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転生曾孫とAI華族の未来革命  作者: かねぴー
ある世界線のバッドエンドルート
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プロローグ2 改変された記憶と運命

<γ世界線:2023年9月1日 上野公園>

 瞼が重い。開けようとする。光が網膜に突き刺さる。眩しい。反射的に目を閉じる。でも、瞼の裏で何かが爆発した。ドーン、という音。いや、音じゃない。記憶だ。焼け焦げた空の記憶。『大鷲』のコックピットが炎に包まれる記憶。誘導弾が機体を貫く瞬間の、あの衝撃。金属が裂ける音。ガラスが砕ける音。全部が頭の中で再生される。もう一度目を開ける。今度はゆっくりと。木漏れ日が頬を撫でている。暖かい。優しい光。2024年のクリミア上空で、俺は確かに死んだはずなのに——

 手のひらに硬い感触。ざらざらとした木の表面。ベンチだ。公園のベンチに座ってる。腕を持ち上げる。重い。まるで水の中で動かしてるみたいに。腕時計を見る。デジタル表示が光ってる。2023年9月1日、14時32分。数字を見つめる。瞬きする。変わらない。もう一度。やっぱり2023年9月1日。

「今日は……俺の命日」

 呟いた声が掠れてる。喉がカラカラだ。唾を飲み込もうとする。出ない。舌が上顎に張り付く。前世で、俺は今日死んだ。電車に飛び込もうとした少女を助けて。ホームから落ちて、列車に——そして今、同じ日付に目覚めている。偶然? いや、これは——

 シャツの袖を掴む。指が震えてる。白い袖。綺麗な白。煤も血も、何もついてない。ただ汗で湿ってるだけ。生きてる人間の汗。でも、鼻の奥には硝煙の匂いが残ってる。幻臭だと分かってる。でも消えない。指先の震えが止まらない。両手を組む。ギュッと力を込める。震えが腕を伝って肩まで広がる。全身が小刻みに震え始める。

***

「義之君?」

 声が背後から。振り返る。心臓が大きく跳ねた。ドクンと。美樹さんだ。一条院美樹。24歳、中尉。陽光が彼女の髪を透かして、金色に光ってる。柔らかそうな髪が風でふわりと揺れる。笑顔。でも、眉が少し寄ってる。心配してる顔。この世界線では初等科から知り合いで、16歳の時から婚約している俺の許嫁。でもβ世界線では高等部で初めて出会った。二つの記憶が頭の中でぶつかる。ズキズキと痛む。

「どうしたの? 顔色悪いよ」

 彼女が近づいてくる。足音が聞こえる。カツ、カツと。

「美樹さん……今日は何日だ?」

「9月1日だけど」

「9月1日……」

 繰り返す。言葉が口の中で転がる。頭の中で何かが軋んだ。ギリギリと嫌な音。

『助けて!』

 突然、声が響く。あの戦場で聞いた声。金属的な響きを帯びた、少女の叫び。脳髄に直接響いてくる。耳を塞ぎたくなる。でも、声は頭の中から聞こえてる。

「ねえ、本当に大丈夫?」

 美樹さんの手が俺の肩に触れる。温かい。その温もりが現実に引き戻してくれる。

「……ああ」

 答える。でも、違う。全然大丈夫じゃない。俺の中で二つの記憶が激しく衝突している。β世界線の2024年。クリミアで死んだ記憶。炎と煙と、仲間の叫び。この世界線の2023年。生きている現実。平和な公園と、美樹さんの笑顔。そして前世の2023年9月1日。少女を助けて死んだ、最初の死。列車のヘッドライトが迫ってくる、あの瞬間。

***

「軍の方から連絡よ」

 美樹さんがポケットからスマホを取り出す。画面を俺に向ける。

『第6世代航空機「旭光」正式採用決定』

「旭光……」

 呟く。舌の上で名前が重い。

「君が設計に関わった機体でしょ? すごいよね」

「本当に頑張ってたもの」

「徹夜何日続けたっけ?」

「……覚えてない」

「嘘。ちゃんと数えてたくせに」

 画面に映る機体。流線型のフォルム。表面に走るデータリンクの光が青白く輝いてる。まるで血管みたいに。未来からの手紙みたいに見える。心臓が早鐘を打つ。ドクドクと。血が逆流するような感覚。旭光——「大鷲」から進化した機体。AIナビゲーションが強化されて、UCAVとの共同戦闘を前提とした設計。データリンク機能が充実してる。β世界線では未完成だったUCAVが、この世界線では完成している。

