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第9話 あの憎らしい幼馴染に制裁を

「オーイ。ツクシー?」


 幼馴染からのメッセージにフリーズしていると、レイサに声をかけられてハッと我に返る。

 ダメだ。イライラし過ぎて思考が停止してしまった。

 心配そうな二人に、俺は苦笑いを浮かべる。


「腐れ縁の幼馴染から夕飯の催促が来たんだよ」

「あー、周サン? 最近あんま話してなかったのにネ」

「そうなんだよな。よくわからない奴だよ」


 あの日散々馬鹿にされた挙句、切り捨てられたもんだと思っていたのだが、急に連絡が来て俺も驚いている。

 だがしかし、別に言う事を聞く気もない。


「まぁ喧嘩中? みたいな感じなんだよ。だからこんな図々しいメッセージには……」

「「メッセージには?」」


 ごくりと喉を鳴らして構える二人。

 そんな二人に、俺は世にも恐ろしい制裁を口にした。


「無視だ。無視してやる」

「イヤ軽い!」


 ズコーッと前のめりになるレイサ。

 しかし、そんな反応をされるほどか?と疑問に思う。

 長年相手してくれていた格下判定の幼馴染にラインをスルーされるというのは、アイツ視点でかなり堪えそうなものだ。

 軽いと言われても、逆にこれ以上の制裁が分からない。


 首を傾げていると、凪咲が聞いてきた。


「ブロックとかはしないんですか?」

「なにそれ。そんなことできるの?」

「え?」


 凪咲に目を真ん丸に見開かれて、自分が何かおかしなことを聞いたのだと察した。

 俺は自慢じゃないが友達がいない。

 ラインは親との連絡用途でしか基本使わないのだ。

 そんな大層な機能を知る機会はなかった。

 

