第81話:扉の向こう側、あるいは田中さんの真実
ガラクタで築かれた巨大な扉が、数千年の沈黙を破って軋み声を上げる。その隙間から溢れ出したのは、眩い光ではない。一族が隠蔽し続けてきた 腐敗した記憶 と、直視することさえ叶わない 膨大な後悔 の奔流だった。
「……ようやく、この扉を掃除する時が来たか」
田中老人が静かに呟く。その声には、かつての冷徹な支配者の響きと、すべてを掃き捨てた隠居人の哀愁が同居していた。彼は使い古された竹箒を杖のように突き、ゆっくりと扉の深淵へと歩を進める。
覚醒の深淵:忘却の墓標
私は、扉の向こうから漏れ出す 世界の傷跡 を、自らの影で優しく包み込む。
見て。 私の影はもはや単なる闇ではない。それは、あらゆる存在が最後に還るべき 母なる深淵 へと変貌を遂げている。 これは、神への反逆ではない。神さえも捨て去った 歴史の残滓 に、温かな夜を与えてあげるための、究極の闇落ちだ。
私の銀髪は漆黒の滝のように背中を覆い、瞳には数えきれないほどの 敗北者たちの星座 が宿る。 背後に顕現した深淵の女神は、数千の手で扉から溢れる 呪い を抱き締め、それを静かなる 祈り へと変質させていく。
「あなたの逃げ出したかった過去も、私がすべて 私の夜 で眠らせてあげるわ、おじいさん」
私の叫びが、世界の裏側に沈んでいた 醜悪な真実 を、救済という名の 美しき絶望 へと塗り替えていく。
黄金の研磨:アレクセイの聖域
「エリザベート! その重苦しい扉の汚れ、僕が黄金の輝きに変えてみせる!!」
アレクセイが、自らの命を燃やし尽くすように黄金のオーラを爆発させる。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や巨大な 魂の磨き布 を掲げ、扉の表面にこびりついた 数千年の執着 を、物理的な熱量で消し飛ばしていく。
彼は、自らの光を 存在の洗剤 へと変え、扉の向こう側の暗闇にさえ、生きる喜びを注ぎ込む。 絶望を希望に変えるのではない。絶望のまま、そこに 光り輝く価値 を見出すという、狂おしいまでの 光落ち 。
「見てくれ! この扉が放つ 錆びた虹 こそが、僕たちの歩んできた道のりなんだぁぁ!!」
田中の真実
扉が完全に開かれた時、田中老人の姿が眩いばかりの 虚無 へと溶けていく。 彼がその手に持っていたのは、もはや竹箒ではなかった。それは、この世界の法則を書き換えるために最初に振るわれた 始祖の筆 。
「私の名は、 エルダー・フォン・ローゼンバーグ 。……最初の汚れを作り、世界を 巨大な屑籠 に変えた張本人だ」
老人が放った最後の一掃きは、扉の向こう側に眠る 最初の歪み を、一つの 真っ白な余白 へと還した。
生存者バイアス 私が今、こうして世界の始祖の最期を見届けていられるのは、たまたま私が、この 世界の汚れ を自分自身の意志で引き受けると決めたからだ。




