春別れ
僕は彼女に焦がれていた。
彼女にとってはただの幼馴染でも僕にとっては、
豊作を告げる稲妻のように、僕の総てを焦がして刻んで、満開の花すら霞むような微笑みを見せる彼女を、
ずっと見ていたかった。
新緑が光を受けて輝き春の終わりを告げるように花が散るなか、色づいた桃色よりも僕の網膜ではまだ花に囲まれた彼女の美しい顔が脳裏にこびり付いている
僕と彼女の出会いは病院だった お互いに小さい時から体が弱く他の子供との関わりも交流もあまりないしできなかった
それに話していくうちに家も近いということが分かった
だからだろうか
僕達はすぐ仲良くなった
彼女はよく夢を話す人だった
彼女の夢の話は今思うととても滑稽だったが昔の僕にとってはとても温かい気持ちで辛い病院生活を忘れられる桃源郷のような心地だった
だから彼女よりも先に退院しても「ふうかちゃんはまだ?」とよく聞いていた
彼女が退院してからはほとんどの時間を彼女と一緒に行動してきた
他のどんな人よりも居心地が良くて落ち着いていられたから
小学校、中学と彼女と一緒に泣き、笑い、すべてを共有していった
冬が本格的に始まる日、また彼女が入院した
僕は学校に通いつつ休日には病院に通うようになった
彼女の体はみるみるうちに細く風が吹けばさらわれてしまいそうなほど頼りない枯れ木のようになっていった
最近では僕が行っても月に照らされたような青白い顔で寝てることが多くなっていった
ある日差しが柔らかい日のこと彼女から手紙をもらった
「まだ,,,開けちゃだめよ?」
「いつか,,,,お返事頂戴ね?」
久しぶりに聞いた彼女の声はかすれて弱々しかったが柔らかった
その翌朝、彼女は桃源郷に旅に出た
彼女の棺桶には生前彼女が好きだったスイートピーが引き詰められていた
彼女の青白い肌にピンクのスイートピーがよく映えて美しかった
綺麗だったこの世の誰よりも
本当なら喜ばないといけない
だってようやく彼女は身を蝕む病気から解放されたんだ
もう苦しくないんだ
でも
それでも
目から水が止まらない
息が苦しい、どれだけ吸っても穴が空いてるみたいで肺が満たされた感じがしない眼の前の光景が歪んでくる。ピンクのスイートピーが彼女の美しい白と混ざって桃源郷にいるような気分になってくる。逃げ出したい気分になり僕はトイレに駆け込んだ
冷たい廊下の空気が僕の足に絡まる
僕は糸を無理やり解くように駆け足で歩く
口の中に広がる酸っぱい味と鼻腔に残る甘いスイートピーの香りが混ざってしまい気分が悪い。
口をゆすごうと洗面台に行ったとき自分の姿が見えた
目の下に残る隈、乱れている髪、赤く染まった白目と涙の跡
ああ、
また、彼女にあいたい
「なんで,,, なんで,,先に行っちゃったんだよ」
僕の嗚咽は誰に聞かれることはなかった
彼女が旅立ってから数年たった今でも
僕はまだ彼女からもらった手紙の便箋を開けることも、お返事を書くこともできないでいる
でもいつの日か桃源郷に旅に行くことになったら
たくさんの話を聞かせよう
シオンの花束を持って