「誰かが俺の設計を完成させたのか?」

 独り言みたいに呟く。

「何言ってるの? 君が完成させたんでしょ」

 美樹さんが不思議そうに首をかしげる。

「私、差し入れ何回持って行ったと思ってるの?」

「……ありがとう」

「今更?」

 ……そうだ。この世界線では、俺自身が完成させた。記憶が蘇る。図面を引く手。計算式を書き殴るペン。シミュレーションの結果を見つめる目。美樹さんが差し入れを持ってきてくれた夜。コーヒーとサンドイッチ。温かいスープ。でも、まだ足りない。何かが足りない。2024年のクリミアで起こる悲劇を防ぐには——

***

「義之君、本当に変だよ」

 美樹さんが俺の額に手を当てる。冷たい手。気持ちいい。

「熱はないみたいだけど」

「美樹さん、君は前に助けられた記憶があるか?」

 突然の質問。美樹さんが手を止める。

「え?」

「駅のホームで、誰かに」

 言った瞬間、美樹さんの顔から血の気が引いた。サーッと。まるで幽霊を見たみたいに。唇が震える。

「どうして、それを……」

 声が震えてる。

「やっぱり覚えてるんだ」

「夢だと思ってた」

 美樹さんが俯く。髪が顔を隠す。

「すごく怖い夢。線路に落ちそうになって、誰かが——」

「それは夢じゃない」

 俺は立ち上がる。膝がガクガクする。力が入らない。ベンチの肘掛けを掴んで、なんとか立つ。足がふらついた。地面が揺れてる感覚。いや、俺が揺れてるんだ。

「君を助けたのは、俺だ」

「義之君が?」

 美樹さんが顔を上げる。瞳が大きく見開かれてる。

「でも、それって——」

「前世で。そして俺は死んだ」

 言葉が口から零れる。止められない。

「列車に轢かれて、死んだ」

「何を言って——」

「今日、9月1日。俺はまた死ぬ」

 美樹さんが俺の腕を掴む。強く。爪が食い込むくらい強く。

「死ぬって、何?」

「前世に戻る」

「意味が分からない」

「俺の精神を、過去に送るんだ」

***

※MONO

 俺は理解している。

 この世界線も、完璧じゃない。

 2024年のクリミアで、また悲劇が起きる。

 「旭光」があっても、UCAVがあっても。

 防げない何かが、必ず起きる。

 なぜ分かる?

 分からない。でも、確信がある。

 腹の底から湧き上がる、絶対的な確信。

 だから俺は、もう一度戻らなければならない。

 前世の2023年9月1日へ。

 あの駅のホームへ。

 少女を助けて、また死ぬ。

 そして転生する。

 今度こそ、完璧な世界線へ。

 誰も死なない未来へ。

 美樹さんを残していくのは辛い。

 胸が張り裂けそうなくらい辛い。

 でも、これが唯一の方法だ。

 俺の精神を過去に送り、歴史を書き換える。

 それが、俺に与えられた使命。

 誰に与えられた?

