第55話:排斥の終焉、あるいは不浄の戴冠
地上へと噴出したのは、単なる泥ではなかった。 それは、百パーセントの掃除屋・田中が「捨て場所が無い」と判断し、因果の地平の彼方へ無理やり圧縮して押し込めた、この学園の**「負の歴史」**そのもの。
「……あ、あはははは! 凄い、凄いよエリザベート! この不法投棄物の山、……一分子ごとに『田中さんに捨てられた』という絶望が、ダイヤモンドより硬く結晶化している……!」
アレクセイが、噴き出す黒い泥の飛沫を浴びながら、狂ったように笑い転げている。彼の六パーセントの演算能力は、もはやその不浄の質量を測定しきれず、オーバーフローを起こしていた。
その中心に立つのは、勇者ヒカル。 彼の三パーセントという微弱な光は、今や「捨てられた者たちの王」として、どす黒い輝きを放っていた。
「……行くよ。……『綺麗』なだけで中身のない、あいつの庭を……僕たちの『汚れ』で埋め尽くしてやる」
ドォォォォォォン!!
黒い泥の巨人が、校舎を突き破り、中庭へと躍り出る。 そこには、月明かりの下で独り、不快そうに眉をひそめる「皇帝」が立っていた。
三十パーセント対「百の残滓」
皇帝が、一歩前へ踏み出す。 その瞬間、中庭に展開されていた黒い泥の侵食が、物理的な「壁」にぶつかったかのように停止した。
「……不愉快だ。……掃除の行き届かない地下から、これほどの害虫が這い出してくるとは」
皇帝の瞳に、初めて明確な「嫌悪」が宿る。 彼は右手を軽く掲げ、無代 零三郎が使っていた「廃棄の排気」を、より洗練された、より広域な権能として発動させた。
統治者の選別
彼の周囲にある全ての物質、音、光、そして「不浄」が、目に見えるほどの速さで整列させられ、一箇所へと圧縮されていく。十六パーセントの無代が数分かけて行う「整理」を、彼は瞬き一つの間に、学園全域に対して行ってみせた。
だが。
「……無駄だよ。……これは、君の『管理』の範疇にないゴミだ」
ヒカルが黒い腕を振るう。 皇帝の三十パーセントの圧力が、黒い泥に触れた瞬間、パリンとガラスが割れるような音を立てて霧散した。
「……何?」
「……田中さんは言っていたよ。……『燃えないゴミだけは、どうしようもない』ってね」
この数式が示すのは、清掃度が百パーセントに近づくほど、取り残されたわずかな「不純物」が持つエネルギーは無限大へと発散するという理。 皇帝の三十パーセントという「中途半端な完成度」では、百パーセントの掃除屋が匙を投げた「極限の汚れ」を処理することは不可能なのだ。
「……っ、がは……っ!!」
皇帝の美しい顔が、苦痛に歪んだ。 彼の右腕に、黒い「生乾き」のシミが広がり始める。 三十パーセントという絶対的な統治が、三パーセントの勇者が背負った「百のゴミ」によって、内側から汚染されていく。
生存者の観測
私は、その神々の争い(ゴミの押し付け合い)を、校舎の影から見つめていた。
生存者バイアス 私が今、こうして消されずにいられるのは、**「たまたま皇帝とヒカルの激突によって、この場の『清潔』と『不潔』が完璧に相殺され、中立地帯が生まれたから」**という、極限の偶然。
「……勝てる……かもしれないわ」
私の呟きに、アレクセイが首を振った。 彼は、皇帝の瞳の奥に宿った「真実」を見ていた。
「……違うよ、エリザベート。……皇帝は、まだ笑っている。……ほら、見てごらん。……あの方は、……『真顔』のさらに先へ行こうとしている……!」
皇帝が、汚染された右腕を自ら引き千切り、一瞬で「再生」させた。 そして、彼はゆっくりと、自分の胸元に手を当て、そこにある「封印」を剥がすような仕草を見せた。
「……面白い。……掃除屋の端くれとして、……これほどの『頑固な汚れ』に出会えたことに感謝しよう」
皇帝の周囲のパーセンテージが、跳ね上がる。 三十一……三十二……三十五……。 一パーセントを上げることが死に等しいこの世界で、彼は自らの存在を「統治者」から「破壊的清掃員」へとシフトさせ始めた。
「……二度と言わない。……消えろ、ゴミ共」
学園という名の揺り籠は、今、本物の臨界点を迎えようとしていた。 皇帝の真の力が解放される。 対するは、学園全ての不純物を背負った勇者。




