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第五話 我が家(マイスイートホーム)

 「・・・・・・・・・?くおっ!?眩しっ!ぬぁぁぁっ!」

 いつも通りに。今までに何度も繰り返してきた様に自室のベッドで目を覚ました。だが目を開けた瞬間に刺激を受けて強く閉じる。光がとても眩しく感じ、反射的に出た涙がジクジクと滲みて痛い。手探りで上体を起こしてから目を擦る。

 「あ〜、ちくしょうめ。・・・なんで部屋で寝てるんだっけ?」

 ようやく開いた目には代わり映えのない自室が見える。木と石と粘土で出来た素朴な我が家。遺跡から持ってきた遺物や機械の部品で散らかったいつもの部屋だ。カーテンが開けられた窓からはやや強い太陽光が射し込む。まだ寝ぼけている脳みそで記憶を振り返る。そして思い出す。遺跡での信じられない様な恐怖の体験。

 「夢・・・じゃねぇよなぁ。白い粉になってんな。」

 服を捲って傷口を確認するとほとんど元通りの肌になっていたが、真新しく再生した部分だけが明るい色の肌になっている。そして白い糸が縫われていたと記憶していたのだが、それは消失しており代わりに白い粉末が肌に付着していた。僅かな可能性として夢であるとも考えたが、明らかに現実にあった事なのだろう。確か最後の記憶は卵から出てきた腕が光って・・・・・・

 「おおっ!目を覚ましたのか!心配していたんだぞ!」

 「爺ちゃん・・・うん、おはよう。」

 「怪我は痛むか?他に痛むところは無いか?」

 「う〜ん・・・うん、寝起きで体が強張ってるくらい。いや、なんか怠いな。力が入んない・・感じ?」

 色々と思案していると入口から声がした。胸元まで垂れた豊かな口髭を蓄えた初老の男。彼こそが唯一の家族であるドルトーこと爺ちゃんである。手に布や桶を持って心配そうに近付いてくる。

 「血だらけのお前をジグリス君とアリエス君が運んできた時は驚いて寿命が縮んだわ。まさか遺跡漁り中に見上げる様な大きさのスティングプラントに襲われて機械に治療されたなんて話。すぐには飲み込めんかった。」

 「ごめん。爺ちゃんに・・・楽させたくてさ。」

 「なに、まだ楽をする様な歳でないわい。お前がやりたい事を止める気は無い。だがせめてワシより先に死なないでくれ。」

 「わかった。約束する。」

 ベッドに腰掛けたドルトーに抱き着いた。ゴワゴワとした髭からは太陽と土と薬草の香りがした。昔から嗅いでいる大好きな祖父の匂いだ。ドルトーは手持ちの荷物を傍らに置いて包むように抱きしめてくれた。またこうして帰ってこれた事が嬉しいと感じる。

 「そういえばその道具って何に使うんだ?」

 「ん?これか?おぉ、そうだった。そろそろ下の世話の時間だと思ってな。お前がこんな小さな頃を思い出す。」

 「下の・・・世話!?」

 「当たり前だろう。一週間近く寝たきりだった。思えばお前が小さい時から、下の世話のタイミングはばっちり掴んどったなぁ、ワシ。」

 下の世話。つまり排便や排尿の事だ。意識が無ければ勝手に出る。ご都合的に目覚めるまで溜まっていてくれる訳が無い。まさかそんな事をしてもらっていたなんて恥ずかしいやら申し訳ないやらで頭がプチパニックだ。

 「いや、本当に・・・ありがとうしか言えねぇけどさぁ・・・」

 「恥ずかしいものでも無いだろう。小さい時と何も変わらん。」

 「いやいやいや、普通に恥ずかしいって。でも・・・おごっ!?」

 「おごっ?」

 「爺ちゃん、肩貸してくれ。」

 「はははっ、やっぱりワシの勘は鈍っていなかったな。間に合わないなら桶があるぞ?」

 「それだけは絶対に嫌だ。」

 腹部にドスンと重い感覚。まぁ、その・・・つまり便所へ行かなければならない。意識がある状態で桶にだなんて・・・絶対に嫌だ。ドルトーの肩を借りながら、寝たきりで少し弱った体で可能な限り全速力で向かうのだった。




