第95話:地下の粗大ゴミ、あるいは旧校舎の幽霊騒動
深夜の旧校舎。月明かりさえ届かない廊下で、私たちは「学園の禁忌」の入り口に立っていた。
「エリザベート様、この地下へと続くハッチを見てください。蝶番にこびりついた数十年のサビ……。これはもはや、汚れを通り越して一つの『歴史』と化しています! 私の黄金の情熱で、新品以上の輝きを取り戻させてやりましょう!!」
アレクセイが黄金のオーラを指先に集中させ、鉄の扉に触れる。彼が軽く撫でるだけで、頑固な赤サビが黄金の粒子となって霧散し、扉は吸い付くような滑らかさで開かれた。
「アレクセイ、声が大きいわ。地下に眠る廃棄遺産が目を覚ましたら、今夜の清掃活動が台無しになるでしょう」
「申し訳ありません! ですが、この地下から漂う『捨てられた概念』の悪臭が、僕の掃除魂を最高に刺激するのです!!」
深淵の浸透:廃棄された神話の残骸
私たちは、暗く湿った階段を一段ずつ降りていく。そこは、学園の華やかな清潔さとは対極にある、意味を失った物たちの墓場だった。
見て。 私の影が、階段の壁を黒い蔦のように這い回り、そこに刻まれた古い魔術回路の「拭き残し」を吸収していく。 これは、過去を否定するための闇ではない。 一族が「失敗」と呼んで切り捨てたすべての可能性を、私の胎内で究極の不純物として飼い慣らすための、深い闇落ちだ。
私の銀髪は地下の冷気に触れて漆黒の冷光を放ち、瞳には、かつてローゼンバーグ家が作り出そうとした「人工の神」のプロトタイプが、ガラクタの山として積み上げられている光景が映る。
「……これが、一族の原罪。神を模倣しようとして、ただの巨大な燃えないゴミを作り出してしまった証拠ね」
黄金の研磨:守護者の分別
「「「 立ち去れ。ここは、光に選ばれなかった者たちの安息所だ 」」」
闇の奥から、無数の壊れた楽器や折れた剣、そして歪んだ歯車が組み合わさった巨大な人型が現れる。旧校舎の幽霊騒動の正体。それは、捨てられたガラクタたちが意志を持ち、自らを防衛するために形成した廃棄物の巨神だった。
「エリザベート様、下がっていてください。この巨大な頑固な汚れは、僕が最高級の熱量で磨き倒してみせます!」
「アレクセイ、無茶はしないで。それは単なる敵じゃない。一族の愛着と後悔がこびりついた、重い執着そのものよ」
「だからこそですよ! 執着であればあるほど、黄金の輝きを宿す価値があるというものです!!」
アレクセイが黄金のモップを槍のように構え、巨神の足元へ突進する。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や数千の手で超高濃度研磨剤を振り撒き、巨神の体を構成するガラクタの一つ一つから、数十年分の呪いを物理的な熱量で剥ぎ取っていく。
それは、破壊という名の「清掃」。 絶望という名の「曇り」を取り除き、捨てられたものたちに、もう一度だけ存在の誇りという光沢を与える儀式だ。
田中の嘲笑
「……ふん、相変わらず力任せな掃除だな」
半透明の田中老人が、巨神の肩の上に座り、実体のない煙草を燻らすような仕草で笑う。
「田中さん、そこで何をしているの? 早くその粗大ゴミの止め方を教えてちょうだい」
「……お嬢さん、自分で考えろ。掃除の基本は分別の徹底だ。その巨神の中にある、たった一つの捨ててはいけない部品を見つけ出せ。それができれば、地下の扉は自ずと開く」
老人が指差したのは、巨神の胸の奥で、ドクドクと不協和音を奏でる、小さな、けれど強烈な闇を放つ銀色の心臓だった。
生存者バイアス 私が今、こうしてガラクタの巨神と踊っていられるのは、たまたま私が、無価値の中にこそ真実があると知ってしまったからだ。




