第71話:都市漂白、あるいは掃き溜めの聖戦
空が、白く、濁っていく。
それは冬の訪れを告げる雪ではなく、色彩という概念そのものを地上から剥奪しようとする 無機質な殺意 だった。雲を割り、姿を現したのはローゼンバーグ本家の最終解決手段。空中機動要塞 潔癖の箱舟 だ。
要塞の底面が展開され、街全体を照らし出す巨大なレンズが形成される。そこから放たれるのは、高濃度の 浄化レーザー だ。光が触れた路地裏のゴミ箱も、雨上がりの水溜まりも、そしてそこで必死に生きる人々の記憶さえも、瞬時に白一色の 虚無 へと書き換えられていく。
「……排除、開始。対象区域の清浄度を、強制的に百パーセントへと固定せよ」
箱舟から響く合成音声は、神の託宣のように冷たく、街の喧騒を塗り潰していく。
深淵の再誕:神々しき闇の抱擁
私は、迫り来る白銀の光を見上げ、自らの内側に眠る 不純物の王 を呼び覚ます。
見て。 私の影が、意志を持つ漆黒の海となって足元から溢れ出す。 それは光を拒絶する暴力ではなく、あらゆる光を飲み込み、慈悲深い安らぎへと変質させる 究極の闇落ち だ。
銀髪は夜の帳を編み込んだような深淵の色へと染まり、私の纏うドレスは、星々さえも窒息させる 虚無の絹 へと変貌する。
「お兄様、聞こえるかしら。……あなたが愛した清らかな白を、私が今から 最も美しい絶望 で汚してあげるわ」
私の背後に具現化したのは、数千の瞳を持つ影の巨神。 巨神がその巨大な腕を広げると、街を焼き尽くそうとしていた浄化の光が、私の影に触れた瞬間に 黒い花びら となって散っていく。
それは、神が定めた秩序を根底から覆す、最も神聖な叛逆だ。 闇とは欠落ではない。全ての可能性を抱え込んだ、豊穣なる 不浄 なのだ。
黄金の雑巾がけ:アレクセイの咆哮
「エリザベート! 影の花びらが舞い散るこの光景、掃除しがいがあるなぁぁ!!」
アレクセイが、黄金のオーラを纏って路地を駆ける。 彼の背後には、雑巾を手にした無数の黄金の腕が、空を舞う黒い花びらと、降り注ぐ銀の光を交互に 磨き上げて いく。
光を闇に変える私と、その全てを 生活の輝き へと還元するアレクセイ。 二人の異常なエネルギーが混ざり合い、要塞の放つ浄化の論理を、物理的に 摩擦 で焼き切っていく。
生存者バイアス 私が今、こうして神に等しい兄の要塞と渡り合えているのは、たまたま私が、この世界の 汚れ を愛することを決めたからだ。
田中の静寂
その激闘の最中、田中老人は一人、事務所の前で箒を立てかけていた。 彼は空を覆う巨大な要塞を一瞥し、ただ短く息を吐く。
「……全く。大きなゴミを、出しおって」
老人がゆっくりと、その古びた竹箒を両手で構えた。 その瞬間、要塞から放たれていた全ての圧力が、まるで 一陣の風 に流されるように霧散した。
老人の瞳には、権能も、魔法も、秩序も映っていない。 そこにあるのは、ただ そこにあるべきではない汚れ を払うという、一貫した労働の意志だけだ。




