23話 術者の章 終
大変おまたせ致しました。
続編です。よろしくお願いいたします。
「カッコつけてるようだけど、それって、セクハラになるんじゃない?黒狼獅神急急如律令」
蘆屋は己の術が打ち消された事も、ものともしないといった様子で、人差し指と中指を立て、その指の間に一枚の札を挟み、何か小声で呪文を唱えた。
すると、蘆屋の周りに黒い霧が立ち込め、その中から黒い狼のような生き物が二頭出現した。
「(あの大きな犬…あの時の…?!)」
数日前に街中ですれ違った大きな犬をリードなしに連れていた少年の事を思い出した。
「かぁ〜。最近の若いもんは何かあればすぐにセクハラだと、パワハラだの…生きづらい世の中になったもんだよ。」
『主は少し人に気を遣った方がいいと思う。』
げんなりした様の明さんに、肩に止まっていた炎の鳥は言った。
というか、あの鳥喋れるんだ!!
「あっはは!式神にも言われてやーんの!おじさんは、少しは己の存在を自重したらっ!?」
そう言って蘆屋が手を出すと、二頭の狼はこちらへと向かってきた。
「だから、お子様のくせに生意気な術を使うんじゃありません。魂縛呪急急如律令」
そう言って明さんは、向かってくる狼に何かを投げたように見えた。
その瞬間狼の前で投げた何かが閃光を放った。
先程の爆発程ではないが、思わず目を細めてしまった。
光が収まり、そこを見ると明さんの前には大きな五芒星が輝いており、二頭の狼は何かに動きを止められてるようにも見えた。
それは、光の縄だった。光の縄が二頭の動きを封じたのだ。
「そんな術で抑えられると思ってるの?」
狼の動きを封じられた蘆屋は表情変えずに、顔の前で人差し指と中指を立て。
「|解刀伏呪急急如律令《カイトウフクジュキュウキュウニョリツリョウ》」
そう唱えると狼を拘束してた光の縄はこま微塵になってしまった。
拘束を解かれた狼たちは再度、私たちの方にジリジリと狙いを定めた。
狼の放つ眼光に怯んでると。
「騰蛇。殺すなよ。」
「!?」
明さんの鋭い声がその場に響いた。
『我が主。この小僧は死なねば性根治らぬぞ。』
その声の方を見ると、一匹の白い大蛇が蘆屋の足元から身体に巻き付き、大きな口を開けていた。
「っは。気が付かなかったや…。いつからこの蛇を呼んでいた?」
大蛇に絞められ、身動きが取れなくなったと同時に二頭の狼は泥のように崩れ落ち、消え去った。
「最初からだよ。この朱雀と一緒に足元に騰蛇を呼んでいたのさ。朱雀には大技を出して貰って目眩しして貰ったのさ。んで、夜闇と廃材に紛れながら君のところまで行ったのさ。」
『あやつを忍び込ませるために、我が呼ばれたのは業腹だが、我の美しさだからが成せるのだから仕方がない事にしょう。よって、これが終わった暁には褒美を所望する。』
『我が主人よ。我は風呂を要求する。我が玉体に砂埃がついてしまった。』
赤く輝く鳥の朱雀、白い大蛇の騰蛇。
おそらく明さんのことは主人として見てはいるのだろうが、その物言いから気位の高い性格なんだと感じ取った。
「わーったよ。これが終わったらな!?少しは俺をカッコよく見えるように立ててくれませんかね!?」
「…っ!子供相手に十二天将を二体とか卑怯じゃない…?」
騰蛇に絞められてる蘆屋は苦しげな表情を浮かべながら、忌々しそうに明さんを睨む。
「ぶぁーか。大人だからこそ子供の前では、中途半端な真似はしないんだよ。」
そう余裕そうにタバコを吹かしながら、不適な笑みを浮かべる。
「っふー…。本題に入るけどよ、蘆屋の坊ちゃんよぉ…。SNS使って、一般人に呪術を広めるのやめてくんのねぇかな?色々面倒な事になりつつあるからさぁ…。」
タバコの煙を吐き出し、明さんは蘆屋に言った。
しかし、当の蘆屋の方はその言葉に対して、まるで母親に小言を言われた反抗期の子供のような、反抗的な態度をとった。
「っは!そんなの知るかよ。無知で無力な奴らが、あんな胡散臭い物に引っかかるのが悪いんだよ。人間如きがそんな都合よく助かる訳ねぇんだよ!この世の中、自分のことは自分でやるしかないんだよ!」
そう主張する蘆屋の内容はめちゃくちゃな気もするが、どこか道理に準じているような気もした。
「…そうだな。」
そう静か返したのは久我さんだった。
先程の戦闘では沈黙を貫いていた久我さんだが、ここにきてやっとその閉ざしていた口が開かれた。
