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30話 鬼の章 其の漆

無事30話目をアップです。

よろしくお願いいたします。



『…ってな訳で、二人ともガチで修行してるよぉ〜。』


 いつもの軽快な声色が携帯のスピーカー越しに聞こえてくる。


「楪さん、ありがとうございます。引き続き二人のことよろしくお願いします。」


『りょーかーい。』


 そう言って通話は終了した。

 今回の依頼主の海堂くんから聞いた内容で、取り急ぎ海堂くんと雪平さんに心身の強化が必要だと思い、二人を楪さんにお願いした。


 雪平さんは彼女自身、神嫁の霊力に耐えられるように。海堂くんにはおそらく先祖由来の鬼の加護を所持してる事から雪平さん同様に加護に耐えられるように修行に出した。


 そして一方の俺は今回の依頼解決の為の糸口を探していた。


 当初、海堂くんから「自身に掛かってる鬼の呪いを解いてくれ。」と依頼されたが、中身を覗けばそれは呪ではなく、加護だった。

 修行開始前にその事は彼には電話越しではあるが伝えた。

 しかし、その加護は一体何に対して働いたのか…。


「(彼の生家に何かの言い伝えが…?いや、一つの家じゃなくて地域で括られてるのか…?だとしたらもっと被害があるはず…。いや。ありとあらゆるケースを想定して····。)」


 こんな時に叔父のように、自由に呪術を扱える力があれば、と何度思ったことか。

 いや。雪平さんの霊力を貰えれば、使おうと思えば使える。しかし、万能の力と言うのものはこの世に存在しない。

 あったとしてもそれが、どんな副作用、反動がどれほどあるのかが分からない内は頻繁に使うことは避けたい。

 ここ最近の依頼解決には彼女の力に頼ってしまってる気がする。

 そして何より、俺自身がそんな他力本願な現状を許さない。

 俺自身が出来ることは全てやる。


「…まるで、意地っ張りな子どもだな…。」


 あたりに散乱した資料、作りかけの護符を見渡し、そう自嘲じみた言葉が口から溢れた。


 昔から周りの大人達からそう言われてきた。あの人にも…。


 

「姉さんなら、こんなに足掻かないだろうな。」




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 香善寺での修行は至ってシンプルだった。


 お堂での座禅とお寺の雑用だった。

 平日は学校があるので、放課後にお寺に来て、それらをこなす。

 休日は早朝から始まるので金曜の夜から泊まり込みで修行してる。


 最初聞いた時は、スケジュールのハードさに驚いたが、正直、自分の家にいる時より心地よい時間を過ごさせて貰ってる。

 確かにここでの肉体労働は地道でキツい。初日で筋肉痛にもなった。

 でも、ここでは理不尽に怒られたりする事はないし、修行をやって行くうちに家での嫌なことを忘れていき、心身が充実していく感覚があった。



「ふっ…。」


 薪割りに使う薪を大量に一気に背負い、境内に続く階段を上る海堂くん。

 彼も最初慣れない作業に戸惑っていたが、女の私より力のある彼はコツを掴み次第、力仕事を難なく短時間で終わらせるようになった。


「おぉ!!流石だねたっちゃん!まぢ鬼がかってるぅ〜。」


「ははっ。久我さんの話では、呪じゃなくて鬼の加護がついてる様なんで。」


 六月初め。夏も近づいてきたこともあり、蒸し暑さと力仕事で汗を流しながらも、爽やかに笑う彼は、初対面の雰囲気とだいぶ変わっていった。

 雰囲気だけじゃない。心なしか体つきも逞しくなっているような気がした。


 



「たっちゃん、元々いい子ちゃんだったから、今回の修行で邪念が落ちて、更に自分には強い力が付いている事を自覚したから覚醒したんじゃない??」


 修行中の食事は香善寺でお世話になっている。

 流石に食費の支払いと手伝いを申し出たが、「お金なら相談所から貰ったるから大丈夫。だから手伝いだけお願い〜。」との事で、こうして楪さんと夕食の準備をしている。


「覚醒ですか…。」


「規則正しい生活は心を整えて、鍛錬で培われた筋肉と美味しい食事は体を整える。これ、あーしの持論!」


 そう言って楪さんはニカっと笑って言う。


「この修行で二人ともいい顔つきになって来てるよ。強い心身には悪い気や霊が寄って来ないからね!」


「最初に言ってましたね。確かにここにいると心が落ち着きます。」


「ふふん。そう思ってくれたのなら修行大成功だね!」

「ママぁ〜!!」


 自慢気に胸張る楪さんの足元に小さい女の子がしがみつく。


(もも)!おかえり〜!」

「桃ちゃん、お帰りなさい。」


 女の子は桃ちゃんと言い、楪さんと精願さんの娘さんだ。

 以前、香善寺に来た時には、たまたま精願さんのご実家にお泊まりしていて会えなかった。


「みつちゃんこんにちは!」


 人懐っこい性格とその笑顔、ふくふくとしたほんのりピンク色した丸い頬を見ているとこちらまで幸せな気分になれる様な子だ。


「ママ!今日のごはんはなぁに?」

「今日はねぇ…。」


 母と子のやり取りを見ていると胸の奥がじんわり温まる感覚と、同時に締め付けられる様な感覚に襲われる。

 私の記憶の中の母は、私にこんなに優しい笑顔を向けたことがない。その事を思い出す度に自分は何故生まれたのか…そんな答えの見えない問いかけが頭の中を駆け巡る。


「はい!ご飯食べたい人は、まず手を洗って、居間にいるたっちゃんのお手伝いをお願いします!」

「はぁい!!」


 楪さんの言葉に、桃ちゃんは元気よく返事を返し、洗面所に向かっていった。

 

「さて!ウチの食いしん坊がお腹すかしてるみたいだから、ちゃちゃっと作っちゃおっか!」

「…はい!」


 私は頭の中にあった嫌な考えを振り払って、引き続き夕食を作り始める。

 


30話目読了ありがとうございました。

そして、今年の夏頃から連載開始したこちらの物語をここまで読んで頂きありがとうございました。

また来年もよろしくお願いいたします。


またいいねやブクマの方もよろしくお願いいたします。

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