 分からない。

 でも、やらなければならない。

***

「前世に戻るって、どういうこと?」

 美樹さんの声が震えてる。怯えてる。当然だ。俺の言ってることは狂ってる。

「俺の精神を、過去の俺に送る」

「できるわけない」

「できる」

 断言する。根拠はない。でも——

「……たぶん」

 声が小さくなる。いや、やらなければならない。できるかどうかじゃない。やるんだ。

「なぜ?」

「このままじゃ、2024年に悲劇が起きる」

「どんな?」

「クリミアで戦争が起きる」

 言葉を選ぶ。でも、選びようがない。

「仲間が死ぬ。北園も、佐世保の連中も。そして俺も死ぬ」

 美樹さんの手が震えた。俺の腕を掴む手が、小刻みに震えてる。

「でも、『旭光』があるんでしょ?」

「足りない」

 首を振る。

「もっと早く、もっと完璧に準備しなければ」

「だからって、死ぬなんて——」

「死ぬんじゃない」

 彼女の頬に手を当てる。柔らかい。温かい。涙で濡れてる。いつの間に泣いてたんだ。親指で涙を拭う。新しい涙がすぐに溢れる。

「転生するんだ」

「同じことでしょ!」

「違う。また君に会える。別の世界線で」

「私はこの世界線の君がいい!」

「俺もそうだ」

「じゃあ——」

「でも、このままじゃ君も死ぬ」

 美樹さんが息を呑む。

「私も?」

「2024年、クリミアで」

***

「嫌!」

 美樹さんが叫ぶ。声が公園に響く。鳥が飛び立つ音がする。バサバサと。

「私を置いていかないで!」

「置いていくんじゃない」

 彼女を抱きしめる。細い体。震えてる。骨が折れそうなくらい細い。

「君を守るためだ」

「守るって、どうやって?」

「過去を変える。最初からやり直す」

 深呼吸する。肺に空気を取り込む。胸が膨らむ。そして、ゆっくりと吐き出す。

「前世で君を助けた時、俺は何かを間違えた」

「間違えた?」

「タイミングか、方法か」

 拳を握る。爪が掌に食い込む。痛い。血が滲むくらい強く。

「だから不完全な世界線になった」

「でも——」

「今度は完璧にする」

 断言する。自分に言い聞かせるように。

「でも、それじゃ私たちの8年間は?」

 美樹さんが俺を見上げる。涙で濡れた瞳。光を反射してキラキラしてる。

「初等科で出会って、図書館で一緒に勉強して」

「プールで泳いで」

「文化祭で劇をやって」

「君が主役だった」

「君が王子様役」

「下手だったな、俺」

「そんなことない」

 二人で思い出を辿る。一つ一つ、大切に。

「……全部消える」

 正直に答える。嘘はつけない。美樹さんの瞳から、また涙が溢れた。頬を伝って、顎から落ちる。俺のシャツに染みを作る。

「そんなの嫌!」

「でも、君は生きる」

「もっと幸せな世界で」

「今でも幸せよ!」

「本当に?」

「……」

 美樹さんが黙る。そうだ。彼女も感じてるはずだ。この世界の違和感を。完璧じゃない何かを。何かが欠けてる感覚を。

***

 公園のベンチに座り直す。脚が震えてて、立ってられない。美樹さんが隣に座る。ぴったりとくっついて。体温が伝わってくる。温かい。生きてる温度。

「本当に、行くの?」

 小さな声。消え入りそうな声。

「行かなければならない」

「私には止められない?」

「……ごめん」

 謝ることしかできない。風が吹く。桜の葉が舞い散る。もう秋なのに、なぜか桜の葉。おかしい。でも、この世界線では普通なのかもしれない。遠くで子供たちの声がする。笑い声。平和な光景。でも、俺には分かる。この平和は、仮初めのものだと。薄氷の上の平和。いつ割れてもおかしくない。

「ねえ」

「何?」

「向こうの世界でも、私と会って」

 美樹さんが俺の手を握る。両手で包むように。小さな手。でも、力強い。

「必ず」

「約束?」

「約束する」

「指切りして」

 子供みたいなことを言う。でも、俺は小指を出す。美樹さんの小指と絡める。細い小指。震えてる。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」

 二人で唱える。馬鹿みたいだ。でも、大事な儀式。魔法の言葉。

「指切った」

「切った」

「絶対よ」

「ああ、絶対だ」

 美樹さんが俺に抱きつく。強く。息ができないくらい強く。肋骨が軋む。

「愛してる」

 耳元で囁く。吐息が耳に当たる。くすぐったい。温かい吐息。

「俺も愛してる」

「どのくらい?」

「世界線を超えるくらい」

「もっと」

「時空を超えるくらい」

「もっと」

「……測れないくらい」

***

 目を閉じる。意識を集中させる。どうやって? 分からない。でも、やるしかない。前世の記憶を辿る。順番に。生まれて、育って、学校に通って。そして——2023年9月1日、午後2時15分。山手線、新宿駅。ホームの端。人でごった返すホーム。女子中学生が立ってる。紺色の制服。風で髪が揺れてる。顔は見えない。でも、分かる。あれが美樹さんだ。若い頃の美樹さん。まだ中学生の——