 「そんなに食べて大丈夫か?」

 「大丈夫大丈夫。それに消化に悪そうな物とか無いし。やっぱり爺ちゃんの作るスープは美味いな。」

 「ふ〜む、無理はするなよ。」

 日もとっぷりと暮れた夕刻。肉や野菜が柔らかく煮込まれたスープとパンがいつも通りの夕食だ。しかし今日はいつもより美味しく感じる。それは空腹であったからなのか。それともスープに入っているカルドの爽やかな酸味やジキタルの脂身の付いた肉の旨味のおかげなのか。とにかく飢えた体に温もりを満たしていった。

 「そういえばさ、爺ちゃんに教わりたい事があったんだ。」

 「はて、教わりたい事・・・」

 「死にかけてさ、色々と考えさせられた。でさ、爺ちゃんって何でもできるだろ?薬草育てて薬にしたり、機械だって直せるし。それに料理だって上手いし。なんかそういうのを教えて貰わないまま死ぬのかって考えた時にすごく後悔した。」

 「・・・そうか。ベリル、お前も成長したな。」

 「成長って。何も考えてこなかっただけだって。」

 「久しぶりに勉強の時間だな。ジグリス君とアリエス君には、明日にでもお前が目を覚ましたと伝えてこよう。お前が村に行くのは体の調子が戻ってからにしなさい。」

 「うへぇ、勉強は苦手なんだよなぁ。なんて言ってられねぇか。」

 勉強は苦手というよりも嫌いだった。小さな頃はよく脱走して日が暮れるまで外で遊び回ったものだ。そして罪悪感を抱えての気まずい帰宅。そんな時でも祖父は笑顔で出迎えてくれたっけ。今になってもう少し真面目にやっていたらと後悔しているが、あの頃の自分はただ遊ぶ事が優先だったどうしようもないガキだったので仕方がない。

 「最初は機械がいいな。村であいつらと一緒にバイク組み立ててるんだ。もう少しで動くんだけどあいつらが何を話してるのか分からない時があってさ。」

 「ほ〜ぅ、バイクか。彼らも自分達で学んで成長しているのか。」

 この部分はこうした方が良い。いや、この部品はこうだ。試行錯誤を繰り返しながら三人でずっと作ってきた。しかし最近はジグリスとアリエスが話す内容を理解できない事が増えた。二人が議論している部品がどういった働きをするのかが見当もつかない。置いていかれるのは我慢ならなかった。ちなみにあの兄弟に機械について色々と教えたのはドルトーだ。両親が亡くなった後に教えてくれと頼み込まれたそうな。

 「時間はある。一番やる気のある機械に関しては最後にして最初は薬草からだな。」

 「う・・・薬草かぁ。いや、俺はやる。」

 この家は村から離れた岩山の中にポツンと存在している。どこか遠くから赤子を抱えて流れてきたドルトーが見つけた安全な場所だった。水が滲み出す小さな洞窟があり、育てた薬草を薬にして村へ売りに行く事で生計を立てている。ドルトーが村に行き始めた頃は白い目で見られていたらしい。しかし薬を売ったり壊れた機械を直したりしているうちに信用されて、今では誰もが笑顔で挨拶をしてくれる間柄だ。

 そんな彼が作る薬は数えた事は無いのだがかなりの種類がある。薬草だって簡単に栽培できる筈が無い。それを学ぼうと考えると頭が思考を放棄しそうになる。しかしきっと長い人生だ。どこかで必ず役立つ時がある。そうして自分を奮い立たせていく。

 「とはいえ今日はもう暗くなった。明日からしっかりと学ぶ為に今日は早く休む。いいな?」

 「わかった。」

 明日から数日間は勉強の日々だろう。以前はやる気など湧かなかったが今は違う。少しずつであっても学び、祖父との記憶を思い出した時に後悔をしない様にしたかった。きっと思うだけでは駄目なのだろう。行動に移さなくてはならない。

 それから寝る準備を終えてベッドに横になるとすぐに眠気が意識を誘う。悪夢の様な恐ろしい体験から無事に生きて戻れた事に感謝しながらも、意識はフッと夢の世界へと旅立つのだった。

 

 

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