第57話:死浄の研磨、あるいは使い捨ての王たち
「……退け、不純物。皇帝の輝きを、その汚泥で曇らせることは許さない」
断末魔のような叫びと共に、校舎の壁にめり込んでいた「三人の王」が、自らの肉体を強引に引き剥がして中庭へと降り立った。 彼らの瞳には、かつての野心など微塵も残っていない。そこにあるのは、自らを「道具」と定義した者特有の、無機質で、かつ盲目的な忠誠心のみ。
芥 蓮、灰屋 省吾、無代 零三郎。 彼ら三人は、互いの肩に手を置き、自らの異能のベクトルを一つの点へと収束させた。
自己犠牲型研磨
「……自分たちを、研磨剤にするつもり!? やめなさい! 10パーセントを超える存在がそんなことをすれば、二度と『個』には戻れないわよ!」
私の警告を、彼らは陰湿な笑みで一蹴した。 彼らにとって、皇帝の「40パーセント」が汚されることは、世界の理が崩壊する以上の耐え難い不潔。彼らは自らの細胞、記憶、そして魂そのものを細かく砕き、ヒカルを覆う「百パーセントのゴミ」を削り落とすための、最も硬く、最も卑薄な砂粒へと変えた。
ドォォォォォォン!!
三人の王が、一つの巨大な「光り輝くヤスリ」と化して、黒い泥の巨人に突撃した。 削る。削る。削る。 灰屋の破壊的研磨がヒカルの表面を荒らし、芥の校正権能が泥の存在理由を強制的に「汚れ」として再定義し、無代が削り取ったカスを事象の彼方へと排気する。
三人が命を燃やして生み出した一瞬の「超・過剰清掃」。 その猛攻に、さしもの「不燃の王権」も、その核であるヒカルの姿を露呈させ始めた。
「……っ、がは……あ、あああああッ!!」
「……今だ。……消えろ、この学園の汚点よ」
皇帝が、再生した右腕を天に掲げる。 三影が命がけで作り出した隙を突こうと、40パーセントの全出力が一点に凝縮される。
だが。
その瞬間、崩壊寸前の学園の地下深く。 全ての音が消失したはずの戦場に、ある「音」が響き渡った。
――サッ、サッ、サッ。
それは、乾いた竹箒が、砂の上を優しく撫でるような音。 あまりにも日常的で、あまりにも場違いな、しかしこの世界の誰よりも「掃除」という行為を理解している者だけが奏でられる、究極の静寂。
「……ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
アレクセイが、痙攣しながら白目を剥いて叫んだ。 「この音……! この、一分の隙もない掃き込みのテンポ! 塵一つ逃さない、空間との対話! 田中さん……田中さんが、……怒ってるぅぅぅぅぅ!!」
音の主は現れない。 しかし、その音が響くたびに、皇帝の「40パーセント」の威圧が、まるで見落とした埃を掃き集められるように、一箇所にまとめられ、無力化されていく。
「……バカな。……僕の『統治』が、……ただの『掃除』に負けているというのか……!?」
皇帝の顔が、初めて恐怖に凍りついた。 竹箒の音が聞こえるたびに、皇帝が築き上げた完璧な秩序も、ヒカルが放つ絶望的な不純物も、等しく「片付けるべきもの」として、世界の余白へと掃き出されていく。
100パーセント。 それは、王でも皇帝でもない。 ただ、そこに汚れがあるから、片付ける。 そのあまりにも純粋で、あまりにも残酷な「日常」の再来。




