第67話:最終回収、あるいは世界の掃き掃除
降りしきる雨の中、兄が放つ白銀の光と、私が纏う漆黒の影が、現実という名の舞台を二色に染め上げる。
「なぜだ! なぜこれほどの不純物が、ローゼンバーグの正統なる光を押し戻すことができる!?」
兄、ルーカスの叫びは、もはや統治者のものではなく、理解不能なエラーに直面した機械の悲鳴に近い。彼の背後に控える硝子細工の天使たちが一斉に砕け、鋭利な光の雨となって私に降り注ぐ。
だが、その猛攻を止めたのは、私の影でも、アレクセイの叫びでもなかった。
サッ、サッ、サッ。
あまりにも日常的で、あまりにも場違いな乾いた音が響いた瞬間、世界から色が消える。
清掃の絶対零度:事象の選別
田中老人が一歩、前へ踏み出す。 彼は私や兄の激闘など、道端に落ちた吸い殻程度の認識しかしていない。彼が竹箒を一振りするたびに、兄が放った絶対秩序の光も、私が展開した絶望の闇も、等しく 塵 として一つの点に集束させられていく。
「分別がなってない。これでは、収集車が持っていけん」
老人の独白は、世界の理を再定義する言霊となって響く。 兄が召喚した純白の処刑軍が、彼の箒が触れた瞬間に、ただの 古紙 のように丸められ、足元のゴミ袋の中へと音もなく吸い込まれていく。
その光景は、神々しいという言葉すら生温い、暴力的なまでの 日常 による蹂躙だ。
老人の周囲では、あらゆる権能が 無 へと収束していく。 皇帝が誇った三十パーセントも、兄が信じた一族の威光も、田中という存在の百パーセントの前では、片付け忘れた子供の玩具に過ぎない。
掃き出される運命:兄の崩壊
「馬鹿な! 私の、一族の完成された世界が! ただの掃除で、消されるというのか!?」
ルーカスが絶望に顔を歪め、自らもまた光の粒子となって霧散し始める。 老人の箒は、対象が神であろうと悪魔であろうと関係ない。そこに 目的 がある限り、彼はそれを一掃する。
私は、その光景をただ呆然と見守ることしかできない。
生存者バイアス 私が今、こうして存在を保っていられるのは、たまたま私が、田中老人の箒にとって まだ使える道具 として認識されたからに過ぎない。
「お嬢さん。そんな顔をするな。汚れたら、また洗えばいい。生きてるってのは、そういうことだ」
老人が私に背を向け、雨の夜の向こう側へと歩き出す。 彼の引きずる竹箒の跡には、不純物も、光も、闇も存在しない。ただの静かな アスファルトの路面 だけが残された。
私たちは、学園という名の夢を終え、この無機質な現実の中で、本当の意味で 捨て子 になったのだ。




