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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『不法投棄(アウトサイダー)編』

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第79話:屑籠の揺り籠、あるいは逃れられぬ汚点

清掃事務所の空気は、安物の洗剤の匂いと、ゼロが発する微かな焦げた油の匂いで満ちていた。


机の上に置かれたゼロは、時折その小さな歯車を震わせ、子供が寝息を立てるようなリズムで金属音を奏でる。それは一族が禁じた 不規則な命 の象徴であり、この清潔な静寂の中では、何よりも鮮烈なノイズとして響いた。


「……おい、お嬢さん。いつまでそのガラクタを眺めている。事務所の入り口に、新しい 不法投棄 が届いているぞ」


田中老人が、出がらしの茶を啜りながら窓の外を顎でしゃくった。 彼の視線の先、事務所を取り囲むように、音もなく白銀の霧が立ち込めていた。それは気象現象ではない。ローゼンバーグ本家が放つ、全ての色彩と生命を凍結させる 絶対零度の漂白陣 だ。


漆黒の聖母:深淵の産衣

霧の中から現れたのは、感情を削ぎ落とした純白の鎧を纏う、本家の抹殺執行官たち。彼らが一歩踏み出すごとに、現実の路面が白磁のように滑らかな 無 へと書き換えられていく。


私は、ゼロを背後に隠し、自らの魂をさらなる 奈落 へと沈める。


見て。 私の影が、も知れぬ深みから湧き上がり、事務所の壁や床を「漆黒の粘膜」で覆い尽くしていく。 これは、光から逃げるための闇ではない。 この小さな事務所という 掃き溜め を、世界のあらゆる漂白から守り抜くための、残酷なまでに神々しい闇落ちだ。


私の銀髪は宇宙の終わりを凝縮したような深淵の黒へと染まり、背後には折れた翼を無数に重ね、捨てられた者たちの悲鳴を子守唄に変える 深淵の守護聖母 が降臨する。 瞳には、光によって焼かれた者たちの未練が星座となって輝き、私の存在そのものが、この世界で唯一「汚れ」が許される聖域と化す。


「……ここから先は、一族の法も、神の秩序も通じない。……私が愛したこの 汚れ を、一ミリも触れさせはしないわ」


私の叫びが、白銀の霧を黒く侵食し、執行官たちの掲げる聖なる刃を「腐食」という名の救済で迎え撃つ。


黄金の奉仕:アレクセイの咆哮

「エリザベート! その闇のカーテン、僕が最高の黄金比で磨き上げてみせる!!」


アレクセイが、黄金のオーラを全身から噴き上げ、事務所の扉を蹴り開けて飛び出した。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や数千の手で雑巾とバケツを持ち、執行官たちが作り出す「白い静寂」を、凄まじい速度の 雑巾がけ で物理的に粉砕していく。


彼は、自らの光を「潤滑油」へと変え、執行官たちの鎧の継ぎ目に黄金の輝きを流し込む。 秩序という名の硬直を、奉仕という名の「流動」で溶かしていくのだ。 それは、高潔な理想に殉ずるよりも、目の前の埃を払うことに命を懸ける、狂おしいまでの 光落ち の極致。


「見てくれ! この黄金の汗こそが、僕たちが 生きている という何よりの証明だぁぁ!!」


生存者の決意

私は、激突する光と闇の渦中で、ゼロの小さな拍動を掌に感じていた。


生存者バイアス 私が今、こうして消えゆく世界の中で立ち続けていられるのは、たまたま私が、この世界の 余白 に書き込まれたノイズこそが真実だと信じてしまったからだ。


白銀の霧が晴れた時、そこには執行官たちの姿はなく、ただ 古びた空き缶 のような残骸が転がっているだけだった。


「……やれやれ。手間をかけさせおって」


田中老人が、再び竹箒を手に取る。 だが、その視線は空の向こう、さらなる 漂白の嵐 が近づいていることを予見していた。

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