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1話 出会い

初めまして。樹 梨紅です。

この度は『久我相談所へようこそ』を手に取って下さりありがとうございます。

この小説は人の想いについて私なりに書き表した小説となっております。楽しんで下されば幸いです。

某月某所。

赤井涼子(あかいりょうこ)は一日の仕事を終え、アパートの一室にてその日の疲れを癒すために休養していた。

二年前に現在のアパートに越してきた。



田舎ではあるが周辺には飲食店やドラックストア、病院、駅などが近くにあり、部屋数も女が一人暮らししていくには不自由ない広さと間取り、何より家賃も破格の値段で内覧の際に即決したのを覚えてる。



 強いて言うなら築年数が自分と同じくらいなのが気がかりだが、そんなのは気にならない程綺麗に保たれているので不自由なく新居での生活を満喫している。

 「本日夕方…。」

 風呂上がり、下着姿で部屋をうろつき、ソファーに腰掛け、発泡酒を開け口をつけ喉越しを堪能する。BGM替わりにテレビをつけ夜のニュースを見る。一人の部屋の静けさはあまりにも耳が痛くなってしまう。




 今日の注目のニュースと言えば、夕方から激しくなっている雷雨についてだ。都心部では停電やあまりにも激しい雨により、帰宅難民と化してる学生やサラリーマンを映し出していた。私はその様子を見ながら発泡酒を口にして、外の音に耳を澄ます。



 都心から近くも遠くもないこの土地も激しい雷雨に晒されてることがよくわかる。

 その瞬間、稲妻がひかり間もなく轟音が響き渡る。一瞬驚いて手に持っていた発泡酒を落としそうになる。

 「思いの外近いなぁ…。」

 ぼんやりとそんな事考えていると急に当たりが暗くなったのだ。先ほどの雷の影響で停電したのだろう。近くに置いてあったであるスマートフォンで当たりを照らす。二十代後半にもなれば夜の暗闇などは恐れるものにはならない。



 しかし。それは急にやってくる。


 涼子が辺りを照らした際にベランダに続く窓辺を照らした。

この部屋には自分しかいない筈だ。誰かいるなんて事はあってはならない。そんな状況があるとするなら留守を狙った空き巣などといった現実的なものだ。


 しかし、涼子の脳内からそんな現実は否応なく【ソレ】が塗りつぶしてしまう。

 人の足が見えたのだ。最初はスマートフォンの灯りによってそれしか見えなかった。それだけでも涼子を驚かすには十分だった。

「ヒィッ!」


驚いた拍子に思わず灯りとして手に持っていたスマートフォンを落としてしまう。その瞬間再び稲光がひかり、雷鳴が轟く。



 涼子は見逃さなかった。微かにカーテンとカーテンの間がわずかに開いていた。その隙間から先程の稲光が入るのと同時に、人影も見えたのだ。

 おそらく成人女性。セミロングの髪に膝丈のワンピース。表情は部屋が暗いのと俯いていたせいで見えない。しかし見えずともその女性に生気が宿ってないのは分かった。



 その存在を目の当たりにした涼子は恐れのあまり、喉から搾り出すような吐息しか出て来ず、身動きも取れなかった。

涼子の目の当たりにしたソレはふっと涼子の方に顔を向けた。

生気のない肌色と虚な目。それらと一緒に見えたのは微かに動く口元。

 涼子の意識はそこで静かに途絶えた。







 人生という物語の主人公は自分。みたいな言葉があるけど、私、雪平満月(ゆきひらみつき)の十七歳。現在高校二年生。この春で高校三年生。私のこれまでの人生は陰鬱とした物語だと思う。だって私には呪いがかけられているのだから。

 

「……。」

 三月半ばのオープンテラスの席。入店時に買った温くなったカフェオレに心地よい日差しとまだどこか肌寒いそよ風が私の頬を撫でるのが心地良い。


 駅前の大通りに面したテラス席から街を行き交う人達を私はどこか羨ましく思いながら見つめる。もうすぐ人生の新たなステージを迎えるにあたり街全体が浮き足立ってるのが伝わってくる。今日は日曜日。街を行き交う人々が最も多い日。年頃の女がこんな所で一人で無意味に過ごしてると思われそうだが、実際そうだ。家にいてもロクなことがないからなけなしのお小遣いを叩いてこんなところにいるのだ。



 何かで見聞きした事ある。人間暇を持て余してると嫌なことを思い出したり、ロクなことしか考えられなくなるとか。現在の私もそうだ。来月から高校三年生になる。

高校三年生といえば大学受験や就職活動が待ち受けている。私は親の強い意向で就職と決めているが、これと言ってやりたい仕事なんてものはない。

今いる高校も他の高校より就職に強いという理由から親に言われるがままに入った学校でしかない。高校後の進路を考えると、これからの人生で私はちゃんとこの人生で意味を見出せるのか。灰色の人生に少しは私らしい色をつけられるのか。そんな答えが出ない問いを己の中に延々と繰り返して、胸の中で暴れ出しそうになるのを抑え込むよように温くなったカフェオレを一気に飲み干した。



