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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『勇者転入(ハードモード)編』

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第27話:鉄鍋の深淵、焦げ付いた理の果てに

家庭科室。そこは衛生と秩序が支配する空間ではない。火と水、そして素材の死を司る調理の祭壇である。本日の課題は「極厚のステーキ肉の火入れ」。


グレ隊の前に立ちはだかるのは、調理研究会の主将、クック・ドゥ。彼は純白のコックコートを纏い、黄金のフライパンを掲げていた。


「料理とは熱の数学だ。1ミリの火入れの狂いも許さない。……君たちの雑な反逆(調理)など、私の『完全対流』の前では塵に等しい」


クック・ドゥの能力は、一見して完成されていた。


能力:完全対流パーフェクト・コンベクション (熱の対流を自在に操作し、食材の内部まで均一に、かつ瞬時に熱を伝える能力)


対するグレ隊の能力は、相変わらず調理には不向きな欠陥品ばかりだ。だが、ヒカルたちは知っている。極限まで研ぎ澄まされた「無駄」は、完成された「正解」を凌駕することを。


戦術的攪乱:視覚情報の飽和

調理開始の合図と共に、クック・ドゥのフライパンが熱を帯びる。対流が操作され、肉の表面は一切焦げることなく、内部のタンパク質だけが理想的な温度へと導かれていく。


「まずは視界を閉ざすわ。……美味しそうな色は、私には不要よ」


シオンが能力を起動した。


色彩の叛逆 彼女が狙いを定めたのは、フライパンそのものではなく、その上に敷かれた**「牛脂」と「炎」**。


色彩が反転する。 オレンジ色の炎は冷徹な蒼へと変わり、溶け出した牛脂は不気味な紫色の液体へと変質したように見える。 調理において「色」は火通りの唯一の指標だ。補色へと反転した世界では、肉が焼けているのか、生なのか、あるいは炭になっているのかさえ、熟練の料理人であっても判断が不可能になる。


「何っ!? 色が……熱の強弱が視覚的に認識できない!」


「驚くのはまだ早いぜ。……味覚の前に、まずは『不快』を食らえ!」


物理的阻害:不完全な蒸気膜

ヒカルが、クック・ドゥが肉に振りかけようとした「香り付けのワイン」に触れた。


生乾きの洗礼 能力により、フライパンの中で蒸発しようとする水分の状態が固定される。 通常、水分は蒸発して抜けるか、ソースとして煮詰まるかのどちらかだ。しかしヒカルは、その水分を**「最も不快な生乾きの雑巾のような、ベタついた湿度」**の状態に固定した。


肉の表面に、蒸発も浸透もしない、不気味な湿度の膜が張り付く。


「な、なんだ!? 蒸気が逃げない! convective(対流)が詰まる! 肉の表面がカリッとせず、不快なネチャつきが加速していく!!」


完全な対流を誇るクック・ドゥにとって、この「逃げ場のない不快な湿り気」は計算外のノイズであった。


最終解法:垂直なる熱の槍

「仕上げだ。……フライパンの上の『微粒子』に命じる」


リュウガが、仕上げに振りかけられた**「岩塩の粒(全長3ミリ)」**に意識を集中させた。


垂直の矜持 能力発動。 フライパンの上に散らばった数千の塩の結晶が、重力を無視して一斉に**「垂直」**に起立した。 それらは、シオンの色彩操作で「影」に見せかけられ、ヒカルの能力で「ネバつく蒸気」の中に埋もれている。


「立て。……肉の繊維を貫く、結晶の剣となれ」


垂直に立った塩の結晶。それは熱を伝えるための「針」となり、クック・ドゥが操作する均一な対流を一点に集中させ、肉の特定箇所だけを「局所的にオーバーヒート」させた。


ドォォォォン!!


クック・ドゥのフライパンの中で、不規則な熱爆発が起きた。均一さを愛する彼の能力が、リュウガの「不規則な垂直構造」によって暴走し、完璧だったステーキ肉は無残に炭へと変わり、フライパンの底には真っ黒な焦げ跡が刻まれた。


「ば、馬鹿な……。私の完璧な計算が……こんな意味不明な小細工に……!」


クック・ドゥは、あまりの理不尽な敗北に、包丁を落として膝をついた。

洗浄の絶対神

「フッ……。勝利の味は、焦げているな」


リュウガが、真っ黒になった鍋を眺めてニヒルに笑う。 だが、その背後から冷たい気配が立ち昇った。


「あー、お前ら。……調理実習ってのは、後片付けまでがセットだって習わなかったか?」


田中が、研磨剤入りの業務用クレンザーと、金だわしを手に持って立っていた。


「焦げ付かせたフライパンの底には、お前らの『中二病』がこびりついてんな。……これ、落とすの大変なんだわ」


田中は無表情で、金だわしをフライパンに叩きつけた。


ガリガリガリガリッ!!


田中の腕力が生み出す物理的な摩擦。 シオンの色彩も、ヒカルの生乾きも、リュウガの垂直固定も。 「物理的に削り落とす」という単純な労働の前では、何の防御も意味をなさなかった。


「……あ」


「一気にやるぞ。……フライパンのテフロンが剥げるまで磨け。明日からお前ら、皿洗いのバイト追加な」


田中の放つ圧倒的な「清掃の義務」によって、彼らの勝利の余韻は跡形もなく削り取られた。 結局、三人は油まみれの床を這いずりながら、深夜まで全校生徒分の食器を洗う羽目になった。

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