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こよいこよいこ  作者:
かみさまほとけさま・若女
12/18

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 息子のそばにはさまざまな小道具が控えている。どうやらアシスタント役らしい。

「本日はよろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げる両親に倣って、あたしもそうする。お祓いしてもらって何かが変わる問題じゃないんだけどな。


 次第の手順を説明する宮司さん。真剣に聞き入る両親。つまり、とーさんかーさんの真似すればいいんだな、とぼうっとしていたあたしは、同じように、何だか気抜け顔の息子と目が合った。

 小坂さんたちに、余計なこと言ってくれんなよ!とガン飛ばすと、やつの弛緩した眉毛がほのかに寄せられた。


 お祓いは、初めに手を清めたくらい・途中やや頭を傾けたくらいで特に何をすることもなく、ほとんどじっとしていた。

 低くて太い宮司さんの声は体に心地よく響いて、何読んでるのかサッパリ分カラナイところがどこかお経みたいに聞こえて、不謹慎ながら眠たくなった。息子もずっと目を瞑っていた。本当に寝てたかもしれない。


 こわもての宮司さんが一転、満面にこにこで「お茶でもどうぞ」と言ったところで、あ、全部終わったんだ、と分かった。

 あたしは、あのおみくじを持ってきていた。大人たちは和やかに母屋へ向かったけど、まずこれを片づけなければ。きっと、これを持ってるから今までのあたしでいられないんだ。学校始まっても夢を引きずってたり、因縁とか親切とか割り切れなかったり。


「西谷寿子」

 一人逆行していると、呼び止められた。

「呼び捨てしないでくれますか」

 もう、息子の何もかもに腹が立つ。宮司さんのものに若さが加わった分、甘みある声、それだけにも。

「願うことは、当たり前なんだよ。神頼みだって、情けねえとかくだらねえとか、俺は思わねえよ」

 何のはなしだよ?


「くじ、結ぶんなら正直に願ってみろよ。誰に秘密でもいーけど、ちゃんと自覚してからな」

「願い事があるから結ぶんじゃないよ。持ってると、うっとうしいから」

「それって、願い事あるってことじゃねえの? 叶いそうにねえから、持ってたくねんじゃん」

「あのさあ、どーするとそんなふうにあたしのこと断言できるわけ!?」


 いいかげんイラっとして、あたしは詰め寄った。小道具を腕いっぱいに抱えたまま、息子神主は感情の読みとれない、変な顔をした。

「お前が、大吉、ひーたから」

「……はあ?」

「俺に当てられるくらい、お前ん中にあったってことだろ。願ってみりゃいいじゃねえか、それ」


 もしかして、夢のことを言ってる? いやあ、まさかね。

 それでも一瞬どきりとして訝しんでいると、神聖な荷物を、あっさり、砂利へじか置いて、息子は白い袂からケータイを出した。


「まあなぁ、そー言ってもクセはなかなか直んねえよな」

 そしてまたも勝手に、あたしの制服から的確にケータイをとり出した。

「未央も孝介もそりゃガキだけど。お前、思いきって信じりゃあいいのに、また閉じそーになったんだろ?」

 呆気にとられているうちに、かちかち何やら操作されたケータイを返された。


 何された? 不安になるあたしに、息子は言った。

「月末、27日。美晴の結婚式あっから、見に来いな」

「え、いいの?」

「お前、めでたい名前してっし」

 あぁ、なるほどね……まあね……。


「ってか、大吉のはなし終わってないよ。引いた人の願い事なんか、どうして分かんの?」

「分かるわけねーじゃん。耳澄ましてりゃ、聞こえてくんの。神主ナメんなよ?」

 ナメちゃいないし、説明にもなってないよ。この人、いっつも、ふわくらして掴みきれないなあ。真面目に向き合ってんの、かわされる。


「ここが、願い事しに来る場所だからだよ」

「たくさん見てきたから、ってやつ?」

「そんなとこ」

 ふうん……。嘘っぽくてしかたない。

「お前、今、嘘くせぇとか思ったろ?」

「テキトーな神主さんに、そんな繊細な推察、できるのかと」


 そーかもしれねぇが、と呟く息子。

 あたしは手の中にあるおみくじを見つめた。願ってみろよと言われて、それは、平穏に暮らしたい、じゃないって分かる。


 息子に当てられた、あたしの中にないもの。

 欠乏のかたちをして、わだかまってるもの?

 ……本当に、願っていいんだろうか。叶いますように、って頼っていいんだろうか。



「寿子? まだ外にいたのか」

 お茶中なはずの父が、ケータイをしまいながら足早に戻ってきた。

「休みじゃないの?」

「ちょっと、出先にな」

「サカキのドラッグストアですか?」

 尋ねたのは息子だった。


「え? ええ、そうです。ご存知でしたか」

「最近、あのあたり流行ってますね」

 おかげさまで、と笑うかと思ったのに、父の反応は違った。

「営業先が繁盛するのは喜ばしいけども……、どうも、苦情が多いらしくて」

 反射的に、嫌な感じがした。この町からなのかな。


「苦情というか、警告というか、近隣のお年寄りが懸念してるそうですよ。ちらっと聞いた程度なんだけど、土地を潰すなとか、何か、動かすなとか」

 父は苦笑して、あたしはほんの少し安堵する。

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