13話生霊の章其の弐
「ほう。詳しく聞かせてください。」
久我さんが興味津々の様子で詳細を聞く。
「なんでも、その作家さんの書いた小説を読んだ人が夢の中でその小説の世界に行っちゃうんだって!」
「そんなの、それだけ精巧に書かれた文章に感化されて、夢の中でも見るくらいに印象強い小説なんでしょう…?」
先ほどの興味の熱がどこかに消え失せたかのように、お茶を啜りながら冷静に解説する。
「それが、一作品だけならそう言えるんだが、その作家さんの書いた小説全てなら、話は変わってこないか?」
精願さんがさらに深刻そうに続ける。
「小説全て?ジャンル問わずですか?」
「そーなの!あ、ちなみに作家さんの名前は本条聡太さん。ペンネームと本名は一緒よ!」
楪さんに教えてもらって私はスマホで検索した。
「出ました!本条聡太さん。結構売れっ子の作家さんみたいですね。」
ジャンルは時代劇物や恋愛物、推理小説物など、ジャンル問わず幅広く創作しているようだ。
「でも、この方の小説読んで異変があった、なんて記事は特には見当たりませんね。」
「今はね…。出版社の方も色々手を回しているようだし、それに…読んだ人全員が全員という訳じゃなさそうだ。」
そういうと精願さんは難しい顔し言った。
「実は、うちの寺に本人直々に相談に来た時に、本、渡されて読んだんだけど…普通に面白い青春モノの話で、全然なんともなかったんだよね〜。」
ケタケタと笑いながら楪さんは言った。
「楪さん、あんた、本読むこと出来たのか。」
「たまちゃん、まぢ失礼よ!うちだって本ぐらい読むよ!…最初二十ページくらいは!」
「全然読んで無いじゃないですか…。」
呆れたように目頭を抑える久我さんと、てへぺろ!と言って誤魔化す楪さん。
「あの…私もその本読んでも良いですか…?」
特別な霊力持ってる私が読んだら何か起こるかもしれない。そう思った。
「いーよ!うちもショーたんも読んでも何にもなかったから、どっちにしろたまちゃん達に見てもらおうかと思ってたの。」
ちょっと待っててね〜と言って本を取りに行く楪さん。
「依頼主の本条さん、相当参ってて、こういう現象がある限り、新刊を出すのが怖いと怯えているんだ。」
眉を八の字にして依頼主を憐れむ精願さん。
「ちなみにですけど、精願さんは全ページ読みましたか?」
「一応ね。ゆうちゃんみたいな力がある人と、私みたいな一般人で差が出るかどうか試してみたんだ。でも、読んだその日の夜は特別変わりなく寝てしまったんだけどね。」
楪さん、精願さんの話を聞いて隣で考え込む久我さん。
「何か思う節があるんですか?」
「あぁ。今の所はなんとも言えないが、その作家の本を読み切っても、切らなくても、怪奇現象は起こらない。…となると、まだ何かが足りないのか…。」
「呪術的路線かなって思って、あきオジとたまちゃんにお願いしたいの。」
そう言って本片手に戻ってきた楪さん。
「はい。これが例の本。」
そう言って私に手渡してきたのはハードカバーの本だった。タイトルは『忘れられない青』。二人の言う通り、青春系の話のようだ。
「うちって、霊的感度がバリ高いけど、呪術となるとからっきしなんだよね〜。」
「何か違うんですか?」
「全然違うよ〜。うちは霊的感度を使って、浮遊霊とか地縛霊とかそう言うのを供養するのは超得意なんだけど、呪術となるともはや謎謎?クイズ?パズル?とかそういう系になってくるのよ〜。」
「わかりやすく言うと、楪さんは交番の警察で、俺が事件とか調査、解決する刑事だ。」
「警察…?刑事…?」
二人の説明に今だ脳みそが追いついてない。
「つまり、霊が迷子だとすると交番の警察が親に連絡とかするだろ?あれを供養だとする。
しかし、何か事件があった際。きっかけは何でもいい。本格的な現場や関係者への調査は、刑事やら科捜研やら専門的な人を交えて解決がするだろ?呪術も『誰が、いつ、どこで、何のために、どのようにして』を本格的に調べないと解除できないんだよ。」
「なるほど…?」
つまり、呪術、呪いとなると掛けた人はもちろんその呪いのことも調べないとダメってことか…。
「楪さんは完全にフィーリングで動いてる人だから、こう言うのに弱いんだ。」
「天才肌ってことで!」
なるほど。
霊能力者のにも色々種類があるのか。
そう思うと色々腑に落ちた。
エツさんの調査も守屋さんに実際に話を聞きに行くなど、どこか原始的というか、地道だなっと思っていた。
私の力でエツさんが見えた時点で、祓うことも可能だったのにそうはしなかった。
ちゃんと根本的な問題解決をしないとあの二人の繋がりを断つことが出来ないし、エツさんを供養することが出来なかったのか。
「久我さんって…。」
「ん?」
「真面目ですね。」
「なんだいきなり。」
私の一言に眉を顰める久我さん。
「そうなの〜!たまちゃんって、昔からこう、クールな子に見えるけど、結構情に熱い男なの〜!ギャップ萌えじゃな!?」
そう意気揚々と久我さんをプレゼンしながらわしゃわしゃ頭を撫でる楪さん。
この二人を見てるとまるで姉弟のように見える。
「鬱陶しいです。」
自分の頭を撫でくりまわす楪さんの手をペシッとはたき落とす姿も何だか微笑ましく見える。
「てなわけで、どーよ、みっちゃん。たまちゃん、イケメンだし頭もいい、おまけに真面目ちゃん!こんな優良物件ないよ〜!」
「どうって言われましても…。」
「……。」
今の自分の状況、状態を解決してくれる人であって、恋愛的感情は…あ!
「久我さん…。私大事なこと聞き忘れてました。」
「何だい…。」
「久我さん、私のこの神嫁としての状態を解決してくれるんですよね…?」
「…そうだが…?」
「費用っていくらかかりますか…??」
「は?」
その瞬間、一緒に聞いてた楪さんたちが爆笑し始めた。
「はははははははははは!!!!!〜っヒィ〜お腹痛い〜!!今それ聞いちゃう!!??みっちゃんやるな〜!超ウケる!!」
お腹を抱えて笑い出す楪さんと、顔を背けてプルプルと笑いを堪える精願さん。
「え?え?何か変なこと言いましたか?」
だって、こういうお祓いとかにかかる費用って相当高いはず…。確認しておきたいのは当然なのでは…?
首を傾げる私に久我さんが言った。
「…君の件は君が相談所で働くことで一応チャラにしてる。」
「というと?」
「今時珍しい終身雇用だ。おめでとう。」
あ、これ、本当の意味の「終身」雇用ですね。
私はこの時からめでたく高校卒業後の進路が確定したのであった。
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