同じ場所で長時間ぼぅとするするのもお店側に悪いと思い、そろそろ他の場所に移動しようと立ち上がった時、後ろに下がった椅子がガタッと何かに堰き止められた感覚があった。外のテラス席だ。歩道の邪魔にならないようにやや詰められたような配置の席となっており、恐らく後ろの席の人にぶつかったのであろう。瞬時にそう思い振り返って謝罪を入れる。



「す、すみません!」

「いえ。こちらこそ。」

振り返った先にいたのは私より少し年上であろう青年だ。私と同じタイミングで立ち上がったせいで椅子同士がぶつかったのだ。


人の印象を表現する言葉の中に線が細いって言葉が使われる事があるが、私の周りにはそんな言葉に該当するような男性がいなかったのでいまいちピンと来なかった。しかし、今目の前の男性にはその言葉がピッタリだ。感情の抑揚がない、凪いだ涼しげな目が印象的な年上のお兄さんだった。

私はぶつかったお兄さんに呆気に取られていると「おい」と声をかけられはっとする。目の前のお兄さんが眉間に皺を寄せているのに気付く。それもそうだ。見ず知らずの女がぶつかった上にまじまじと自分の顔を見ているのだ。不快に思う人の方が多いだろう。


「すみません。すぐ退きます。」

申し訳なくなった私はすぐさまその場を去ろうとするが、左手首を掴まれる感覚があった。その感覚の元を見るとお兄さんが私の手首を掴んでいた。その表情は依然険しいものだった。


「あの…。何か…?」

十七年間生きてきて、初対面の男性に手首をつ掴まれるなんて経験は皆無だ。私の脳裏に「ナンパ?いや変質者?周りの人に助けを求めるべき?」などと逡巡する。


「君…。いや。すまない。」

表情の険しかったお兄さんは、すっとあの抑揚のないような目つきに戻り、私の手首から手を離した。そして、自分のはバックを肩にかけ、その場を去ってしまった。


私はその光景に呆気に取られてしまった。

「え?何?こわ。」

やっぱり変質者だと言って周りに助けを求めるべきだと思った。

ため息をつきながらふと、お兄さんのいた席に視線を向けると、恐らくお兄さんが食事していたであろう形跡があった。きっとすぐさまその場を立ち去りたい気持ちがあったのだろう。だって、見ず知らずの女の子の手首を掴むのは向こうからしてみても気まずいことこの上ないのだろうから。しかし、幸いなことにその残骸を目の前に茫然と立ち尽くしていた私を見た喫茶店の店員が「お下げしますのでそのまま置いといてください。」と柔らかに声をかけてくれた。その声に私は軽く会釈して応えた。流石に見ず知らずの男性の食べ終えた食器類を下げる程私も心は広くはない。先ほどの出来事はなかったとこにして私もその場を離れようとした。すると、足元で何か踏んだ感触があった。視線を向けるとそこにはA四サイズの封筒が落ちていた。拾い上げると中身が入ってるような感触があり、ひっくり返すと表の隅ににはこう書いてあった。「久我相談所」。



恐らくあのお兄さんが落としたものだと直感的に思った。普通なら店に預けておくだろうが、何故かそのままあのお兄さんを追いかけないといけないと思ってしまった。


 あのお兄さんがこの店を出てから時間は経っていない。もしかしたら追いつくかもしれないし、追いつかなかったらこの店や交番など適切な場所に届ければいい。そう思い私は、封筒を抱えお兄さんの後を追った。



 

結論だけ言うと。お兄さんは見つからなかった。それもそうだ手がかりがお兄さんの立ち去っていった方向のみなのだから見つからないに決まってる。



周りを見るとどうやら先程いた大通りから外れてしまったようだ。

大通りにあった商業施設の裏口や室外機、飲食店換気口からの不愉快な温風が肌に当たる。それらから少し離れると骨董品屋や、昼間でまだ開業してないカラオケバーといった、私の年の人間が到底近寄らないであろう場所に辿り着いてしまった。



そんな場所まで来てしまった私は諦めて交番か先ほどのお店に届けようと思ったが、改めて拾った封筒を見る。


その時、私は思いついた。この封筒に書かれてる「久我相談所」って場所をスマートフォンで調べたら場所が分かるのでは?なんなら下にさらに小さく番号も書いてあるんだから連絡すれば良いのでは?と思った。

そもそもこれがあのお兄さんのものだと言う確証はない訳だし、だったら、この封筒に書かれている場所に連絡するが一番て手っ取り早い。そう思い、スマートフォンに番号を打ち込むが一瞬手が止まる。

