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転生曾孫とAI華族の未来革命  作者: かねぴー
士官学校への道
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第9話 国防総省からの依頼と家族の思い

 AI開発が認められて2週間。7月上旬。蒸し暑い夕方。

 夏休み前の夕食。父が箸を置く。困った顔。

「義之、国防総省から突然厄介な話が来てな」

 胸の奥で、何かがざわついた。

「お前への依頼だ」

「国防総省から? 俺に?」

 15歳の俺に? 箸が、止まった。

 父が頷く。

「簡単に言うと、国防に関するAI開発だ」

 息を呑む。

「※1 構想フェーズの作成にお前の力を借りたいらしい」

 手が、微かに震えた。茶碗を持つ手。

 父の口調に迷いが混じる。

「上杉家にこんな要請は珍しい。よほどの期待があるんだろうが」

 喉が、カラカラになる。

「お前には財閥の責務もある」

 黙って茶を飲む。震えを悟られないように。

 胸の奥で、何かがドクドクと暴れた。

 国防総省からの直接依頼——栄誉? いや、重圧だ。

 父の目が俺を捉える。

「お前なら断ってもいいんだぞ」

 その言葉に——

 前世の設計図が、疼き始めた。

 ……断れる? 本当に?

 でも、美樹さんとの婚約。長期間離れる?

 胃が、きゅっと縮んだ。

 彼女に何て説明すれば——


***


 翌日。上杉家の応接室。

 国防総省の高官。

 佐々木少将。50代。威厳ある軍人。

 15歳の俺に——

 頭を下げた。丁寧に。

 違和感。喉が、カラカラ。

「上杉義之様にお会いでき、光栄です」

 声が重い。

「我々は貴殿のAIに関する卓越した知識に期待を寄せております」

 父が眉を寄せる。微かに。

「それは名誉なことだが」

 声に警戒。

「財閥の跡取りを軍務に巻き込むのは難しい」

 続ける。

「義之には別の道がある」

 佐々木少将が申し訳なさそうに——

「ご懸念は理解しております」

 でも——

「ただ、国防上の重要案件で、貴殿の実践的知識が不可欠です」

 息を吸う。深く。

「研究所ではなく」

 は?

「※2 士官学校での訓練と海軍操縦士としての部隊配属を条件にしたい」

 士官学校?

 操縦士?

 15歳の俺が?

 背筋に、冷たいものが走った。

 副官が一歩前へ。

「我々のAI開発は危機的状況です」

 声が低い。

「上杉様の介入がなければ、敵国の進化に追いつけません」

 佐々木が付け加える。

「アメリカからの圧力も強まっていてな」

 鋭い視線。焦りが滲む。

 震える声を抑える。なんとか。

「具体的には、どのような……」

 佐々木少将が説明を始める。

「敵国のAI進化に対抗するため、AIシステムの構想フェーズです」

 続く。

「アメリカとの共同利用圧力が高まり」

 息を吸う。

「細かな仕様に精通した人材が必要です」

 そして核心。

「上杉グループは国内最大のITメーカー」

 俺を見る。

「その技術力なしに、我が国のAI開発は成立しません」

 なるほど。それで俺か。

 上杉グループの後継者。AIを理解してる。

「我々に選択肢はない」

 声を低くする。

「貴殿の知識がなければ、この国は後れを取る」

 胸が、ぎゅっと締まった。

 脅し? いや、事実か。

 父が腕を組む。

「どうする、義之?」

 俺を見る。

「お前が決めるが、簡単な話じゃない」

 母が口を挟む。心配そうに。

「義之には自由に進路を選んでほしいわ」

 ティーカップを握る手。震えてる。

「士官学校なんて、家業と別すぎる」

 呟く。

「あなたがそんな重荷を背負うなんて…」

 不安が浮かぶ。母の瞳に。

 玲奈が目を輝かせる。

「お兄様、面白そうじゃないですか」

 でも——

 表情が曇る。

「危険じゃないの? 戦闘機とか」

 飛びついてくる。腕を掴む。

 小さな手が、震えてた。

「玲奈、お前は気楽でいいな……」

 苦笑。考え込む。

 士官学校への進学。高等部卒業後。

 つまり18歳から。

 士官学校4年。機種転換・部隊配備2年。実戦3年。

 27歳まで——

 ほとんど美樹さんと離れる。

 9年間。

 長すぎる。

 今15歳。高等部卒業まであと3年。

 その後の9年間——

 美樹さんの顔が浮かぶ。

 何て言えばいい?

「国のために9年間離れます」

 15歳の恋人に言える言葉じゃない。

 でも——

 彼女との未来を守るため。俺の手で技術を。

「少し考えさせてください」

 声が震えた。15歳らしく。

「……明日の朝まで時間をください」

 佐々木少将が頷く。父が見守る。

***

 部屋に戻る。窓辺。空を見上げる。

 スマホを手に取る。美樹さんの番号。

 でも——

 かけられない。指が、動かない。

 彼女の声が頭に響く。

『君の夢は私にとっても大事だよ』

 でも、9年も離れたら——

 その夢も薄れる?

