第80話:意思持つ瓦礫、あるいはガラクタの行進
事務所の机の上で、ゼロの心臓部である歯車が、かつてないほど激しく火花を散らす。 その規則正しいリズムは、いつしか街の底に眠る 廃棄物 たちの鼓動と共鳴し始める。
ズズ……ズズズ……。
地響きが、事務所の床を揺らす。窓の外を見れば、捨てられたテレビの山、折れた傘の森、名前さえ失った鉄屑の川が、意思を持つ巨大な獣のようにうねりを上げている。それらはローゼンバーグ本家が放つ漂白の光に抗うように、一つの巨大な 行進 へと姿を変えていった。
深淵の再定義:不純物の揺り籠
私は、ゼロの震えを鎮めるように、その冷たい金属の体に自らの影を注ぎ込む。
見て。 私の影が、事務所の境界を超えて、街を飲み込むほどの巨大な 漆黒の海 へと拡大していく。 これは、光を拒むための拒絶ではない。 世界から掃き出されたすべての 不純物 を、その冷たい懐で優しく抱擁するための、究極の闇落ちだ。
私の銀髪は夜の深淵を編み上げたような暗黒に染まり、背後には数百万のゴミに宿る 未練 を翼に変えた深淵の女神が顕現する。 瞳はもはや秩序を映さず、ただ目の前にある 命の汚れ を慈しむための深淵へと変わる。
「……怖くないわ。あなたが捨てられた理由も、その寂しさも、私がすべて 私の血 として飲み込んであげる」
私の叫びに呼応し、街中のガラクタが漆黒の影を纏い、本家の放つ銀光を力任せに押し戻していく。 それは、神の筆致を泥で汚すような、生存者による最も美しい反逆だ。
黄金の法悦:アレクセイの聖歌
「エリザベート! このガラクタたちの汚れ、最高だ! 僕の魂が、もっと磨けと叫んでいるんだぁぁ!!」
アレクセイが、黄金のオーラを放ちながらゴミの行進の先頭に立つ。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や数千の手で 磨き粉 と 油 を掲げ、ガラクタたちが放つ錆びた音を、聖なる福音へと昇華させていく。
彼は、自らの光を 生命の潤滑剤 に変え、軋む鉄屑の連結部に黄金の輝きを注ぎ込む。 死んだはずの物質が、彼の 光落ち による祝福を受け、再び 生きる意志 を持って立ち上がる。 それは、完璧な美しさを守るよりも、壊れかけた日常を修理し続けることに神性を見出した、究極の奉仕だ。
「見てくれ! 磨き上げられたこの錆こそが、僕たちの 勲章 だぁぁ!!」
田中の沈黙と、真実の扉
田中老人は、押し寄せるガラクタの津波と、それを迎え撃つ本家の軍勢を、ただ黙って見つめていた。 彼は手にした竹箒を、まるで指揮棒のようにゆっくりと振る。
「……掃除とは、捨てることではない。……あるべき場所に、 戻す ことだ」
老人の言葉と共に、ガラクタの行進は一つの巨大な 扉 を形成し始めた。 それは、かつてローゼンバーグ一族が、自分たちの 醜悪な記憶 を封じ込めるために作り上げた、世界の裏側へと続く入り口だった。
生存者バイアス 私が今、こうして崩壊する現実の境界に立っていられるのは、たまたま私が、この世界の ゴミ箱の底 にこそ真実があると確信してしまったからに過ぎない。