「っていうか、そんな事したら何かあった時困るだろ。因縁付けられそうだし」


 あの果子の事だ。

 自分の思い通りにならなかったら憤慨する気性のアイツが、俺如きに連絡先をブロックされたと知ったらどうなるか。

 家に不法侵入されて片っ端から教科書を捨てられそうだ。

 もっとも、そんなことになったら即通報だがな。


「じゃあ無視もマズいンじゃないノ? 幼馴染ってことは、家に帰ったりしたらその場で捕まえられそうだし」

「確かに。レイサさん頭良いな」

「……? もしかしてツクシーって結構抜けてる?」

「今更か?」


 俺は成績が良いだけで地頭はかなり悪い部類だ。

 だからこそ、果子に馬鹿にされたように一日に十何時間も勉強してあの成績まで落ちていた。

 効率が悪い上に理解力もない。

 基本的に俺の頭に柔軟性というものは皆無だからな。


 だがしかし、じゃあどうしたものか。

 あいつとは正直関わりたくないし、せっかく順調になってきた勉強の邪魔をされるのも困る。

 だからと言って有耶無耶に流すのも嫌だ。

 我ながら小っちゃいとは思うが、意趣返しをしたい。

 つけ上がらせないためにも、しっかり怒るところは怒った方が良いだろう。

 元はと言えばアイツから始めた問題だし。


 考え込む俺に、レイサは手を打つ。


「じゃあ今からウチ来る? それなら連絡無視してても大丈夫でしょ? どうせチョットしか勉強できてないからサ」

「え? 良いのか? レイサさんの家って」

「大丈夫だと思うよ。流石に親には連絡しないとダメだケド。ナギサも来るでしょ?」

「お邪魔じゃないんですか?」

「勉強会の続きするのにナギサがいなかったら意味ないじゃん。アタシはツクシーの勉強の役には立たないンだからサ」


 若干悲し気に言うレイサに、少し罪悪感を覚える。

 こうして凪咲と勉強を教え合う構図は、こいつなりに引け目を感じていたのかもしれない。


「では、お邪魔します」

「オッケ。宿泊予約二名様で承りマシタ!」


 言いながらスマホ片手に店を出て行くレイサ。

 その姿を見ながら俺は凪咲に聞く。


「良かったのか? なんか泊まりって話になってたけど、親とか心配しないか?」

「大丈夫ですよ。ここだけの話、うちの両親はあまり私には関心がないので」

「……なんか悪かった」

「いえ」


 昼休みに感じたものと同様の圧を感じ、俺は謝った。

 不思議なものである。

 こんな清楚可憐な美少女に興味が湧かないとは、一体どんな親なんだろう。

 というか、どんな家庭環境で育ったんだろう。

 物凄く凪咲の事が気になるが、流石に野暮なので聞くのはよした方が良さそうだ。


 変な間に、お互い気まずくなってくる。

 クソ、あんな質問しなければよかった。

 昼間にレイサに言われたが、俺はデリカシーというモノを早急に勉強しなければいけないらしい。

 と、凪咲がくすりと笑い出す。


「ふふ、ごめんなさい。気を遣わせましたね」

「い、いや俺が変なこと聞いたから」

「いいんですよ。それに、こうして放課後に友達と一緒に居られる事は新鮮で楽しいですから」


 そう言えばレイサと違って、凪咲はあまり他人とつるんでいるイメージがなかった。

 クラスが違うから詳細は知らなかったが、なんとなく高嶺の花って感じの印象が強かったのだ。

 もしかすると、凪咲も俺みたいに友達が少ないのかもしれない。

 やはり勉強とは孤独なのだろうか。


 なんて話していると、あっという間にレイサが帰ってきた。

 顔には満面の笑みを浮かべており、客がそれに見惚れるせいで視線を集めている。

 どこに居てもこの帰国子女は規格外の愛嬌だ。

 まぁここにいる間、同学の生徒からはずっと射殺さんばかりの睨みを俺が一身に受けていたが。


「大丈夫だっテ! じゃあ行こっか!」

「そうだな」


 頷きながら思う。

 あまり外で二人といるのも避けるべきだろうか。

 二人の人気が凄すぎて、どこに居ても噂になりかねない。


 あと、こんな所に長居していたら、通りすがりの幼馴染に見られてもおかしくない。

 この辺りは学校から近いし、アイツがフラフラ遊び歩いている可能性もある。

 早く逃げなければ。


 と、まるで鬼ごっこをしているような感覚で、つい笑ってしまう。

 

「枝野さん?」

「いや、なんでもない」


 きっかけは最悪だが、ひょんなことから訪れることになったお嬢様邸が楽しみだ。





【果子の視点】


「チッ! 即既読即返信が普通だったくせになんで反応ないのっ!?」


 筑紫に送ったメッセージに一向に既読が付かず、ウチは放課後に街を歩きながらイライラしていた。


 今日は李緒君から『勉強するから一緒にいられない』と言われたから、暇ができてしまっている。

 ウチとしては一緒にテスト勉強をしたかったけど、最近の焦った李緒君を見ているとわがままを言う気になれなかった。

 あと、そもそも李緒君は最近あんまりウチに勉強を教えてくれない。

 自分でやれと言わんばかりに、自分の勉強に夢中だ。

 ただ、それは別に良い。

 今日も授業中に超難問を完答していて、カッコよかった。

 それを見てコソコソ話す女子達を見るのも、優越感に浸れてサイコーの気分だったから。

 頭が良くてこそのウチの彼氏だもん。


 でもやっぱりウチも親との約束もあるし、成績は落とせない。

 だから渋々、腐れ縁のキモい無能ガリ勉に連絡してあげたのに。


「は? 無視とかありえないんだけど。最近やけに女に話しかけられてるからって、調子に乗ってそうでムカつく~」


 七村・F・レイサに加えて、今日は雨草凪咲とも話していたらしい。

 既に噂になっていて、聞いた時は驚いた。

 でもどうせ、今だけ。

 あんな雑魚、すぐに愛想尽かされて捨てられるに決まってる。

 その時の顔を想像するだけで笑いが止まらない。


 と、歩いている時だった。


「……は?」


 道路向かいを、男女三人組が走って行くのが見えた。

 全員特徴が分かりやすくてすぐに誰か分かった。

 七村・F・レイサと雨草凪咲と、そして今ウチの連絡を無視している幼馴染の枝野筑紫だ。


「……ウチの連絡は無視して、女とデート? ふーん」


 やけに楽しそうな顔で笑っていた筑紫の顔に目を細める。


「……調子に、乗りやがって」


 ウチは即行でスマホをタップし、アイツの連絡先をブロックした。

 そのまま奥歯を噛みしめた。

 やば。

 イライラし過ぎてどうにかなっちゃいそう。


「絶対コロすっ。二度とウチに舐めた態度取れないように調教してやるんだからぁ」


 まずはテストだ。

 李緒君がアイツに地獄を見せてくれるのが、今から楽しみ。


「あと何日その顔でいられるのかな? キャハッ! ざぁこざーーこ!」


 見えなくなった背中に、ウチはそう言ってあっかんべーした。

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