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こよいこよいこ  作者:
かみさまほとけさま・若女
5/18

05

「だろうな。パソコンでテキトーに作ってっから」

 テキトー!?

 愕然としたあたしに、ギャルが補足してくれた。


「普通は、くじって「運勢」より、下の、何かダラダラ書いてあるとこのが大事なんだよ。それに、大吉だから下のとこも全部最高とか、決まってねえし。

 けど、志信くじは、願い事してから引くんだよ。で、運勢がイイほど叶うってわけ。叶うかどうかを試すくじ。

 そうゆうの知ってて引くやつは、下のとこなんて読まねえよ」


 何せ、テキトーなんだもんなあ。

「ムカつくのは、こいつが入れるくじに、ほとんど大吉がねえってことだよ。小吉とか凶とか、悪ぃのばっか」

「願い叶うとか、思い込みだろ? だったらこの札だってそうだろ。俺手製! 税込み5万で!」

 高っ! さっき紙っきれって言ったのに!


「買わねーよ! つーかもーやめるっ! やめてやるー!!」

 ギャルは力いっぱい叫ぶと、どこかへ走り去っていった。



 境内は、しっとりした静寂をとり戻した。あたしも目的を思い出した。

「あの、だからあたし、おみくじのお金払わないと」

「あぁいーよ。引っ越し祝いってことで」


 おみくじが?

 …………。しょぼい、と思ったことは否定しない。顔に出る前に、話題を変えた。

「さっきの、やめるって何を?」

「あいつ、来月ここで結婚式すんの。たぶんそれ」


 あの人、昔ながらのギャルだったのか。でも大吉が欲しくって、出ないからやめるって、

「不満でもあんのかなあ」

「さーなぁ。で、あんたは?」

 おもむろに尋ねられた。


「あんたは、何、望むの」


 ぽかんとしてしまった。だって、考えてなかったから。

 返事を待っているのか、神主はただこっちを見ている。


「別になにも……。あ、そんで、これ」

 預かった風邪薬を差し出した。

「ん? くすり?」

「うちのとーさん、営業なんで。使ってくださいって」


「へー、どうも。助かるわ。このかっこ、冬場厳しくってさ」

 だろうなあ。

「昨日、何で正座なんかさせられてたんですか」

「お供えもんのお神酒、飲んだから。外掃除、さっむすぎて」


 神主さんたちの世界って、そんなふうなんですか……。

 知らないあたしは頷くしかない。でも、この人の人となりが、うっすら確認できた気がした。


「いや、俺がお神酒飲むって、ふつーのうちで、子供がビールの泡なめるようなもんだから」

 えぇぇ? ほんとーかよ?


「うちは“お狐さまを大事にしろ”って、死んだじいさんの言いつけがあんだよ。そんでああなったの。まあここ、稲荷神社だし、当たり前だけども」

「でも、テキトーなんですね。神様とか、信じてないんでしょ?」


 神主なのに。嫌味を込めて言うと、なぜか笑われた。

「じゃー、あんた信じてんの?」

「え? いや、そう言われると……」


 だけど、あたしとあなたでは神様の重みが全然違うでしょうが。と言いたげなあたしに、笑ったまま神主は続けた。


「“苦しいときの神頼み”。人って、切羽つまってど~しよ~もなくなると、とにかく唱えんじゃん。“かみさま、ほとけさま”って。

 昔っからそんなんばっか見てきて、どうやったら本気で信じられる?」


 う、まあ、そうか。


「でもあれ、違うのな。神とか仏じゃなくて、実はみんな、未来の自分に頼むんだよ。

 唱え終わったあとに、何かふっきれたり気分変わったりすんじゃん。そういう、先の、ちょっと変わった自分に」


 あら?


「人生変えんのって、結局、自分だもんな」


 なかなかイイことも言うんだ。風呂敷みたいなマフラー、巻いてるわりに。見たまんまの人であっても、今の発言にはポイント入れたいと思う。


 調子の上がってきた太陽が、玉砂利を白く染め始めていた。素直な光を浴びて、おおらかな緑と安らかな白は人を落ちつかせるように、そうっと存在していた。


 あたしはついでに、鳥居のギラギラさについて尋ねた。あれは何年か前に、大口の寄進があって修繕したのだそうだ。

 しかしさすがに、他との差が甚だしい。よって今は、鋭意貯蓄中とのこと。


「じゃあ、さっきのギャル放っといていんですか?」

 大事なお客さんじゃないの。

「あいつ、美晴っていうの。同級生。平気へーき、どーせすぐ、やめるのやめるっつって戻ってくっから」


「でもおみくじ、ばくぜんと当たるんですよね?」

「まあな!」

 微妙に誇らしげなのがムカつく。自分の実力じゃないのに。

 それに同級生のことなら、なおさら心配じゃないわけ?


「戻ってこないかもしんないじゃないですか」

「そんときは……まあ、それなりに困る」

「戻ってくるよう善処しなよ!」

「あ、あんた、この札買わね? ホラ、新しい土地で“家内安全”ーー」

「そこに大っきく“藤井美晴”って書いてあんじゃんか!」


 テキトーだ! 根本的にテキトーなんだ! かつ、詐欺まがい!


 勝手なイメージだけど、神主さんとかお坊さんとか、世の中から離れた神聖なる職業の人って、俗っぽい欲望からも遠いんだと思ってた。

 さすがに皆無ってことはないだろうけど、そんな露骨に押し出さなくても! こっちはまた、勝手にガッカリだよ!

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