14話生霊の章其の参
私と久我さんは例の本を持って、香善寺を後にした。
時刻は夕方六時過ぎ。
朝から歩きっぱなしで電車の座席で草臥れてる私を見て久我さんから。
「今日一日、ありがとう。」
「え?あぁ。仕事ですから。」
突然、お礼を言われて少し驚いたが、今後もこんな感じの依頼が来るのだろうと思うと、少し体力をつけたほうが良いんじゃないかと少し思ってしまった。
「今晩君がその本を読むという事だが、大丈夫か?」
「多分大丈夫でしょう。一回読んだだけじゃ何にも起こらないようですし、それに、楪さんたちの話だと特に害は無さそうなんで!」
被害者の話だとみんな一概に「変な夢を見た」としか言わなかったとの事。
仮に私がこの本を読んで、その変な夢を見ても特に害はないだろう。
「念の為だ。この護符を持っとけ。」
そう言って、久我さんは荷物の中から護符を取り出し、渡してきた。
「…ありがとうございます。」
久我さんってこう言うところが真面目だよな。
私は久我さんから護符を貰い、帰路についた。
家に着き、玄関を開けると何やらリビングの方が騒がしかった。
リビングの方を覗くと、父、母、そして数年前に実家を出た兄が食卓を囲んでたのだ。
「あら、満月いたの?ほら、お兄ちゃん、帰ってきたんだから、お酌しなさいよ。」
私の存在に気づいた母。現在の時刻は夜七時。
その時間まで私の所在を把握してないことが今の一言でわかった。
「…。」
「…。」
母に言われるがままお酌をする私だが、お酌される兄も何の表情も出さずに、なんの言葉も発さずにいた。
「自分の分のご飯は自分でよそいなさいよ?」
父と兄と一緒になって食事につく母。
食卓に並ぶメニューは兄の好きな肉料理ばかりだった。
テーブルは四人がけのテーブルだが、私の席には何にも置かれていない。
むしろ、調味料や小皿の置き場にされてる。
「私、食欲ないからいらない。」
「何だ?満月、ダイエットか?」
酒を飲んで赤い顔になった父がそう聞いてきた。
「あらそう?そんなこと言ってどうせ後でお菓子でも食べるんでしょ?そんなんだからいつまでも痩せなのよ。」
続け様に母が言った。
「(言う程、今の私、太ってるのかな…?)」
そう思いながら私は自室に戻った。
母のあのセリフは幼少期の頃、過食して太った私のことを思い出して言ってるのだろう。
でも今は、中学の部活のお陰で人並みの体型になれたと思っている。
鏡に映る自分の容姿を見てぼんやりと思った。
部屋着に着替えた私は早速、ベットに転がりながら例の本を読んだ。
内容は、男子高校生二人がそれぞれの夢のために切磋琢磨し、成長する物語だ。
二人の高校生の青春の物語、文章の所々に眩しさやら、懐かしさを感じられる言葉回しだった。
主人公の二人と丁度同世代の私にも、共感できる感情が多々あった。
「普通に良い本だな…。」
そう思い読み進めていたが、今日一日の疲労感には勝てずに私は寝てしまった。
気付くと私は学校にいた。
厳密に言えば私の通ってる学校じゃない学校。
周りには生徒の数分の机と椅子。正面には黒板。両サイドは窓ガラスになっており、片側は廊下。もう片側はグラウンドが見えるようになっていた。
私はその教室内の席に座っていた。
辺りを見まわしてると、窓から見える外の景色は燦々と太陽の光が降り注いで、木々が青く生い茂っていた。
外の様子が気になり、立ち上がると一つの事に気がついた。
いつもより、視界が高い。そう思い足元に視線をやると、上は白い半袖のワイシャツに、下は黒のスラックスだった。
まるで、今の自分は男子生徒になったような状態だった。
ここまで来れば今この広がってる世界は夢であり、今このタイミングで見る夢ならほぼ間違いなくあの本の影響だろう。
そう思い、私は周囲を調べようとするが、体が動かない。
「なぁ。」
唐突に声をかけられた。
振り向くとそこには今の私より少し背の低い、短髪の男子生徒が立っていた。
気付くと辺りは夕方になっており、教室の窓の外から外部活の生徒の掛け声が聞こえる。
「何で…。」
「?」
「何で俺を置いていったんだよ!」
そう言う男子生徒はゆっくりジリジリをこっちに歩みを進める。
夕方の薄暗さで隠れていた男子生徒の顔は涙を流して、こちらを恨めしそうに睨んでいた。
そんな男子生徒を見て逃げたい気持ちがあるはずなのにこの体は言うことを聞いてくれない。
「(動かない…!!声も出ない…!!)」
その状況下だけで私は軽いパニックを起こしていた。
そうこうしているうちに男子生徒は目の前まで来ていた。
そして、呆然と立ち尽くす事しかできないこの身体。
「許さない。」
そう言った瞬間、目の前の男子生徒はこの体の首を両手で締めてきたのだ…。
「(く、苦しい…!)」
夢のはず、ましてやこの体は別の人のはずなのに、首を絞められた事によって、息苦しさが伝わる。
「許さない…許さない…許さない…!!!!」
そう少年が呟く言葉はまるで呪いのようだった。
「(息が…誰か…助け…)」
そう願った瞬間、首を絞めていた男子生徒の手に火がつき、燃え出した。
「うわぁぁぁぁ!!!何だ!!?」
火に驚いた男子生徒は掴んでいた首から手を離し、手についた火を懸命に消そうとした。
絞めていた手から解放された体は、力が抜け、床に倒れ込んでしまった。
そしてそのまま意識が遠のいた。
夢の中で意識が遠のくのと比例して、夢から覚める感覚があった。
「っは…!はぁ……。やっぱり夢か。」
夢から覚めた私の体は脂汗でベタベタしていて気持ち悪かったし、心臓が嫌な音を立ててるのが分かる。
しばらく時間をおいて、落ち着いてから久我さんに連絡をした。
その際に見たスマホの時計はまだ夜九時を指していた。
「もう少し長く寝ていたと思ったのに。」
そう思いつつ、メッセージアプリを開き、久我さんに通話を繋げた。
『…もしもし。久我です。』
「もしもし。雪平です。…久我さん。」
『その様子だと見たんだな…?』
私からの電話、と言うこともあり、察してくれた。
「はい。でも……。」
『?でも?』
「なんか変な夢としか覚えてないんです……。」
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