 15歳の俺に、そんな長期間の約束を守れる?

 彼女を待たせていい?

 窓の外。夕陽が雲を赤く。

 転生の知識が疼く。管理者の声。

『歴史に影響を』

 この世界で何を成すべきか?

 彼女との婚約に恥じない成果を——

 いや、彼女と未来を守る技術を。

 でも、そのために9年も——

 本末転倒?

 胸が、熱くなる。

 前世の設計図が鮮明に。

 でも、迷いは消えない。


***


 翌朝。応接室に戻る。

 朝食が喉を通らなかった。緊張で。

 佐々木少将が待ってた。

「結論は?」

 深呼吸。手のひらに汗。ビショビショ。

「やります」

 声が、小さかった。

 自分でも驚くほど。

 佐々木少将の指が、震えた。かすかに。

「……続けてくれ」

「ただし、条件があります」

 高官の目が鋭くなる。

 もう一度深呼吸。震える声で——

「構築するAIシステムの……」

 言葉が詰まる。

「その、構想フェーズは、上杉グループの独占にしたいんです」

 15歳の交渉。生意気すぎる?

 でも、言わなければ。

「国内最大のITメーカーとして」

 続ける。必死に。

「これまでの技術を結集した形で」

 息を吸う。

「他社へのライセンス生産も技術供与も認めません」

 佐々木が顔を引きつらせる。一瞬。

「それは我々に譲歩を強いる提案だ」

 喉が渇く。声が掠れる。

「国防に貢献するなら、それだけの価値があります」

 ……たぶん。

「敵国のAIを超えるには、上杉グループの総力が必要です」

 畳み掛ける。

 佐々木少将の瞳が揺れる。

 副官が口を挟む。

「だが…」

「アメリカへの牽制にもなります」

 必死だった。15歳なりに。

「日本独自の技術として」

 部屋が静まり返る。

 心臓が、うるさい。

 手の震え。机の下で握りしめて隠す。

 佐々木少将が黙り込む。

 長い沈黙。永遠みたいに。

 やがて——

 かすかな笑み。頷く。

「確かに、その条件なら我々の目的も果たせる」

 続ける。

「若いが、交渉も心得ているようだ」

 そして——

「貴殿の提案、受け入れましょう」

 肩の力が抜ける。

 でも——

 安堵より不安。大きい。

 決まってしまった。9年間の道が。

 美樹さんに、どう説明しよう。


***


 その夜。家族が応接室に集まる。

 父が笑む。

「義之、佐々木少将の顔が引きつってたぞ」

 肩を叩く。

「15歳とは思えない交渉だった」

 続ける。

「だが、国防総省を動かすのは並大抵じゃない」

 瞳に誇りと心配。

「お前ならやれると信じてるよ」

 母が複雑な表情。

「あなたには自分の人生を守る力があるわ」

 目を潤ませる。

「大変な道だけど……」

 そして——

「でも、美樹さんはどう思うかしら」

 声が震える。

「高等部卒業後、9年も離れるなんて」

 胸が、痛んだ。

 母も同じ心配。

 玲奈が飛びついてくる。

「お兄様がAIで国を守るなんて、かっこよすぎる!」

 でも、すぐに——

 声が小さくなる。

「……でも、高等部卒業したら9年も会えないの?」

 俯く。

「美樹さんも寂しがるよ」

「わかってるよ」

 苦笑。窓の外を見る。

 明日、美樹さんに会いに行く。

 どんな顔をして。何を言えば。

「国のためです」

 格好いい言葉じゃ、彼女は納得しない。

「君を守るため」

 離れることの言い訳。

 今から高等部卒業まで3年。

 婚約も正式になるだろう。

 そして卒業後、9年間の別離。

 18歳から27歳まで。

 人生で一番大切な時期を、離れて過ごす。

 士官学校への進学。AI開発。

 簡単じゃない。

 でも、それ以上に——

 美樹さんとの関係をどう保つか。

 一番の難題。

 図書館で手を取ってくれた瞬間。

 庭園で「一緒に未来を創ろう」と言ってくれた日。

 思い出すたび、決意が揺らぐ。

「技術と責任だ」

 呟く。自分に言い聞かせる。

「選んだ道なら、貫くしかない」

 翌朝。机に向かう。

 構想フェーズの草案。書き始める。

 でも——

 ペンが止まる。

「美樹さんへの説明が、一番難しい」

 15歳の今。将来の9年間の別離を告げる。

 国防総省との交渉より、遥かに重い。

 胸を締め付ける重圧。

 歓喜より重い。

 いや——

 歓喜なんて、最初からなかったのかもしれない。


***


※1 構想フェーズ:システム開発の最初期段階。基本設計と要件定義を含む重要な工程。

※2 士官学校:将来の陸・海・空軍の士官を養成する教育機関。4年制の教育課程を経て、パイロットの場合は機種転換訓練を受ける。


ネットコン13挑戦中。締め切りは7/23 23:59まで。

最後まで全力で駆け抜けます。

★評価+ブクマが次回更新の励みになります!

(★1 とブクマ1で3pt加算 → 選考突破のカギです)

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