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第九話 燃えちまったのさ

 月明かりに照らされた荒野を一台のバイクが疾走する。砂煙を巻き上げて全速力だ。向かう先は愛する祖父がいる家である。

 ドニに呼び出された理由。それは夜の番で門番をしていたドニの耳に届いた馬小屋からの騒がしい音が発端だった。気になった彼が馬小屋へ行ってみると普段は大人しい筈のナナシが興奮状態になっていた。ドニがどれだけ落ち着かせようとしても興奮が冷めず、どうしていいのか分からなくなって呼びに来たのだった。しかしだ、呼ばれて馬小屋に到着してみればそこにナナシの姿は見当たらなかった。残されていたのは破壊された柵や無理矢理にこじ開けて隙間が作られた門だ。これにはとても驚いた。なにせ今までナナシが暴れて村から飛び出していった事など無かったからだ。何か嫌な予感を感じて望遠鏡を借りて村の外を覗いてみた。遠くに見えたのは走り去っていくナナシ。真っ直ぐに向かう先は家のある方向だ。そして望遠鏡を家の方向に向けた瞬間・・・絶句したのだった。

 「クソッ!クソッ!クソッ!!何だってんだよ!」

 脳内で渦巻く不安が口から漏れ出る。望遠鏡から見えたのは岩山を赤く照らす光だった。家が火事になっているだなんて誰が予想出来ただろうか。慌てて兄弟達の元に駆け戻って車を出してくれるように言ったのだが、苦い顔をしてすぐには無理だと言われてしまった。この間の遺跡漁りから調子が悪く点検中だった。ならばと試作バイクに動力コアをぶっ刺して飛び出して来た次第である。

 「どこに行くの?」

 「ったく、どうしてお前まで着いてくるんだよ?」

 「貴女のDNAを登録したからね。簡易的な主従関係とでも言えばいいのかな。」

 「また小難しい話を。なんでもいいから振り落とされんなよ?」

 背中にしがみついているのは自分に似た姿をした子供・・・名前の無いナニか。恐らく人では無い。いつの間にかバイクの後ろに乗っていた。ゴタゴタの最中にちゃっかりついて来ていた。今さら村に戻って降ろす時間は無いので連れて行くしかなさそうだ。

 「止まって。」

 「あん?ッ!!?ッッッぶねぇ!?」

 仮称ナニカがそう言った直後、バイクの直進方向に大きな障害物が姿を現した。ブレーキを強く握り何とかぶつからずに済む。何度も往復した家と村との道。その記憶の中にはこんな障害物は無かった筈だ。バイクの青白いライトに照らされたそれは何かの生き物の身体であった。

 「なんだこいつは・・・」

 「大型の二足歩行爬虫類だね。もう死んでるみたい。」

 長い年月をかけて岩の様に膨れ赤みを帯びた鱗。成体のマッドマッドボアを一呑みに出来る巨大な顎には狂気的な太い牙が並んでいた。

 「噓だろ・・・レッドロックジョーじゃねぇか。しかも・・・頸が斬り落とされてんぞ。」

 「鋭利な刃物で斬り落とされたみたいだ。」

 この荒野で生態系の上位に位置する捕食者の頭部は、哀しいかな胴体と離れ離れになったしまっていた。並の衝撃では意に介さない程の強度を誇る岩の様な鱗や皮でさえ果物を切ったかの様に綺麗に断たれていた。かつては凶暴を孕んだ瞳が今では虚ろに吹き荒ぶ砂を見つめている。

 「刃物だ?こんだけ太い頸だぞ?」

 「疑ってもいいよ。でもこの結果達は噓をつかない。」

 「刃物・・・マッドマッドボアも?ちくしょうめ!嫌な予感しかしねぇなぁ?急ぐぞ!」

 アリエスが言っていた事を思い出す。マッドマッドボアの親玉にあった鋭い傷口。両断されたレッドロックジョーの頸。何か重なる部分がある気がした。そんな不安を振り払うように再びバイクを走らせた。

 悪い予感は更なる現実を引き寄せていく。家に近付いていく程に、荒野に打ち捨てられた死骸の数が増えていくのだ。サビイロオオカミの群れやイズミガクレ。カネクイワシやメタルコロガシ。その全てが切断もしくは裂傷で死んでいた。

 「着いた!ちゃんと後ろを付いて来いよ?」

 遂に岩山群へと到着した。仮称ナニカを気にしている場合では無い。一瞬でも早く家へと戻らねばならない。迷路の様な岩山を抜けた先には・・・

 「噓・・・だろ?」

 絶望が待ち受けていた。爆発だ。爆発があった。石や粘土で造られていた頑丈な外観は内側からの衝撃で吹き飛び、内装の木材は黒く燃え尽き未だ赤熱する部分からは白い煙が立ち昇る。火は殆ど消えており、残った小さな火種がチロチロと燃やせる物を好き嫌いもせずに舐めていた。夜中の火事と爆発。普通に考えて祖父は眠っていただろう。つまり・・・

