第一話 荒野の洗礼
草木もまばらな乾燥した荒野。そこには旧文明が遺したと言われている風化した見上げるような大きさの建物の残骸が乱立していた。その間を風が抜けると反響してどこか物悲しい様な音が響く。まるで旧文明の嘆きの様に聴こえてくる。
「で?着いたのはいいけど、ここはもう何度も探索した場所だろ?」
「そうなんだけどさ。とっておきの場所を見つけたんだって。もう少しだから。ね?ベリルは大丈夫?」
「あぁ、問題ねぇ。」
塗装の剥げた荷台のある中型トラック。遺跡群を見渡す小高い丘から土煙をあげて下っていく。
「奥の方にさ、入れなかった建物があったの覚えてる?」
「向こうか?あ〜・・・う〜ん?おっ、確かにあったな。それがどうかしたのか?」
「この前の地震で、そこに遺跡の残骸が落っこちて穴が空いたんだよ。」
「おぉ〜、よく見つけたなぁ。やるじゃんかアリエス。」
「へへへっ、だからジグ兄ぃとベリルと一緒に来たかったんだ。」
運転席と助手席で話しているのはジグリスとアリエス。遺跡漁りの兄弟だ。両親を流行り病で亡くしてから兄弟仲良く支え合って暮らしている。そんな兄弟の話を聞き流しながら荷台で布を被ってボケっと座っているのが俺、ベリルだ。荒野の日差しは強い。頭から布をすっぽりと被っていないと流石に辛い。
旧文明と言われてもピンとはこない。栄えていた時代に思いを馳せることも無い。だが遺跡から見つかる遺物は金にはなった。遺跡漁りをするには充分すぎる理由だ。
「手付かずの場所ならアレがあるかもな?動力系のパーツ。」
「確かに!もう少しで動かせる位には組み上げられるしね。ベリルだっていつまでも荷台は嫌でしょ?」
「楽しみではあるんだが荷台は嫌いじゃねぇぞ?屋根があるかの違いくらいだろ?それに楽だしッ!?どうした急に?」
突然の急ブレーキに体が大きく揺れた。ハンドルを握っているアリエスは荒っぽい運転はしない。つまりは、なにかしらのトラブルだ。
「よぉよぉよぉ、そんなに急いでどこに行くんだ?」
「ちっ、面倒な奴が来た。」
「ははっ、挨拶として受け取っておいてやる。」
両脇が遺跡で阻まれた狭い道。その真ん中に男が立ち塞がっていた。黒いヒゲがボウボウと生えた樽みたいな大柄の男。
「やれやれ、挨拶は済んだろ?通してくれないか?」
「悲しいこと言うなよ兄弟。ここらは新しく俺達の縄張りになったんでな、ちょいと通行料が発生するんだ。」
「縄張りだぁ?この前は南にあったスクラップ山が縄張りだっただろ?あ〜、つまりあれか?なんかの生き物に追い出されたな?」
「うっ、うるせぇなぁ!あんなクソデカいトカゲに勝てるかってんだ!」
ジグリスがからかう様に話しかけている。この男、初めましての仲では無い。荒野をさすらうならず者であり、いくらかの手下を従える集団のリーダーだ。名前は確かガレットだった筈だ。彼らとは遺跡漁りをしている最中に何度か小競り合いがあった。
「おい野郎共ッ!!」
「こりゃあまぁ・・・流石にヤバいか?」
「どうするのさジグ兄ぃ?」
「どうするって場所が悪すぎる・・・」
正面には銃を構えたガレット。左右の遺跡から隠れていた手下達が現れ、更に多くのピストルの銃口を突き付けてくる。
「さぁ〜て、東の遺跡でやられた分の仕返しからやるとするかな?」
「ふざけんな!あれはお前達が勝手に巣を刺激した自業自得だろ?」
「そうだそうだ!爆弾を巣に投げ込んだそっちが悪いって!」
「だぁ〜っ!!うるせぇ!あのカネクイワシのせいで車がオシャカになって一週間は荒野を彷徨ったんだからな!先ずはそうだな・・・車を置いていけ。それから
「おぃ、アリエス。合図したら思いっきり後ろに走れ。」
「後ろに?その前に穴だらけにされちゃうよ?」
「アイツの後ろを良く見てみろ。」
「えっ?うわぁ・・・あれはヤバいね。分かった。ベリルも揺れるから気を付けて。」
「あぁ、分かった。」
ガレットは未だあれやこれやと恨み節を吐いていた。しかし本当の脅威は彼の背後から静かに忍び寄っていたのだ。
「今だッ!!」
「了解ッ!!!」
アリエスがギアをバックに入れてアクセルを踏み込んだ。エンジンが唸りをあげ車が下がっていく。多少跳ねたりしようが関係無い。土煙を巻き上げて全速力だ。突然のこちらの動きに驚いたガレット達は、反射的に数回銃弾を発射したのだが照準がブレた射撃はこちらに当たることは無かった。次の瞬間、先程まで車がいた場所の地面から鋭い何かが飛び出してきた。伸縮性がありつつも硬そうな金属質の外皮に包まれた細長い何か。その先端には金属の三本爪が生えており、それが開いたかと思った瞬間に青白い電気の波が空間に発射された。
「やっぱりな。デスメタルワームだった。」
「あれに当たってたらヤバかったね。電気系統やられてたよ。」
デスメタルワーム。荒野の地下に生息する危険な生き物だ。音を頼りに尻尾から電気を発射して獲物を狩る狩人である。尻尾で地下から強襲する速度は脅威だが、本体の動きは鈍い。だから尻尾の先に付いている器官から電気を発射し獲物を痺れさせてからゆっくりと捕食するのだ。ガレットも、その手下達も皆が感電して倒れ伏していた。
「回り道しか無いな。」
「そだねぇ。ガレットには悪いけど助けるにはリスクが高すぎるよ。」
「だな。あいつらの悪運が強かったらまた難癖つけに出てくるだろ。んじゃあ行くか。」
「あいよ〜。」
アリエスがギア入れ直して車を出発させる。ガレット達とは何度も小競り合いをしている。ある時は罠に嵌められて鉄球蟲の群れに突き落とされたり、スナイプサボテンの群生地に置き去りにされた事もあった。つまり、奴ら相手に手加減は不要なのである。きっと今回も生き延びるのだろう。悪運の強い奴らだ。そんな気がしている。
アリエスが行こうとしている場所は、もうそんなに遠くは無い。想定外のトラブルではあったが、この調子なら日が落ちる前に帰る事が出来る筈だ。そう考えながらズレた布を頭から被り直すのだった。




