こことは違う、どこか遠い異世界。

魔法もモンスターもあるこの世界では、大規模な戦争が起きていました。

自らの敵を殲滅せんとする人間側と、かつて住んでいた土地を取り戻そうとする魔物側で。


始まったそもそもの原因はもう誰も覚えていませんが、過去の文献を見るに、欲に溺れたとある人間の王が資源を求め軍隊を率いた説が有力とされています。


百数十年続くこの戦争は完全に拮抗していて、この先も永遠に続くと双方の民は思っていました。


しかし、国境に近い国の王さまは痺れを切らしました。

なぜなら魔物を少し強いだけの獣としか考えていなかったからです。

王さまは国力をあげ、とある人物を探しました。


そう。勇者です。

まだ若い青年であったものの、熟練の騎士にも勝る実力を持つ勇者は、手の甲に刻まれた紋章の効果もあってか送り出されるやいなや次々に魔物を蹴散らしていきました。

それこそ、単騎で将軍や四天王を倒すほどに。


そして、いつしか彼は全ての元凶と聞かされていた魔王のいる城へたどり着いたのです。


その城を守る魔物でさえ勇者の猛攻を止めることができず、一匹、また一匹と殺されました。


幾多の屍を乗り越え、ついに開いた最後の扉。

ここに、魔王はいました。

勇者は魔王の正体を知りません。

むしろ人間側の誰も知りません。

それは魔王がこの数十年表に出てきていなかったからです。

でも多くの民は、大柄な男だと勝手に予想していました。

勇者もその一人でした。


故に、開いた扉の先にいた、幼い少女を魔王だとは思えませんでした。

感じる魔力も服装も、容姿もなにもかも。


唖然とする勇者に向けて、魔王はこう言います。


私は魔王です。父の先代魔王は病で死にました。だから娘である私が魔王になりました。

私にはもう家族も仲間もいません。

貴方に殺されたからです。

さあ殺しなさい。今までそうしてきたように。覚悟はとうにできています。


勇者は躊躇います。

いくら魔王とはいえ、無抵抗の少女を手にかけるほど腐った人間ではありませんから。

しかし、幾度とない葛藤の末に彼は魔王を斬りました。


何故そういった行動をとったのか、今ではわかりません。

勇者はその後姿を消したからです。


かくして、長きにわたる戦争は人間の勝利、そして魔物の全滅で終わりました。

頭を失った兵はとても弱いのですから。




魔王であった少女が死んで以来、世界中で紅い雪がふるようになりました。

不気味なほどに真っ赤なそれは、まるで、あの日流れた魔王の血のようで、人々は忌み嫌いました。

同時に魔王が死んだ記念なので、複雑な気分のようでしたが。


紅い雪ふる街で、一人の老人が震えています。

その原因が寒さなのか、それとも何か思い出したからなのか。他の人には不明です。


老人は、手の甲に掠れた王国の紋章を刻んでいた…そんな噂が流れます。




これは、どこか遠いところの物語。

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