第41話:諧謔の極致、あるいは絶対的統治
絶望的なまでの沈黙。 その中心に立つ生徒会長に対し、窓際の三影は、引き攣ったような、見るに耐えないほどぎこちない陰キャ特有の笑みを浮かべた。自らの「十六パーセント」という強大な清浄度が、本能的に「三十パーセント」という怪物の機嫌を取るために選んだ、不器用な自己防衛の形態だった。
だが、皇帝は止まらない。
彼が一歩、前へ踏み出す。 ドォォォォォォン!! その足音は、校舎を震わせ、校庭で虐殺を続けていたX組の面々にまで届いた。蹂躙を楽しんでいた捕食者たちが、その一音だけで心臓を掴まれたように静止する。学園中の「時間」が凍りついたかのようだった。
二歩目が、世界を書き換える。 パキパキと音を立てて、私たちが立つこの廊下以外の全てが、分子レベルまで粉砕され、純白の「砂」へと還元されていく。教室で震えていた生徒たち、避難していた者たちは、その崩壊に伴い、まるで最初からそうであったかのように、怪我一つなく校舎の外へと「放り出された」。物理的な放射ではなく、存在の定義を外側に書き換えられたかのような、あまりにも滑らかな空間の置換。
そして、三歩目。 世界から音が消えた。 三影との間にあった数メートルの距離は、物理法則を無視してゼロになる。皇帝は、芥 蓮の鼻先、わずか一ミリの距離に立ち、その瞳で彼らの深淵を覗き込んだ。
死。あるいはそれ以上の何かを覚悟し、一人は白目を剥いて気絶した。
だが、沈黙を切り裂いたのは、あまりにも場違いな一言だった。
「なーんて、嘘だよーん」
皇帝は、おどけた表情で人差し指を頬に当て、あどけない笑みを浮かべた。 その瞬間、学園中の空気が弛緩した。しかし、あまりの落差に、私も、意識のある二人の王も、ただ唖然として立ち尽くすしかなかった。五秒。永遠にも等しい停滞。三人の王のうち、芥 蓮はそのまま膝から崩れ落ち、沈黙の中で意識を手放した。
「さて。散らかりすぎだね。片付けは得意なんだ、僕も」
皇帝が、先ほど校門まで吹き飛ばした「塵取りの男」の権能を、本人を遥かに凌ぐ精度で発動させた。 空間に散った「砂」が、ビデオを逆再生するように巻き戻る。 砕けた石材が、割れたガラスが、消え去った理が、数秒のうちに寸分狂わぬ元の形へと再構築されていく。ふざけた様子で鼻歌を歌いながら、彼は世界を修復してみせた。
そして。
最後に扉へと戻る際、皇帝は一度だけ振り返った。 その顔は、先ほどまでの諧謔が嘘であったかのように、冷徹な「真顔」へと変わっていた。
「二度と、こんな真似すんじゃねぇぞ」
底冷えのする一言。 三影に向けて放たれたその宣告は、彼らの魂を物理的に削り取るほどの重圧だった。皇帝はそのまま、何の感情も読み取れない無表情で生徒会室へと戻り、扉を閉めた。
残されたのは、意識を失った一人と、へたり込んだまま動けない二人の「王」だけだった。
「……はは……なんで、俺は……」
灰屋 省吾が、乾いた笑いを漏らしながら、消え入りそうな声で呟いた。
「……なんで俺は、あいつに……かなうなんて思ったんだ……」
王たちのプライドは、塵となって霧散した。 十パーセントの壁を越え、神域に達したと自負していた彼らが、今や自分たちが「皇帝」の庭で遊んでいただけの小さな不純物に過ぎないことを痛感していた。
私は、ボロボロになった身体を引きずりながら、閉ざされた扉を見つめた。 十一、十二、十五パーセントの王たち。 そして、三十パーセントの皇帝。
その背後の、さらに高い空に浮かぶ「百パーセント」の幻影。 この学園の掃除は、まだ始まったばかりなのだ。




