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こよいこよいこ  作者:
かみさまほとけさま・若女
13/18

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「重要な購買層だし、無下にはできないらしくってね。でも、迷信て言っちゃったらアレだけど、うーん……なかなか、ちょっと、ねえ?」

 理解を乞われて、息子も苦笑した。


「さすがに俺がそこ頷いちゃ、マズいすけど。そういや、あそこは祠だったか、あったらしいっすね。管轄外なんで、俺も詳しく知りません。けど地鎮してるはずですし、大丈夫でしょ」

 からっとした息子を見て、思う。最後は絶対、テキトー発言だ。父はまんまと安心してしまった。


「ねえ、とーさん……」

 思いきってみて、不甲斐なく詰まった。キタノ薬局が困ってるんだよ、なんて、どう切り出せばいいんだろう。

「西谷さん、この町内の薬局とは、商売してないんですか?」


「キタノさん? ああ、あそこさんからは昔、断られたらしいよ。うちみたいな、人も機械も一緒くたに扱う会社は信用ならん、って、先代さんに」

 ……え?

「差し出がましいんすけど、よかったらもっぺん、どうでしょうか? 代替わりしてっし……ぶっちゃけ、ちょっと苦しーんすよね」

 父とあたしは仰天して、情けなさそうにたたずむ息子を凝視した。


「サカキよりゃあずっと利益、少ないでしょうけど……。ほら、昔ながらのとこって、カッコつけて意地張ったりすんじゃないですか。でもたぶん、今の主人は大歓迎だと思います」

 これも「耳澄ましてりゃ、聞こえてくんの」?


「キタノって、漢方薬の扱い、多いんすよね。じーさんばーさんらが、病院行かねぇですませよう、とか思ってっからでしょう。そういう客足は、案外、サカキよりあっかも」

 仰天から先に解けたのは父で、

「そうですか……。報告してみます」

 と、戸惑いながら承諾した。



 うららかな境内に残されて、あたしは息子の横顔を観察した。

 なんていうか、ただ者を装うキレ者? なの??

「……オイ、もし親父さんとこの仕事増えたら、礼はのど飴でな」

「はい?」


 息子はにんまりした。

「俺らの声って、商売道具だし? 風邪薬も、まあまあありがてーけど、予防の方が真心な感じ、すんだろ? 俺ちなみに、スースー系苦手。適度なやつな。ハゲは黒飴とか、大好物」

「もうお礼のはなし!?」

 がめつい! しかも、全体的に小っさい!

 なぜなんだろう、この人……。見直しかけた瞬間、ぶち壊してくれるのは。


 いじくられたケータイには、息子・小坂さん・村井孝介分のメモリが増えていた。そして勝手に、ロック番号が設定されていた。きっと、あたしにメールを消させないように。

 ……人格の振り幅、ずいぶん極端なんですけど。


 この否応ない施しに怒るよりも脱力して、やがて笑えてきた。久しぶりに、体の芯から笑えた。

 可笑しくて、ではなく、何かがつき抜けたような、快さ、で。




 迎えた27日、それはそれはきれいに晴れ渡った。老若男女、町内の人たちが大勢、神社へつめかけた。


 商工会議所のおじさんたちが絶妙な音楽を奏でる中、鳥居をくぐって現れたギャルの白無垢が、きりっとした青空によく映えていた。盛大な光を浴びて、白く輝いていた。

 角隠しの下でそっと俯く彼女は別人みたいに淑やかで、可愛らしくて、小坂さんと目を合わせ、含み笑いしてしまう。


 高木さんは、誠実な眼鏡顔という、予想外な風貌だった。役所とか事務局とかに、何人かいそう。アームカバーと領収印がすごく似合う感じ。照れてはにかみ、心底嬉しそうだった。


「すっごくお似合いだよね!」

 力の限りに拍手する小坂さん。そこはどうなのか今ひとつ同意しかねたけど、神主吊るし上げてまで大吉を求めた気持ちが分かるから、これから似合っていくんだろうな、と思った。


 さて、荘重な空気のもと式が始まって、参列者一同、まず驚いた。

 場をしきるふうに前へ進み出たのが、宮司さんじゃなくて息子だったから。


 普段はそこらの若い人と同じく、ゆる~く整えられてる長くも短くもない髪が、きっちり後ろへ撫でつけられて、尻尾みたいなのがついた帽子(冠)を載せている。

 お祓いのときと違う、深い深い紺色の上衣(袍)。

 両手でヘラっぽい木(笏)を持っていて、まさに教科書で見たことある、平安の人。

 白いハタキみたいなの(大麻〈おおぬさ〉)を慣れた仕草で、しゃらしゃら左右に振る。意外とさまになっていた。


 神前式に立ち会うのが初めてで、あたしは全部を珍しく眺めていたのだけど、そんな外側意識を急に引っぱられた。

 息子が、細長いハリセンを読み始めたのだ。

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