第83話:大天の神々、あるいは最初の理不尽
白紙の静寂は去り、新しい世界の鼓動が始まった。
私とアレクセイが紡ぎ出したのは、調和のとれた楽園ではない。無数の矛盾と、決して交わることのないノイズが幾重にも重なり合う 多層的不協和音織 。この世界の地平は、数式ではなく 意味の織物 によって構成され、その天頂には、理不尽を司る神々が座す領域 大天 が屹立している。
「……見て。空が、笑っているわ」
見上げた空には、太陽も月もない。代わりに、万象の 意味 を書き換える巨大な幾何学的な紋様が、脈動するように明滅している。それこそが大天に君臨する神々の眼差しであり、この世界に生きる者に等しく与えられた 最初の理不尽 だった。
意味の織物:不純なる新生
私は、新世界の中心で自らの影を広げ、荒れ狂う不協和音を一つの 物語 として繋ぎ止める。
見て。 私の内側から溢れ出す闇は、もはや深淵ですらない。それは、神々が気まぐれに放つ理不尽な 運命 さえも飲み込み、漆黒の糸として織り込んでいく、母なる 織機 だ。
私の銀髪は夜の底から引き揚げられた漆黒の帳を湛え、背後には数万の不条理を抱き締め、それを静かなる 因果 へと変質させる 深淵の聖母 が再び降臨する。 瞳には、大天から降り注ぐ光の粒子を捉え、それを 存在の汚れ として定着させる絶対的な闇が宿っていた。
「……神様。あなたたちがどんなに理不尽な糸を投げても、私はそれをすべて 愛おしい影 に変えてみせるわ」
私の叫びは、大天の雲を割り、神々の座を震わせる。 完璧な秩序を拒み、歪んだ旋律をあえて選び取る。これは、ローゼンバーグの血を引く私が、世界の最果てで見出した 生存者としての聖戦 なのだ。
黄金の誓約:不条理の研磨
「エリザベート! この世界の理不尽、最高に磨き甲斐があるよ! 神々の放つ汚れさえ、僕が黄金の奉仕で 聖なる輝き に変えてやるんだぁぁ!!」
アレクセイが、黄金のオーラを爆発させて大天へと咆哮する。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や数千の手で 意味の楔 を握り、空から降り注ぐ不協和音を、地上を豊かにする 黄金の雨 へと磨き上げ、還元していく。
彼は、自らの光を 世界の接合剤 に変え、理不尽な神々の意志と、泥に塗れた人間の生活を力技で繋ぎ合わせる。 救済を求めるのではなく、与えられた苦難を 至高の研磨剤 として享受するという、狂おしいまでの 光落ち の極致。
「見てくれ! 神々の理不尽さえ、磨けばこんなに 美しい日常 になるんだぁぁ!!」
生存者の展望
私は、腕の中で静かに歯車を回すゼロを見つめる。
生存者バイアス 私が今、この不協和音のなかで正気を保っていられるのは、たまたま私が、理不尽こそが 生きる手応え だと確信してしまったからだ。
大天の神々が、私たちの反逆を認め、その巨大な腕を地上へと伸ばし始める。 それは審判ではない。この新しい織物を、自分たちの手で 引き裂く ための、最初の一掃きだ。




