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第39話 学内人気屈指の美少女たちは険悪です

 ようやく拘束から解かれ、自由な放課後に入る。

 それにしても、本来勉強に使っていた時間がなんだかんだで30分くらい潰れてしまったが、どうしたものか。

 いつもは大抵レイサと一緒に学食の前辺りで、凪咲とテキトーに待ち合わせをしていた。

 ただ、こうも時間が遅れると凪咲は既に帰っている可能性もある。

 レイサの姿も見えないし、アイツも帰ったのかもしれない。


「つ、ツクシ!」


 しかし荷物をまとめて教室を出ると、廊下でレイサに呼び止められた。

 彼女はいつの間にか着替えを済ませており、既に普段の制服姿だ。

 と、苦笑しながら聞いてくる。


「ど、ドーだった? 執事服なんて、似合わないよネ?」

「いやめちゃくちゃ似合ってたけど」

「ッ! ……ま、まァアタシにかかれば何でも上手く着こなせるンだよネ」

「じゃあ何故不安そうに聞いてきた」


 意味の分からない態度に首を傾げた。

 女心とやらはやはりよくわからない。


「いいんじゃないか? 西穂さんも言ってたけど、普段お嬢様な奴が立場逆転してご奉仕するってコンセプトも良い。これは校内から色んな生徒が遊びに来そうだ」

「……アハハ、ソーダネ。ミカ、面白いコト言ってたネ」

「な、なんか俺変なこと言ったか?」


 妙な間の後、やけに圧を感じる物言いをするレイサ。

 知らないうちに気に障るようなことを言ったのだろうか。

 聞いてもレイサは含みのある変な笑みを浮かべるだけだ。


 ……何か地雷を踏んだのか?


 俺はひそかに冷や汗を浮かべる。

 女子の服を褒めるのがこんなに難しいとは思わなかった。


 これはまずい。

 またノンデリだと思われる。

 

 朝も思ったが、もう少しレイサと凪咲に優しくして挽回しなければ。

 いくら成績が良かろうと、二人に助けられまくっている現状。

 これではただの情けない奴である。

 もっと褒めるんだ……!

 

 黙って逡巡する俺を怪訝そうに見るレイサ。

 俺はそこで明るい笑みを向けた。


「いやぁでも、レイサは四肢が長くてモデル体型だから、男装もきっちり締まって決まってたよな。当日はそれに加えてウィッグだろ? 短髪レイサも気になるなー、きっと似合うんだろうなー。こりゃ当日は3組のメイド喫茶なんか相手にならないくらい、人気が出るんじゃないかー?」

「ウェッ?」


 最大限思ったことを褒めてみたところ、レイサは変な声を漏らした。

 表情は完全に引きつり、そのまま目を見開く。

 

「な、ナニソレ」

「……」


 完全に失敗した。

 焦る俺に、そっぽを向きながらレイサは言う。


「……無理に褒めようとシてるのバレバレなんですケド」

「いやいやいやいや! でも嘘じゃないから!」

「それならそれで着眼点がなんか変。なんなの、四肢が長いっテ。ま、まぁ悪い気はしないケド……」


 趣旨が完全にバレていて冷や汗が止まらなくなった。

 言ったことは本気で思っていることだが、それはそれとして無理に褒めようとしたのも事実だから決まりが悪い。

 くそ、どうしてこうなるんだ。

 俺はただ喜んでもらいたかっただけなのに。


 なんて思っていると、廊下から凪咲が歩いてきていたのが見えた。

 そしてそのまま、彼女はレイサを見て不機嫌そうに顔をしかめる。


「顔真っ赤ですよ、レイサさん。そんなに褒められたのが嬉しかったんですか?」

「ッ!? これは――!」


 聞いて安心した。

 てっきり俺の言葉にブチギレていたのかと思っていたが、気のせいだったらしい。

 素直に喜んでくれればよかったのに、顔を見せてくれないもんだから余計な心労で疲れた。


 と、凪咲はそのままレイサに詰め寄る。


「廊下でいちゃついて勉強会にはなかなか来ないところを見るに、随分余裕そうですね。私が教えた国語だけ60点だった七村・フレイザー・レイサさん?」

「ろ、61点ネ」

「筑紫君の慈悲による部分点誤差でしょう?」

「アンタ、いよいよ嫌味を隠そうともしなくなったネ。悪いと思ってるよ、あんなに時間をかけて教わったのにそんな点で」

「いえ別にそれはいいんです。頑張っていたのは知っていますよ。ただ……、普通にちょっとムカついてるだけです」

「ドコが”別にイイ”なのソレ」


 そう言えばこの前の模試ではレイサは数学と英語は7割を超えていたが、ほぼ凪咲が一人で教えていた国語だけは6割止まりだったっけ。

 正直、国語は一番成績を上げるのが難しい教科な気もする。

 だがしかし、それでも凪咲は不服らしい。

 ジト目でレイサを見続ける彼女は、意外と本気でショックを受けてそうだ。

 まぁ確かに、逆の立場で数学だけ点が上がっていなかったら俺も落ち込むだろうな。

 自分の教え方が悪いのかと疑心暗鬼にもなりそうだ。


 まぁただ、それはそれとして。

 やっぱりこいつら、なんか知らないところで仲悪くなってる。

 これは絶対俺の勘違いじゃない。


 レイサは溜息を吐いた。


「ナギサのせいじゃないって。だからまた、教えてくれる?」

「そ、そういうことなら、はい!」

「フヒッ、ちょろ過ぎでしょ」

「!? ……そんなこと言われても、二人共いつもの場所にいらっしゃらないので、教え方が悪くて愛想を尽かされたんじゃないかと実は不安で! 泣きそうだったんですからね!」

「ちょっと可愛いのやめてネ。ってかネガティブ過ぎでしょ。ダイジョーブ、アタシはともかくツクシはナギサを見捨てたりしないっテ」

「どさくさに紛れて一人で見捨てようとしてません?」

「気のせいでしょ」


 二人の茶番に付き合う生活も、すっかり慣れてきたところだ。

 勉強するには騒がしいが、どこぞの幼馴染にただ嫌がらせの妨害をされていたよりは遥かにマシ。

 なんなら、この二人には既に返し切れないほどの恩がある。

 いがみ合う二人を見るのだって、笑えるから楽しい。

 そもそも本気で喧嘩しているわけではないし。


 一通り言い合って落ち着いたところで、レイサと凪咲が俺に向き直る。

 そして眩い笑みを浮かべた。


「じゃァ今日も、勉強会シよ?」

「中間試験の対策ですね!」

「あぁ」


 俺は頷き、笑みを返す。

 日課となった勉強会。

 卒業まで絶えず、常に次のテストがある高校生にとってはそう簡単には切れない縁というわけだ。

 だがしかし、それはあくまで成績上位を狙うような人間ならばの話。


 俺は少し息を吸ってからレイサを見つめた。

 きょとんと視線を返してくるところに、口を開く。


「でもさ、その勉強会の話なんだけど」

「?」

「もう俺がレイサに勉強を教える必要、あるか?」

「――ェ?」


 蚊の鳴くような声が、レイサの口から漏れた。


 鮮やかな夕焼けが彼女の強張った表情に影を落とす。

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レイサかわいそう
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