 その瞬間へ、俺の精神を送る。どうやって? 念じる。強く、強く。全身に力を込める。筋肉が震える。血管が浮き出る。頭に血が上る。ズキズキと脈打つ。こめかみがガンガンする。美樹さんの手が、俺の手を握る。ギュッと。痛いくらい強く。爪が食い込む。

「行かないで」

 小さな声。泣き声。でも、もう遅い。体の中で何かが動き始めた。熱い何かが、腹の底から湧き上がってくる。全身を巡る。血じゃない。もっと別の何か。魂? 精神? 分からない。でも、確実に動いてる。

 意識が薄れていく。視界がぼやける。美樹さんの顔が遠くなる。体が透けていくような感覚。軽くなっていく。いや、重くなってる。どっちだ? 分からない。浮いてる? 沈んでる? 両方? 深い、深い闇の中へ。でも同時に、眩しい光の中へ。矛盾してる。でも、それが真実。時空を超えて、精神が飛ぶ。引き裂かれるような痛み。全身がバラバラになりそう。でも、耐える。美樹さんのために。

 最後に見えたのは、美樹さんの涙。光る雫。ダイヤモンドみたいに。最後に聞こえたのは、彼女の声。

「必ず、見つけて」

 約束する。心の中で。声に出せない。もう声帯がない。でも、約束する。必ず見つける。必ず会う。何度転生しても。何度世界線を越えても。

 そして俺は——落下する。どこまでも、どこまでも。過去へ。前世へ。あの運命の瞬間へ。意識が千切れそうになる。でも、美樹さんとの約束だけは忘れない。絶対に。

***

※CLIMAX

 目を開ける。

 一瞬、何も見えない。

 真っ白。

 そして急に、色が爆発する。

 音が炸裂する。

 騒音。人の声。電車のブレーキ音。

 キィーッという金属音。

 アナウンス。

 「まもなく3番線に、内回り、山手線が参ります」

 

 ホーム。

 人、人、人。

 スーツ、制服、カジュアル。

 みんな急いでる。

 誰も気づかない。

 ホームの端で、一人の少女が——

 

 腕時計。

 2023年9月1日、午後2時14分。

 あと1分。

 いや、50秒。

 心臓が爆発しそう。

 ドクドクドクドク。

 全身から汗が噴き出す。

 シャツがびしょ濡れ。

 

 俺は23歳の身体。

 前世の俺。

 まだ軍人じゃない。

 まだ美樹さんと出会ってない。

 でも、記憶は全て持ってる。

 2024年のクリミア。

 β世界線の悲劇。

 γ世界線の不完全な平和。

 美樹さんの涙。

 約束。

 指切り。

 

 ホームの端を見る。

 人混みの向こう。

 制服姿の少女。

 紺色のセーラー服。

 後ろ姿。

 肩が震えてる。

 泣いてる。

 

 顔は見えない。

 でも分かる。

 あれが美樹さんだ。

 中学生の美樹さん。

 まだ13歳。

 これから飛び込もうとしている——

 

 30秒。

 

 走る。

 人を押しのける。

 「すみません!」

 肩がぶつかる。

 カバンが落ちる。

 舌打ちされる。

 怒鳴られる。

 構わない。

 

 20秒。

 

 少女が一歩前に出る。

 黄色い線を越える。

 もう一歩。

 線路が見える。

 

 10秒。

 

 電車が来る。

 ヘッドライトが見える。

 警笛が鳴る。

 ファーン!

 

 5秒。

 

 少女が身を乗り出す。

 重心が前に。

 落ちる——

 

 3秒。

 

 俺は飛ぶ。

 全身のバネを使って。

 手を伸ばす。

 

 2秒。

 

 届け——!

 

 1秒。

 

 掴んだ!

 

 0。

 今度こそ、完璧に助ける。タイミングを間違えない。方法を間違えない。そして、完璧な世界線を創る。君と共に生きる、本当の未来を。誰も死なない世界を。

 運命の歯車が、新たに回り始める。何度でも。君を救うまで。世界を救うまで。俺は、転生を繰り返す。

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本作品は以下の作品を改稿した物です。

「転生したら華族制度が続く日本だった。前世の知識でAI革命を起こし、軍事と社会を激変させます!」


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