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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『聖域粛清(クリンナップ)編』

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第45話:事象の排気、あるいは廃棄される定義

逃げ延びた先の中庭は、もはや私の知る憩いの場ではなかった。 そこには、巨大な「焼却炉」が鎮座していた。本来の備え付けのものとは比較にならない、校舎の三階に届くほどの鉄の巨躯。X組が自らの権能を注ぎ込み、この学園の「不純物」を物理的・概念的に抹消するために建造した、不条理の祭壇。


「……遅かったね。もう、一年生の半分は『灰』になったよ」


焼却炉の最上部に、腰を下ろしている影があった。 無代 零三郎むしろ・れいざぶろう。 三影の中でも最大の数値、十六パーセントを保持する「静かなる終末」。


「十六パーセント……。アレクセイ、計算して。今の私たちに、この『絶望』を回避する術があるのかを!」


私の叫びに、アレクセイはガタガタと震えながら、焼却炉の煙突を見上げていた。


「……ダメだ……ダメだよ、エリザベート……! あの煙突から出ている煙の色を見てごらん! 不完全燃焼だ! 田中さんなら、最低でも八百度以上の高温を保ち、ダイオキシンを一切出さない完璧な熱分解を要求するはずだ……。ああ、あんな煤だらけの煙を出して……怒られる、また酷く叱られてしまうぅぅ!」


「……もういいわ、役に立たない男ね!」


私はアレクセイを蹴り飛ばし、目前の「怪物」を凝視した。 十パーセントという、人間の精神が耐えうる限界の壁。一パーセントを上げるだけで数千回の死を超える負荷がかかるその神域において、十六という数値はもはや「神」という言葉さえ生ぬるい。 私たち生存者(六パーセント)が束になっても、彼の指先一つから漏れ出す「清浄」に触れるだけで、存在そのものが蒸発しかねないのだ。


「……廃棄の排気エキゾースト・ゴースト


無代が、虚空に向かって細い指を向けた。 その瞬間、中庭から「音」が消えた。いや、音が消えたのではない。「空気が振動して伝わる」という物理法則そのものが、彼によって「不要なノイズ」として焼却炉へ排気されたのだ。


「……君たちの『存在許可』も、今、廃棄リストに登録した」


無代の十六パーセントが、中庭全域を覆い尽くす。 呼吸ができない。肺が空気を求めているのではない。細胞一つ一つが、この世界に「在って良い」という定義を剥がされ、真空の彼方へと吸い込まれていく感覚。


「う……あ……っ」


ヒカルが膝をつく。彼の「生乾き」の湿気さえも、排気される定義の前には「乾燥」させるまでもなく、存在そのものがキャンセルされていく。


生存者バイアス 私は、必死に自分の輪郭を繋ぎ止めた。 私が今、こうして消えずにいられるのは、**「たまたま私が、この理不尽な廃棄ルールに納得していないから」**という、ただそれだけの執念。


だが、十六パーセントの絶対的な出力は、私の執念さえも「分別の甘いゴミ」として処理しようとしていた。


「……さようなら。……せめて、綺麗な灰にしてあげるよ」


無代の指が、私たちを完全に指し示す。 焼却炉の扉が、地獄の口のように開き、強烈な吸引力が世界の理を飲み込み始めた。


その時だった。


私の脳裏に、あの「皇帝」の冷徹な真顔がよぎる。 皇帝(三十パーセント)ですら、この三影を「掃除屋を自称する諸君」と呼び、ある種の役職として認めていた。 ならば、この十六パーセントを上回る「不浄」がもし存在するとすれば。


「……アレクセイ! 泣いてる暇があるなら、そのトラウマを『攻撃』に変えなさい! 皇帝に、田中に怒られるというその『恐怖』こそが、この学園で最も純度の高い『不純物』よ!!」


私は、アレクセイの絶望的な恐怖を核にして、ヒカルの粘りつく湿度を混ぜ合わせ、十六パーセントの「廃棄」に対抗する、史上最悪の「こびりついた汚れ」を作り出そうとしていた。

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