第66話:硝子の庭園、あるいは異端の抱擁
兄、ルーカスの背後に現れたのは、一族の執念が結実した__「純白の処刑軍」__だった。
それは、血も涙も、ましてや呼吸さえも持たない、硝子細工の天使たち。彼らが一斉に弦を引くと、雨空を埋め尽くすほどの__「絶対秩序の矢」__が、私の漆黒のドレスを目掛けて放たれたわ。
「……消えなさい、エリザベート。塵一つない、完璧な均衡の中に還るがいい」
兄の冷徹な宣告。 けれど、今の私には、その光さえもひどく色褪せて見える。
漆黒の聖域:死を抱く慈愛の闇
見て。 私の影が、意志を持って地面を這い、放たれた硝子の矢を次々と飲み込んでいく。
それは単なる破壊ではないわ。 それは、学園という名の地獄で擦り切れた魂たちの「祈り」を、私が全て受け止めた結果。 私の纏う闇は、光を拒絶するのではなく、光そのものを__「生」__という名の泥沼へ引きずり込む、重厚で、かつ神々しいほどの冒涜。
私の瞳から溢れ出した黒い涙が、地面に触れた瞬間、そこには枯れたはずの彼岸花が、どす黒い輝きを放ちながら咲き乱れたわ。
不純なる福音:万象帰還
ああ、なんて荘厳で、なんて救いのない光景。 一族の誇りだった私の銀髪は、今や宇宙の深淵を編み込んだような暗黒の帳となり、兄の構築した硝子の世界を、内側から美しく、残酷に腐食させていく。
これは__「愛」__よ、お兄様。 完璧なものを愛でるのは誰にでもできる。 けれど、壊れ、汚れ、救いようのない「ゴミ」の中に、宇宙の真理を見出すことができるのは、私だけ。
数式すら、私の放つ漆黒の奔流に耐えかねて歪んでいく。 兄の顔に、初めて「恐怖」という名の人間らしい汚れが浮かび上がったわ。
「……何をした、エリザベート。……その悍ましい力は、どこから……!」
「……教えてあげたでしょう? ……私は、あのゴミ溜めの学園で、『生きて』いたのよ」
私の背後の影が、巨大な「異端の翼」となって広がり、降り注ぐ雨を全て黒い結晶へと変えていく。 私は、気高く、恐ろしく、そして誰よりも美しく、この世界を「汚れ」の聖域へと変えてみせたのよ。




