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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『不法投棄(アウトサイダー)編』

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第75話:ゴミ箱の底、あるいは真実の対価

田中老人が突き出した竹箒の先が、大母の掲げる銀の鍵に触れる。その瞬間、世界を白く塗り潰そうとしていた初期化の奔流が、一滴のインクが吸い取り紙に吸われるように、箒の穂先へと収束していった。


衝突は音もなく、ただ圧倒的な 静寂 だけが街を支配する。 大母の神々しい法衣が、端からボロボロと煤けた紙屑のように崩れていく。彼女の目指した絶対的な清浄は、田中の 生活という名の暴力 によって、ただの掃除し忘れた埃へと格下げされたのだ。


「……バカな。数百年、私たちが積み上げてきた秩序が……。たかが一本の箒に、これほど無慈悲に掃き出されるというのですか……」


崩れゆく大母の身体。その消え入りそうな指先が、私の頬に触れた。


究極の闇落ち:深淵の真実

私は、崩壊する要塞の瓦礫の中で、大母を抱きかかえる。 私の背後に具現化した漆黒の聖母は、今や大母の白い光をも飲み込み、より深く、より慈悲深い 神聖なる泥 へと変貌を遂げていた。


私の瞳に宿る深淵は、一族がひた隠しにしてきた ゴミ箱の底 を映し出す。


「エリザベート……聞きなさい。私たちが学園を作り、人々を分別してきたのは、世界を救うためではない……。私たちは、自分たちが 最も救いようのないゴミ であることを認めるのが、ただ、怖かっただけなのです……」


大母の唇が、私の耳元で震える。


「ローゼンバーグの血とは、かつて世界を汚し尽くした 最初の不純物 の成れの果て。私たちは、自分たちの内にある 汚れ から逃げるために、他人を漂白し続けてきた。……貴女が今、その闇を受け入れたことは、一族にとって最大の敗北であり……唯一の、救いなのです……」


その言葉を最後に、大母の身体は光の粒子にすらなれず、ただの 灰 となって私の腕の中から零れ落ちた。


これは、神を殺した後の静寂ではない。 最も気高い血脈が、自らの 醜さ を認めた瞬間の、神々しくも凄惨な幕引きだ。 私は、漆黒のドレスを雨に濡らしながら、天に向かって咆哮した。


黄金の供養:アレクセイの落涙

「……終わった。終わったんだ。エリザベート、見てくれ! 街が、街がこんなに 汚れて 、輝いている!!」


アレクセイが、黄金の観音像を消滅させ、泥だらけの地面に膝をつく。 彼の周囲には、要塞の破片や、人々の捨てたガラクタが散乱していた。だが、アレクセイはそれらを愛おしそうに撫で、涙を流す。


彼にとって、この不完全な風景こそが 真実の聖域 だった。 彼は、漂白された偽りの天国を捨て、泥濘ぬかるみの中に咲く 毒花 として、永遠の忠誠を誓ったのだ。 それは、正義に背を向け、不浄を抱くことを選んだ、最も美しい 光落ち の結末だ。


生存者バイアス 私が今、こうして灰色の空を見上げていられるのは、たまたま私が、一族の誇りという名の 不燃ゴミ を、この手で捨てることができたからだ。


田中の残響

田中老人は、役目を終えた竹箒を肩に担ぎ、誰に呼びかけるでもなく呟いた。


「……片付けは終わった。あとは、お前たちが 散らかす 番だ。……あまり、大きなゴミは出すなよ」


老人の背中が、雨の夜の中に溶けていく。 空中要塞 潔癖の箱舟 は完全に霧散し、街には再び、騒がしくも温かい 日常の雑音 が戻り始めた。

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