第24話:紅蓮の廊下、避難路を塞ぐ壁
ジリリリリリリリリ!!!!
非常ベルが鳴り響く。 王立学園における避難訓練は、単なる訓練ではない。 それは教師たちが災害の化身となり、生徒を狩り立てる実戦演習である。
閉ざされた一本道
3階の廊下。リュウガ、シオン、ヒカルの三人は立ち往生していた。 前方を塞ぐのは、炎の化身と化した体育教師、バーン熱血。 彼の能力は、自身の体温を摂氏800度まで上昇させる単純明快な暴力だ。
バーン先生:逃げ遅れたな、不良ども。俺は炎だ。触れた瞬間にリタイアとみなすぞ。
廊下の床は熱で歪み、逃げ場はない。 だが、追い詰められた三人の瞳には、まだ光が宿っていた。
意味なき異能の覚醒
彼らが持つ能力は、どれも一見すると戦闘には不向きで、使い道が限定的すぎるものばかりだった。
ヒカルの能力:生乾きの洗礼 触れた対象の水分量を微妙に調整し、一番不快な生乾きの状態にする。
リュウガの能力:垂直の矜持 半径2メートル以内にある全長5センチ以下の無機物を、重力を無視して垂直に立たせる。
シオンの能力:色彩の叛逆 視界に入った静止している無機物の色相を、その補色に反転させる。
リュウガ:ヒカル、シオン。……作戦を開始する。
知恵と工夫の連鎖
まず動いたのはシオンだった。
シオン:色を塗り替えてあげるわ。……視界の混乱の中で踊りなさい。
シオンが能力を発動する。 茶色いフローリングの床が、突如として蛍光ピンクに反転した。 さらに、窓から差し込む夕日の色と干渉させ、床の凹凸を完全に消失させる。
バーン先生:ぬおっ!? 床が眩しい! 距離感が掴めん!
次にヒカルが床に手を突いた。
ヒカル:湿れ……! 一番気持ち悪い温度と湿度になれ!
生乾きの洗礼が発動する。 色彩反転によって視認できなくなっている床が、絶妙な水分を含んで極限まで滑りやすくなる。 ただの濡れた床ではない。乾きかけの膜が潤滑剤となり、摩擦係数をゼロに近づける。
バーン先生:ぬわぁぁぁ!? 滑るッ!!
体勢を崩したバーン先生が、前のめりに倒れ込む。 その落下地点へ、リュウガがポケットからばら撒いたのは大量の画鋲だった。
リュウガ:立て。……天を突く針となれ。
能力により、散らばった画鋲が全て針を上にして垂直に起立する。 色彩反転で見えず、生乾きで滑って倒れた先に待つのは、数百本の針の山。
ブスブスブスブスッ!!
バーン先生:グアアアアアア!! 画鋲が……画鋲が刺さるぅぅ!!
体温800度の熱血ボディでも、物理的な針の痛みは防げない。 そしてトドメは、熱によって活性化した異能の副作用だった。
ヒカル:先生。あんたのジャージ、生乾きのまま熱せられたらどうなるか分かるか?
モワァァァァ……。
高温になったジャージから、梅雨時の生乾き臭を100倍に濃縮したような悪臭が爆発的に広がった。
バーン先生:くっ、くさッ!? 精神が……鼻から崩壊するぅぅ!!
最強の体育教師は、激痛と悪臭に耐えかねて悶絶し、リタイアした。
報われない勝利
三人は窓から中庭へと飛び降りた。 色彩を反転させて距離感を誤魔化し、生乾きの土で着地の衝撃を和らげる。 だが、着地した瞬間に彼らを待っていたのは、高圧洗浄機を構えた田中だった。
田中:あー、お前ら。せっかく掃除した中庭を汚すなよ。
田中の放った水圧により、彼らの小細工は一瞬で洗い流された。 結局、三人は田中に首根っこを掴まれ、全員一律で居残りの雑巾掛けを命じられるのだった。




