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第54話 幼馴染は見せつけられて絶望する

 幼馴染と二人並び、無言で綿菓子を食う意味不明な時間。

 周りが楽しそうにするから、そのせいで余計に俺達は浮いている。

 ……。

 

 はぁ、なんでこんな日にまでコイツと遭遇するんだろう。

 このだだっ広い敷地と大量の人がいる中、ピンポイントで果子とエンカウントするのはもはや逆に奇跡だ。

 せっかくの文化祭が台無しである。

 しかも前回変な別れ方をしたせいでめちゃくちゃ気まずい。

 もっとも、なぁなぁで済ませていたら今も鬼のようにだる絡みされていただろうから、その点は突き放しておいてよかったかもしれない。

 今日の果子は口は悪いが、大して話しかけてくるわけでもないからな。

 

 さっさと食べ終わらせて動こうと思った。

 と、そこで無言だった果子が口を開く。


「てかぼっちなの? 相変わらずあの二人以外は誰とも仲良くなれてないんだ。ださ」

「それはお前も一緒だろ」


 続けて「性格が悪いから友達ができないのか?」と聞こうとしたが、流石にそれはただの悪口なのでやめた。

 俺は別にコイツと口論したいわけじゃない。

 それに、言い返したら同じ土俵におりるのと同じだ。

 それだけは遠慮したいところだった。


 しかもこの幼馴染、何故か友達は一定数いる。

 性格が悪いと裏で男子達に言われていたのを、特に中学時代などで多く耳にしたがそれでも男子からは人気があったし、女子にハブられているようでもなかった。

 顔は良いしノリも悪くないし、なんだかんだ他人の悪口を言う事も時と場合によっては笑いの種だ。

 そういう意味で、案外友人関係は充実しているらしい。


 俺の言葉に果子はツインテールをかき上げながら自慢げに言う。


「別にウチは好きで一人でいるの。さっきなんか、男子に一緒に回ろうって誘われてたんだから。キャハハ、あんたなんかと一緒にされても困るんですけどー?」

「そうかよ。じゃあゴミ捨ててくるから、さようなら」


 無駄話を聞きながら綿菓子を爆速で食べ終え、ゴミをまとめる俺。

 すると、丁度同時に食べ終えていた果子は、そのゴミを俺に向けてきた。


「はい、これも捨ててきてー」

「……」


 コイツ、ナチュラルに使いっ走りにしようとしてきやがった。

 先月の事とは言え、アレだけの言い合いをした後でよくこんな態度を見せられるなと、もはや尊敬の念すら覚える。

 余程芯から俺の事を見下して生きていたのだろう。

 全く腹の立つ生き物だ。

 

 当然無視して歩き始めると、しばらくしてちょこちょこと隣をついてきた。


「わ、わかった。一緒に行くからちょっと待って」

「……なぁ、なんで話しかけてくる? ていうか一人で行けよ」


 俺の認識では、コイツは俺の事が嫌いだと明言していたはずだ。

 自分の成績を維持するための道具としてしか俺の事なんか見ておらず、しかもうちの母親含めて使い倒してくる傍若無人のわがまま女。

 そんな奴が、何の理由でこの楽しい文化祭で俺に話しかけてくるのか、正直意味が分からなかった。

 しかもコイツ、さっきは一人でいたいって言ってたし、矛盾しまくりである。

 なんだろう、まだ嫌がらせし足りないのだろうか。

 良いところにサンドバッグを見つけたから、憂さ晴らしをしようとしてる?