 「なんだよこれ・・・・・・」

 力が抜け膝から崩れ落ちた。視界がブレて体が震える。強く目を閉じてこれが夢であったならと一心に念じた。だっておかしい。そうだおかしいのだ。この荒野で慎ましく暮らしていた自分達が何故こんな仕打ちを受けなければならないのだろうか?ドルトーは、爺ちゃんはいつもと変わりなく村へ送り出してくれた。まだ聞きたい事があった。学びたい事があった。恩返しも終わっていない。まだ、まだ、まだまだ山程残っていた。残っていた筈・・・なのに、、、

 「・・・・・・あぁっ・・・」

 荒い呼吸と目眩の最中、不意に声が漏れる。瞼を開けど過ぎ去った過去は瞳に映ることは無かった。あったのは瓦礫となった幸せの抜け殻だけだ。熱い雫が頬を伝った。堰を切ったの様に涙は溢れ滴った。只々、静かに・・・(くゆ)る残り火を眺めていた。

 どれだけ経っただろう。ふと気付けば夜は明けていた。日の出したばかりの弱い光が優しく残酷な現実を照らしていく。

 「やぁ。」

 「・・・・・・・・・」

 「話しても大丈夫かな?」

 背後から声をかけられた。そういえばすっかり存在を忘れてしまっていた。だが今となっては何もかもがどうでもいい。当然、返事をする気力すら無い。

 「少し調べさせて貰うよ。」

 そう言って仮称ナニカは熱が冷めやらぬ瓦礫へと足を進める。そしてしばらく色々と歩き回ると何か考え込み、それから再び近くに来た。

 「少ない情報を繋ぎ合わせてみたんだ。ここは貴女の住んでいた住居だよね?大きさや間取りを見るにもう一人住んでいたみたいだ。」

 「だから・・・なんだよ。」

 「結論から言うと、その同居人は少なくともこの爆発や火事では死んでいないよ。遺体らしき物も無かったし。」

 「なっ!?どういう事だ!?答えろ!」

 「落ち着いてよ。先ずはこの爆発の跡。これは内側から発生してる。しかも全体的に。普通は偏った場所の破損が大きくなる筈。一般的な家庭なら燃料は纏めて置いておくだろう?大容量の危険物を貯めておく場所があったならこうなるだろうけど、そんな物の残骸は見当たらないしね。」

 「何が言いてぇんだよ。」

 「つまり、この爆発は意図的に吹き飛ばした可能性が高い。」

 「爺ちゃんは自分で爆発を起こしたってのか!?なら爺ちゃんは生きてるのか!?」

 「それで次。この周辺にはまだ新しい、数種類の靴跡が残ってた。貴女やこの地域に住んでいる人間の履いている靴では無い形状のね。少なくとも荒野や砂地に対応していない形だ。」

 「靴跡?そんなもんどうやって調べ・・・いや、それよりもこの辺りに住んでない奴らがいたってことなのか?」

 「そしてここに誰かが倒れたような跡。血の跡は無い。ここにある他よりも沈んだ足跡は重さが増えた事を知らせてる。最後にバイクを停めた場所の近くの砂には車のタイヤの跡が残っていた。ここに死体が無い以上、連れ去られた可能性は高いかもね。」

 心臓がドクンと跳ねた。熱い血潮が巡り始めてゾクゾクとした身震いをしてしまう。もしもその話が本当なら悲観するにはまだ早い。仮称ナニカが言う通りの場所に足跡や痕跡が残っている。それが真実味を足していく。

 「言えるのはこれくらいかな?目覚めたばかりで情報が少ないんだ。記録も殆ど消えてるみたいだし。使える機能にもかなり制限がある。」

 「爺ちゃんが攫われた?誰が?ガレット団の奴らか?あり得るけど奴らはこの辺りに住み着いて無いぞ?」

 ガレット団ならやりそうでは有る。しかしなぜか基本的に人が集まっている場所には拠点を作らない奴らだ。奴らで無いとするなら他の村か。しかし他の村とも仲が悪い訳でも無い。むしろ友好的なはずだ。そんな仲で誘拐を企てたるするのだろうか?

 「知らない奴らか?知らない奴・・・知らない奴・・・っ!アイツ等か?確か村長の家の方から歩いて来てたな。おい!すぐに戻るぞ!話を聞かなきゃならない奴がいる!」

 とある記憶が呼び起こされる。見覚えの無い奴らが確かにいた。村に着いた時にすれ違った男達だ。奴らは村長の屋敷から歩いて来た筈だ。なら村長は何かを知っている可能性が高い。仮にこの家の場所を漏らしたりしていたなら一発殴らなければ気が済まない。体はもう走り出していた。

 

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