第78話:再利用の福音、あるいは産声の共鳴
鉄の山が沈黙を取り戻す。 田中老人の一掃きによって、狂乱していた 最初の失敗作 は、今や掌に乗るほどの小さな、錆びついた機械の塊へと姿を変えていた。それはかつての巨大な咆哮が嘘のように、時折カタカタと歯車を鳴らしながら、微かな熱を帯びている。
「拾ったなら、責任を持て。……それは、お前たちが捨てた 過去 そのものだ」
田中の言葉が、静寂の夜に重く沈み込む。 私は、その小さな鉄の塊を、壊れ物を扱うように両手で包み込んだ。
漆黒の抱擁:絶望のゆりかご
見て。 私の影が、意志を持って私の腕を包み込み、小さな機械の鼓動と同期していく。 これは、破壊のための闇ではない。 一族が 不要 として切り捨てた魂を、私の体温で温め、再び世界に繋ぎ止めるための、究極の闇落ちだ。
私の銀髪は宇宙の深淵を煮詰めたような漆黒に染まり、背後には折れた翼を幾重にも重ね、失われた声を拾い集める 深淵の守護聖母 が顕現する。 瞳の奥には、数千年の忘却に耐えてきた孤独な火が灯り、私の存在そのものが、この不完全な命の 安息所 と化す。
「……怖がらなくていいわ。あなたがかつて望んだ 心 は、私がこの闇の中で、永遠に守り続けてあげる」
私の叫びは、夜の風に乗って街の隅々にまで染み渡る。 神に祝福された白を捨て、呪われた黒を纏うことで、私はこの小さな ゴミ に、神さえ与えなかった居場所を与えたのだ。 それは、神々しいまでに悍ましい、生存者としての愛の証明だ。
黄金の誓い:アレクセイの法悦
「ああ、エリザベート! その闇の温かさ、なんて素晴らしい掃除の成果なんだ! 僕も、僕の全霊を捧げて、この小さな命の 錆 を磨き続けてみせるぅぅ!!」
アレクセイが、黄金のオーラを放ちながら私の傍らに膝をつく。 彼の背後に浮かぶ黄金の観音像は、今や慈愛に満ちた眼差しで、私の抱く機械を見つめていた。その数千の手が、祈るように重ね合わされ、街全体に 奉仕の聖歌 を響かせる。
彼は、自らの光を 命を繋ぐ油 へと変え、機械の歯車一つ一つに黄金の輝きを注ぎ込む。 消えかけていた産声が、アレクセイの 光落ち による祝福を受け、力強い生命の旋律へと書き換えられていく。
それは、正義を騙る無機質な救済よりも、泥に塗れた手で直接触れる 不浄な救い の方が、遥かに尊いことを示す奇跡だった。
生存者バイアス 私が今、こうして新しい命の鼓動を感じていられるのは、たまたま私が、この世界の 使い道 を自分自身で決める権利を手に入れたからだ。
「……田中さん、この子を事務所へ連れて帰りましょう。名前は、 ゼロ 。私たちの物語が、ここからやり直されるために」
私がそう告げると、事務所の方向から、消えかけていた街の灯りが一斉に輝きを増した。