もしも、この連絡先が自分が関わるには危険すぎる存在だったら?と言う考えが頭によぎる。そう思うと番号押す指が止まってしまう。

一度、ネットでどんな場所なのかを調べても遅くないと思い、その場でネットにて検索をかけてみる。



検索結果は久我相談所なる場所はちゃんと存在した。サイトもあった。


サイトに飛んでみるとクリーム色の背景に黒字で大きく久我相談所と書かれたホーム画面が出てきた。法律事務所かな?と思った。

しかし、どこかが変だったのだ。サイトのどこにも法律事務所などの記載がなかった。ましてや具体的になんの相談をする場所なのかの記載がなかったのだ。あまりにもシンプルを通り越した不思議で怪しいサイトだった。端にはメニュー欄があり、メニューには料金と予約メールとアクセスしかなかった。しかも料金のページには「内容により変動あり」と書かれており、「三千円〜」としか書かれてなかった。


「うっわ。怪しすぎる…。」


思わず心の声が漏れてしまった。

それでもちちゃんと事務所はあるようだったので場所を調べてポストなり、入り口なりに追いて置けばいいや。

私はアクセスのページに飛び、場所を確認しで愕然とした。


今、現在私がいる場所のすぐ近くというか、すぐ横の古めかしく、コンクリートで出来た外壁には蔦植物が根を張っているような雑居ビルがあった。そのビルの一角にその事務所があったのだ。

恐る恐るその雑居ビルの入り口に近づく。


すると、中のエントランスがあり、そこには案内板があった。上に「すめらぎビル テナント一覧」と書かれてあり、各階にあるテナント入ってる店舗の案内が書かれていた。

ビルは五階建てであり、その五階に「久我相談所」の文字があった。

 早速その久我相談所に向かおうとするが、この雑居ビルにはエレベーターがなく、階段で上階に行くようだ。少し、いや、大分面倒だと思ってしまったがここまで来たのだから先程飲んだカフェオレ分のカロリー消費だと思って私は階段を上る。


 階段を上ると、外観とは裏腹に内装は古めかしながらも綺麗に保てれていた。先ほどのエントランスの案内板にもいくつかの店舗が入ってるのを思い出す。意外と管理は行き届いているようだった。


 五階にある相談所には思いの外早くついた。


五階には二つの扉が左右に分かれてあった。

一つはよくあるスモークガラスが上半分に嵌め込まれたスチールか何かで出来た扉。スモークガラス部分に「久我相談所」と書かれていた。は反対側の扉も同じ作りだがスモークガラスの先は暗く、張り紙で「関係者以外立ち入り禁止」と書かれていた。


 私は目的地の相談所までたどり着いたので当初の目的の拾い物を扉の前に置こうとした瞬間、その扉が勢いよく開け放たれた。その時、扉に私額が勢いよくぶつかってしまった。


 「あだっ!」


 あまりの痛みに額を押さえてその場で蹲る。

我ながらもう少し女子らしい声をあげれないものかと思ったが、この時の女子らしい声とは逆に何なんだと自分に突っ込んでしまった。


 「んあ?…あ、君は…。」


 呑気な声と共に聞いたことのある声が聞こえた。つい先程聞いた声だ。

 額の痛みを堪えながら声の主を確認するとやはり、喫茶店で会ったお兄さんだった。


 「どうしてこんなところに?」


 先に扉をぶつけた事について謝れよ。と思いつつ持ってきた封筒を差し出した。

「この封筒。お兄さんのでしょ?さっきのカフェで落としていきましたよ。」

そういうと、お兄さんの涼しげな目が少し見開いた。

「わざわざ届けに来てくれたのか?」

と言うので私は頷いて答える。


「…っはは。これは丁度いいや。お礼を言うよ。中に入って。まぁ、今来客が来てるが気にしないで。」

そう何か含みのある様な笑いと物言いをしてお兄さんは親指で後ろを指すようなジェスチャーをする。


 私は警戒心剥き出しにしながら中を少し覗く。

 中は内装は床も壁もコンクリ剥き出しの内装で、玄関入ってすぐに室内の全体が分かりそうだが、目の前にいるお兄さんでそれが叶わない。お客さんの姿も確認できなかった。


「おい。客が待ってるんだから早くしろ。それに警戒せずとも君みたいな子どもなんかに手ェ出さねーよ。」

 「なっ…!!わかりましたよ!!」



 自分の目の前でウロウロとする私に苛立ったのか、お兄さんは煽って催促をする。私はその喧嘩を売られたような発言にカチンと来てしまい。、まんまとお兄さんの口車にのって相談所の中にお邪魔させていただく事になった。



 

1話を読んでいただきありがとうございます。

まだまだ雪平&久我の話は続きますのでよろしくお願いいたします。


もしよろしければいいね、コメントもよろしくお願いいたします。

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