「呪術なんかで問題を解決したところで、それ以降の人生に意味はないと俺は思う。それ以降の人生も人の理から外した方法で解決しようとするだろう。」
明さんの後ろに控えていた場所からゆっくり一歩一歩前へ、蘆屋の方へ歩みを進める久我さんの雰囲気は、誰も近寄らせないと言わんばかりの雰囲気を放っていた。
「人の心は弱い。それは今も昔もそうだ。だから、人外の力を操れる俺らの祖先はそれを用いて人々を救う反面、その術をひた隠してきた。そうする事で、この現代まで秩序を守ってきたんだ…。それをお前はっ!!!」
身動きの取れない蘆屋の前まで辿り着いた久我さんは、感情をむき出しにして、右手を蘆屋の首元に掴み掛かった。
「うぐっ…!」
首元を掴まれた蘆屋はさらに表情を歪ませる。
「環…。」
「俺は、お前みたいなクソガキが好き勝手に力を使えるのが、心底腹立たしくて仕方がないよ…。」
「環!!!」
ミシミシと音が聞こえて来そうな力で、蘆屋の首を締め上げる久我さんに、明さんの鋭い怒声が響く。
「……手ェ離せ。お前が人の道理から外れようとしてどうする…。」
「…はい…。」
明さんに諭されて、本心は納得していないと言わんばかりに悔しそうにゆっくり、蘆屋の首元から手を離す。
「…っごほ…!ごほっ…!」
絞められていた気道に急に酸素が通う事になって咳き込む蘆屋。
「…ふっ…。あははっ!中学生の、年下の俺に対して、みっともない八つ当たりだな!久我環…!でも許してやるよ。有能な!俺は心が広いから、無能な!お前の八つ当たりなんて…!」
「あ?」
「お前は少し黙れ。」
そう言って明さんは、蘆屋の頭を平手で叩いた。
「いいか?クソガキ。お前自身はまだまだ世間も知らないようなお子ちゃまだ。そういう、無差別に人を見下してると、こうなることを覚えとけ。」
そう言い、騰蛇に締め上げられてる蘆屋を指差し言った。
しかし、その言葉に蘆屋は動じたり、怒る様子もなく、ただ口元をニヤリと歪ませた。
「そうだね…うん…そうだ…。でもそれは今のあんたにもそれは言えるんじゃない?」
そう、いう蘆屋の顔はうっすらと笑みを浮かべていた。
「…!!朱雀!!結界を!!騰蛇!!離れろ!!」
「|炎天明々急急如律令《エンテンメイメイキュウキュウニョリツリョウ》」
蘆屋の様子を見て何かを感じ取った明さんは、二体の式神に咄嗟に指示を出した直後、蘆屋は何かを唱えた。
すると、また周囲が熱波と閃光が私たちを包んだのが分かり、頭を下げ、腕で視界を覆い衝撃に備えた。
しかし、その衝撃は私たちには伝わってこなかった。
ゆっくり前を見ると、私たちの周りを赤く輝く半円状の膜が覆っているのが分かった。さらに周りを見ると、私たちの頭上で朱雀が翼を広げていた。半円状の膜はその朱雀を中心にして展開されていた。
そして騰蛇に拘束されていた蘆屋がいた場所は何かが爆破したかのような焦げ跡が残り、そこには蘆屋の姿はなかった。
『我が主。無事か?』
「あぁ。騰蛇も大丈夫そうだな…。」
爆風で吹き飛ばされた瓦礫の隙間から騰蛇が顔を出した。
明さんは騰蛇の安否を確認できて安心したような表情を浮かべる。
「あれで無事とか本当にしぶといね。」
そうあざけるような声が天井から降ってきた。
声をする方を見ると、大きな穴が空いた天井に、あの黒い狼に跨った蘆屋がいた。
「それはお互い様だろ。いつの間にそんな所に逃げやがって…。」
「そんなの逃げるに決まってるだろ…あれ…?そこにいるお姉さん…。」
そう言って私を見定めるような視線を送る蘆屋。
「…。」
「あ〜…。ハイハイ…。そう言う事ね…。ずいぶん面白いのを連れてるじゃん。相変わらずシスコン拗らせてるね〜 」
シスコン…?何のことだ?
「蘆屋…!!テメェ!!余計なことを…!!」
再度掴み掛かりそうな形相で蘆屋を睨みつける久我さん。
すると、遠くの方から何かのサイレンの音が聞こえてくる。
「やべ、暴れすぎたか…二人とも、いったんずらかるぞ!」
「なら、僕もこの辺で失礼させて貰うよ…お姉さん…また会おうね〜。」
そう言って、月明かりに照らされた夜空に狼に乗って、蘆屋は去って行った。
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