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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『聖域粛清(クリンナップ)編』

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第44話:湿潤なる拒絶、あるいは不純物の結束

廊下の空気が、物理的な「やすり」へと変質していく。 灰屋 省吾はいや・しょうごが踏み出す一歩ごとに、床のタイルが削れ、微細な粉塵が舞い上がる。その粉塵の一つ一つが、彼の意志を宿した「十四パーセント」の攻撃末端。吸い込めば肺を内側から削られ、触れれば皮膚をミリ単位で剥離される。


「……六パーセントと、三パーセント。……そして、機能停止した六パーセントか。……まとめて『粗研磨』で十分だね」


灰屋の声は、重く、鈍い。 彼の背後に渦巻く「十四パーセント」の清澄度は、もはや私たちの理解を越えた神域の入り口。一パーセントを上げるために数千の命を「研磨剤」として消費してきた男の、絶対的な自負。


「……アレクセイ! 床を舐めるのをやめて、その『修復』の権能を盾にしなさい!」


私は、未だに床に這いつくばって皇帝の残した輝きを拝んでいる男の背中を、思い切り踏みつけた。


「……ひぃっ! 怒られる! 田中さんに怒られるぅぅ! 角度が、タイルの角度がまだ甘いんだぁぁ!」


ダメね、この男。完全に精神が「清掃」されているわ。 かつてのラスボスの威厳など、皇帝の三十パーセントという圧倒的な「正解」を前にして蒸発してしまった。


「ヒカル! あなたはどうするの!? ここで削り落とされて、名もなきゴミとして一生を終えるつもり!?」


私の罵声に、床に伏していた勇者が、震えながら顔を上げた。 彼の瞳にはまだ、三パーセントの意地が微かに燻っている。


「……エリザベートさん……。……僕は、勇者だ。……たとえ三パーセントでも、……生乾きの洗濯物が、そう簡単に乾かされてたまるかよ……!」


ヒカルが、血の混じった唾を吐き捨て、震える手を灰屋へと向けた。


生乾きの洗礼ダンプ・ヘル 勇者が放つ、渾身の湿度。 それは本来、灰屋の「絶対乾燥」の領域下では一瞬で霧散するはずの、あまりにも微弱な抵抗。


だが、ここで私の「生存者バイアス」が火を噴く。 私は、ヒカルの放った湿気の粒子一つ一つに、私の生存本能――「何があってもその場に残る」という不純な執着を、極限まで圧縮して上乗せした。


「……な……に?」


灰屋の眉が、初めて動いた。 彼の放つ十四パーセントの研磨波動が、ヒカルの湿気に触れた瞬間、不自然な「滑り」を起こしたのだ。


研磨グラインドには、摩擦が必要だ。 だが、私の「生存」を核としたヒカルの湿気は、灰屋の研磨粒子を包み込み、物理法則を無視した「ヌルつき」を与えた。削ろうとしても滑る。剥がそうとしても、不快な粘り気がそれを阻む。


「……不快だね。……掃除の邪魔だ、その『粘り』は」


灰屋が、苛立ちと共に右手を大きく振りかざす。 十四パーセントの全出力が、廊下の全空間を一つの巨大な回転砥石へと変貌させる。


「アレクセイ! 今よ! 還元リサイクルしなさい!!」


私の叫びが、掃除のトラウマで発狂寸前のアレクセイの脳髄を叩いた。 彼は、反射的に叫んだ。


「……修復! 修復しなきゃ! 完璧な状態に戻さないと、また叱られるぅぅぅ!!」


絶対還元アブソリュート・リサイクル アレクセイの六パーセントの権能が、灰屋によって削られた空間を、強引に「削られる前の状態」へと引き戻す。


削る十四パーセント。 滑らせる三パーセント。 残ろうとする六パーセント。 そして、元に戻そうとする六パーセント。


不揃いな数値の合算。合計しても十五にすら届かない、歪な、しかし必死の泥仕合。 私たちの目の前で、灰屋の研磨波動と、私たちの不純な抵抗が激突し、廊下には異様な不協和音が鳴り響いた。


「……チッ、しつこいシミだ」


灰屋が舌打ちをする。 彼の十四パーセントを、私たちはほんの数秒だけ、足止めすることに成功した。 だが、それは勝利ではない。 ただ、掃除の手を止めさせただけの、不法投棄物の悪あがきに過ぎない。


私たちは、その隙を見逃さず、崩れかけた廊下を全力で駆け抜けた。


「……逃がさないよ。……全クラスの滅菌クリンナップが終わるまで、君たちの座標(居場所)は、この学園のどこにも残さない」


背後から迫る、死神のような足音。 私たちは、自分たちがまだ皇帝の庭で這いずり回る「不純物」でしかないことを、その身に刻み込みながら、地獄の廊下を走り続ける。

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