 というわけで聞くと、何故かショックを受けたような顔を向けられた。


「はぁ? 用がなきゃ話しかけちゃいけないの? ……模試の結果が出るまでは話しかけても別にいーんでしょ?」

「それはそうだけど」

「じゃあなんでそんな嫌味な聞き方してくんの? マジ萎えるわ」

「……もう好きにしてくれ」


 嫌味な聞き方になったのは、間違いなくコイツの日頃の行いのせいだ。

 だがしかし、邪険にできなかったのには理由がある。

 それは、俺に嫌味な聞き方をしたという自覚がなかったことだ。


 散々レイサやら凪咲にも注意されているが、俺はノンデリらしい。

 言葉足らずだし、そのせいで相手を勘違いさせてばかり。

 今回の果子の言葉もそういう過去の失敗と並べて考え、少し反省してしまったからこそ、あまり突き放す気になれなかった。

 コイツに対して謝ろうとかは思わないが、もう少し言葉は選ぼう。

 まぁ実際、普通に果子に対して嫌悪感しかないのは事実だ。


「勉強ばっかし過ぎだから一人なんじゃないの?」


 失礼なことを言われるが、正直ごもっともである。

 友達を作ろうとしていなかったというのは言い訳であり、シンプルに俺がこれまで人付き合いというコミュニケーションを軽視していただけだからな。

 愚かだったと自分でも思う。

 でも、じゃあどうすればよかったんだとも同時に思うのが辛いところだ。


「だってこれくらい勉強しないと、医者になれないから」

「そんなこと言って、ずっと成績下がってたじゃん。この前だって李緒君に英語の小テスト負けたんでしょ? 頑張って負けるなら意味なくない?」

「……お前がそう思うならいいよ別に。しかも、こんな俺にも友達出来たしな。レイサと凪咲がいるから楽しいよ最近は」

「っ!」


 二人の事を考えると、自然に口角が上がる。

 アイツら、今もクラスの仕事を頑張ってるのかな。

 そうだ、今度は俺からの提案で文化祭の打ち上げをやってもいいかもしれない。

 できることは限られるけど、二人を労いたいものだ。


「アイツらは凄いんだよ。レイサはコミュ力お化けで俺なんかとは正反対で、それでいてめちゃくちゃ気が利いて地頭も良くってさ。凪咲は若干考え込む癖もあるけど、なんでも器用にこなせてかつ頭がすこぶるいい。あんな人達と友達になれたの、奇跡だよなぁ」

「……惚気きっしょ。死ねよ」

「自分に言ってるのか? 夏に彼氏自慢してきた奴が何言ってんだ。それに惚気じゃない。別にあの二人とはただの友達……ではないか。大事な勉強仲間だよ」


 俺がこれまで浅い人間関係ばかり築いてきたせいもあるが、もう二人の存在はただの友達という枠組みを超えつつある。

 もっと大切で、互いを高められる仲だ。

 感謝してもしきれない。


 しかし、俺の言葉に果子は顔を引きつらせた。

 あぁそうか。

 そう言えばコイツ、アイツらの事をなんか嫌ってたもんな。

 

 そんなこんなで話しながら無事にゴミを捨て終えるが、何故か果子はついてくる。

 流石にこれ以上一緒に居たくもないため、どう切り上げるか考えなければならない。

 と、そんな時だった。

 果子が俺の制服を掴んで廊下を歩く女子を指す。


「あの人……」

「あ、偶然だな」


 そこにいたのは知り合いだった。

 見つけたのにスルーするのもアレなので、俺はそのまま進む。

 相手もそんな俺に気づいたらしく、苦笑しつつ反応してくれた。


「枝野君、この前ぶりだね」

「驚いたよ。山吉も来てくれてたのか」

「友達に誘われて、ね。まぁその子、他校の男子について行っちゃって帰ってこないんだけど」

「それは災難だ」


 私服姿でやって来ていたのは同じ中学の山吉文乃だった。

 この前凪咲と行った塾で会ったばかりなため、少し親近感がわく。

 

「枝野君は何組なの?」

「五組だよ。男装執事カフェってのをやってるから、よかったら行ってみてくれ。並ぶと思うけど」

「人気なんだね。……それそうと、一人?」

「は?」


 聞かれて目が点になった。

 だってさっきまで、俺の隣にはアイツがいたはずなんだから。

 というわけで後ろを振り返ると、果子は物陰に隠れるようにひっそりと佇んでいた。

 そして信じられないモノを見たような目つきで、俺と山吉を凝視している。


「あんた達、やっぱり――」


 果子は絶望したような顔で、そのまま口を開いた。

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