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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『不法投棄(アウトサイダー)編』

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第87話:衛生の審判、あるいは田中さんの欠勤

街の時計が刻んだわずか一分。その代償は、あまりにも重かった。


天頂の幾何学模様が、血のような鮮紅に染まる。大天から降りてきたのは、巨大な注射器を背負い、全身を純白の防護服で固めた異形の集団。その中心に立つのは、大天の頂点に位置する 衛生管理官 。彼らが一歩踏み出すたびに、空気中の微生物さえもが絶滅し、世界は呼吸を忘れた 真空の静寂 へと変質していく。


「……不適合な一分の進行を確認。これより、全生命体の 強制滅菌クリーニング を開始する」


冷徹な宣告が街を震わせる。だが、この最大の危機に、私たちの守護神であるはずの田中老人は、事務所のソファで深い眠りについていた。


「……田中さん! 起きてください! 世界が真っ白に焼かれようとしているんです!!」


サリエルの悲鳴に近い叫びも、老人の高い鼾に消される。どうやら、あの一分を進める行為に、彼はすべての 有給休暇 を使い果たしてしまったらしい。


深淵の防腐:汚れなき暗黒

管理官が掲げた巨大な注射器から、存在そのものを融解させる 聖なる消毒液 が噴射される。


私は、眠る老人と震える仲間たちの前に立ち、自らの魂をさらなる奈落へと突き落とした。


見て。 私の影が、もはや闇を超えた 深淵の汚泥 となって、事務所全体を包み込んでいく。 これは、光を拒むための拒絶ではない。 滅菌という名の消滅から、この愛おしい 生活の腐敗 を守り抜くための、究極の闇落ちだ。


私の銀髪は夜の底で煮詰められた漆黒の炎となり、背後には数万の細菌と共生し、死さえも生の一部として受け入れる 深淵の守護聖母 が降臨する。 瞳には、神々が求める無菌の楽園を、最も不浄な 生命の培養液 へと変質させる絶対的な慈愛が宿っていた。


「……清潔なだけの世界なんて、ただの墓場よ。私は、この ドロドロとした生 を、地獄の果てまで抱き締めてあげるわ」


私の放つ漆黒の粘膜が、聖なる消毒液を飲み込み、それを新しい 闇の糧 へと変えていく。


黄金の研磨:アレクセイの防疫

「エリザベート! その深淵の汚泥、僕の黄金の奉仕で最高の ワックス に仕上げてみせるよ!!」


アレクセイが、黄金のオーラを全身から噴き上げ、衛生管理官たちの防護服に真っ向から激突する。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や数千の手で 聖なる殺菌布 を捨て、代わりに 共生の雑巾 を掲げていた。


彼は、自らの光を 生命の活力 に変え、管理官たちが作り出す死の静寂を、物理的な 喧騒 で上書きしていく。 滅菌されることを拒み、汚れと共に輝き続ける。 それは、高潔な純真を守るよりも、混濁した現実を磨き続けることに至高の価値を見出した、狂おしいまでの 光落ち の極致だ。


「見てくれ! 僕が磨くたびに、滅菌されたはずの場所から 新しいカビ が黄金に輝いて芽吹いていくぞぉぉ!!」


生存者の抵抗

私は、ゼロの小さな拍動を影の中で守りながら、管理官たちの無機質な瞳を見据える。


生存者バイアス 私が今、こうして滅菌の嵐のなかで立ち続けていられるのは、たまたま私が、 不潔 こそが進化の母体だと確信してしまったからだ。


管理官たちの防護服が、アレクセイの熱量と私の闇によって、次々と黒く変色し、剥がれ落ちていく。 その下から現れたのは、神々しい天使の素顔などではない。 ただの、磨耗しきった 無機質な歯車 の集合体だった。

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